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白の化身の異世界譚─人の道と神の道─  作者: 狐子
第一章【失われた記憶、異なった世界】
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六話【初めての依頼を受けてみよう(ソロ編)】

第一章【失われた記憶、異なった世界】

第六話【初めての依頼を受けてみよう(ソロ編)】


白が冒険者となった翌日の朝、白は冒険者ギルドに来ていた。

今日は珍しく白一人であり、ウィリルたちは一緒にいない。

せっかく冒険者になったんだからとウィリルたちに進められ、一人で依頼を受けに来たのだ。

ギルドの中に入った白は真っ直ぐに依頼掲示板へと向かう。

現在の白のランクは一番下のFであり、同ランクのFの依頼か、一つ上のEの依頼しか受けられない。

白はその二つのランクの依頼の掲示されたコーナーへと行き、依頼を吟味し始める。

やがて、白は一つの依頼を決定し、依頼書を取ろうと手を伸ばした。

...が、身長が足りず依頼書に手が届かない。

頑張って背伸びをして手を伸ばすが届きそうで届かない。

はたから見るととても微笑ましい光景なのだが、本人はいたって真面目である。

他にギルドの中にいた人たちもそんな白の様子を温かく見守るばかりで誰も手をかそうとはしない。

やがて無理だと諦め白が肩を下ろした直後、

「何をやっているのですか?」

「ほわっ!?」

突然後ろから声をかけられ、白が勢いよく振り返ると、。そこにはシリルが立っていた。

白が入って来た時には、シリルは受付にいた。

だが、依頼掲示板の前で悪戦苦闘する白を見かねて声をかけに来たのだろう。

「えっと、あの依頼を受けようと思ったんだけど、依頼書に手が届かなくて...」

白が指さした先はEランクの依頼掲示板で、『[討伐依頼]ゴブリン退治』と書かれた依頼書があった。

シリルはそれを聞くと呆れたようにため息をつく。

「ハクさん、昨日説明した際に依頼掲示板にある依頼書を持ってこれなくても、依頼番号を受付で伝えれば受注出来ると教えはずですが。また、それ以外でも他の冒険者の方にとってもらうなどの方法もあったと思いますが?」

「あっ...」

シリルの指摘に白は羞恥心で顔を赤くする。

それらの方法があったにも関わらず、白は一人で(・・・)頑張ろうと無駄な努力をしていたのだ。

シリルは白の指さしていた依頼を一瞥すると、踵を返す。

「依頼番号147050、討伐依頼ゴブリン退治ですね。受注処理をするので受付まで来てください」

シリルはそう言ってさっさと受付に戻っていってしまった。

白は慌ててシリルの後を追ってシリルの担当窓口へと向かう。

そんな白は気付かなかった、前を歩くシリルの口元に笑みが浮かんでいることを。

実はシリルも、依頼書を取ろうと悪戦苦闘する白の姿を微笑ましく思いながら見守っていたのだ。


白が受付に着くと、シリルは先程の依頼書を取り出しているところだった。

白はそのまま受付まで行くと、冒険者カードをシリルに渡す。

「討伐依頼、ゴブリン退治。受注登録が完了しました」

受け取った冒険者カードに魔道具で処理を施し、問題なく受注処理が完了したことを確認すると、シリルは白に冒険者カードを返却した。

「しかし、Eランクの討伐依頼ですが大丈夫ですか?ハクさんは依頼を受けること自体初めてでしょう?」

シリルのその疑問はもっともな疑問だ。

実際、白は昨日冒険者になったばかり、しかもそれ以前も魔物と戦ったことはない完璧な初心者。

ゴブリン自体は駆け出し冒険者が初めて受ける討伐依頼の対象としては定番だが、流石に登録したての新人冒険者が受けるような依頼ではない。

「大丈夫!...だと思います。ウィリルさんから初級魔法を教えてもらいましたし、教えてもらったもの以外の魔法もありますから」

それに、白自身ゴブリン退治の依頼を見た時にこの依頼を最初に受ける依頼にしようと考えていた。

記憶にある限り初めて襲われ、命を落としかけた相手。

あの時のゴブリンとは別個体だが、冒険者になる第一歩としては丁度いいだろうと白は思っていた。

「まあ大丈夫ならいいのですが」

「うん、きっと大丈夫だよ!」

「そうですか、ではご武運を」

シリルの言葉に頷いた白はギルドの入口へと歩いていく。


白を見送ったあと、シリルは誰にも聞こえないような小さな声で呟いた。

「無事に、帰ってきてくださいね。ハクさん」


ギルドを出て街も出た白は依頼書に書かれた依頼場所に来ていた。

そこには小さな洞窟があり、耳をすませれば洞窟の奥からゴブリンの声が聞こえてくる。

そう、この依頼はこの洞窟を巣としてすみついたゴブリンを討伐する依頼だ。

ゴブリンを仕留めた数に応じて討伐報酬が貰えるという、討伐依頼としてはありふれたタイプの依頼形式である。

白は依頼書を仕舞うと、腰に装備していた剣を鞘から抜いた。

この剣はガンツから貰ったもので、本来なら魔術師は杖を持つのだが、白は杖による補助が必要ないくらいの魔法適性がある。

だったら、武器を剣にすれば万一接近されてもある程度対処できるからいいだろう、という理由で持たされていた。

昨日の魔法の訓練のあと、軽くではあるがガンツに稽古をつけてもらっており、まだ拙くはあるが剣を持って戦うことも出来るだろう。

だが、別段接近されてもない今、まず使うのは魔法である。

白はゆっくりと洞窟の入口に近づくと、足元に落ちていた石を洞窟の中に向かって勢いよく蹴り飛ばした。

ぽーんと石は洞窟の中へと飛んでいき、壁に当たってカツンと音を響かせる。

「グギャ?」「 グギャッグギャッ」

石の音に反応したのだろう、洞窟の奥からゴブリンの声が聞こえ、そして声はどんどん近づいてくる。

白は洞窟の入口から少し距離をとると、洞窟の奥を注意深く見つめながら詠唱を始める。

「現し世にありし風の理よ、我が言の葉によりて形を成し、渦巻く刃の嵐となれ《鎌鼬》!」

白が昨日使えるようになった白だけが使える風魔法《鎌鼬》だ。

鎌鼬を発動すると、白の前に輪っかのような形でグルグルと回る風の刃が現れる。

そしてそのまま洞窟の入口を見つめることしばし、ついに洞窟の入口に二匹のゴブリンが現れた。

「いけ!」

ゴブリンの姿を目視した直後、白は鎌鼬を解き放つ。

解き放たれた鎌鼬は右側のゴブリン目掛けて一直線に突き進む。

「グギャッ!?」

自分に向かって高速で突き進む鎌鼬を視認したゴブリンは、慌てて左に跳んで回避する。

だが、迫り来る鎌鼬を避けきることができず、鎌鼬はゴブリン右の右肩へと命中する。

ゴブリン右の右肩に当たった鎌鼬は肩を切り裂く...だけに留まらず、右肩とその周囲をごっそりと切り裂き吹き飛ばす。

「うわ...えっぐい...」

白はその光景を見てそう呟く。

ゴブリンは右肩とその周囲を切り裂かれ、血飛沫を上げるとその場に倒れて痛みに苦しんでいる。

実はこの鎌鼬の魔法、飛距離に応じて威力が増すくせに、普通に発動して普通に撃ちだすと1mくらいしか進まない使えない魔法なのだ。

なのだが、発動後、時間をかけて追加の魔力を注ぎ込むことで飛距離を伸ばすことが出来るのだ。

自分の放った鎌鼬が起こしたその惨状に、相手が魔物とはいえ、慣れない白は不快感を催してもおかしくない。

だが、白は顔をしかめただけで割と平気なようだ。

しばらく暴れていたゴブリンだが、血を失いすぎたのだろう徐々に動きが鈍っていき、最終的に動かなくなった。

その光景を見続け、一匹目のゴブリンを倒したことに満足する白だが、相変わらず油断をせずにはいられないのだろうか。

一匹ゴブリンを仕留めることが出来たが、最初に入口に現れたゴブリンは二匹(・・)だ。

「グギャッ!」

「うわっ!」

突然真横で聞こえたゴブリンの声に慌ててそちらを見ると、ゴブリンが棍棒を横薙ぎに振るおうとしているところだった。

慌てて剣を盾のように構えて後ろに跳び退くが、ゴブリンが棍棒を振りきる方が早く、剣に思いっきりゴブリンの棍棒があたり、丁度後ろに跳んでいたのもあって白は後ろに勢いよく吹き飛ばされる。

「うわわわわわわ」

後ろへ跳んでいた事が幸いし、棍棒の一撃で大したダメージを負うことはなかったが、吹き飛ばされて地面に落ちると同時にゴロゴロと転がされることとなった。

「いったたた...、我奏でるは癒しの旋律、我が旋律は癒しとなりて傷つきしものに安らぎを与える《癒しのしらべ》」

しばらくしてようやく体が止まった白は、《癒しのしらべ》を発動しながら急いで立ち上がる。

すると、白の周囲から優しい旋律が奏でられ、白の体に出来た小さい擦り傷が治っていく。

この《癒しのしらべ》も白しか使えない魔法の一つで、周囲から聴いたものを癒す旋律が奏でれるという回復魔法だ。

そして、白は吹き飛ばされた自分を負ってきたゴブリンの振り下ろしを剣で受け止める。

「っつぅ!う、現し世にありし雷の理よ、我が身に宿りて瞬きの加速をなせ《雷身》!」

剣から伝わる衝撃に白は剣を取り落としそうになるが、どうにか棍棒を受け止める。

そして、そのまま棍棒で押し切ろうとしてくるのを辛うじて抑えながら《雷身》を発動する。

すると、パチッという音が鳴り、白の全身が一瞬発光した。

直後、白の体がぶれたかと思うと白の姿がその場から消え、急に相手のいなくなったゴブリンは勢いよく地面に棍棒を叩きつけ、体勢を崩す。

《雷身》も《鎌鼬》、《癒しのしらべ》と同じく白だけの魔法であり、全身に一瞬電気を流して自身の速度を一瞬だけ爆発的に向上させる雷魔法だ。

そして、その一瞬の加速の間に、白は剣に込める力を抜いて右に跳んでいた。

その結果、ゴブリンからしてみればいきなり白が消えて自分にかかっていた力も消えたこととなり、先程のようなことになったのだ。

そして、ゴブリンの左側面に移動した白は次の詠唱を始めていた。

「我が身に眠る魔力よ、火球となりて敵を撃ち抜け《ファイアーボール》!」

生成されたファイアーボールは、体勢を崩したゴブリンにたやすく命中して爆発し、その衝撃でゴブリンを白から離れた方向へと吹き飛ばす。

ゴブリンとの距離がそれなりにとれたことで、白はトドメの魔法の詠唱を始めた。

「現し世にありし風の理よ、我が言の葉によりて形を成し、渦巻く刃の嵐となれ《鎌鼬》!」

白がこの戦いで最初に使ったと同じ風魔法、《鎌鼬》。

生成された《鎌鼬》に、白は更に魔力を込めていく。

「いっけー!」

もう十分だと思える魔力を《鎌鼬》に込めた白は、吹き飛ばしたゴブリンに向けて《鎌鼬》を飛ばした。

放たれた《鎌鼬》は、進むごとに徐々に回転力を増しながらゴブリンへと向かっていく。

そして、体勢を立て直し、こちらへと駆け出そうとしていたゴブリンに命中すると、その体を真っ二つにした。

「ふぅ...」

ひとまず洞窟から出てきた二匹のゴブリンを仕留めた白は一息ついた。

まだ洞窟の奥にはゴブリンがいるかもしれないが、洞窟から出てきた二匹を仕留めた時点ですぐさま脅威となる相手は近くにはいない。

再び洞窟に向かう時には気を引き締める必要があるが、今は多少気を緩めていても問題ない。

そういうわけで一息ついた白だったが、現実はそう甘いものではなかった。

「グガァアアアアアアア!!」

突如、ゴブリンの洞窟からゴブリン?のものと思われる雄叫びが聞こえてくる。

その雄叫びは、ゴブリンの声と似てはいるものの、これまで遭遇したゴブリンの声よりも低く力強い。

白はすぐに気を引き締めて剣を構えるとゴブリンの洞窟に目を向ける。

「えっ...?あれって...」

白が視線を向けた先、ゴブリンの洞窟の前には一匹のゴブリンがいる。

そう、ゴブリンだ。

だが、そのゴブリンはただのゴブリンではなかった。

そのゴブリンのすぐそばには最初に倒したゴブリンの死体が転がっているのだが、遠目に見ても死体となったゴブリンに比べて、そのゴブリンは二倍近くの大きさがあるように見える。

それは、白がガンツたちに話だけは聞いていたゴブリン。

ハイ(・・)ゴブリンと呼ばれるゴブリンの上位個体だった。

ハイゴブリン、それはゴブリンの上位個体であり、わりと大きなゴブリンの群れで発生する個体だ。

その身長はゴブリンの倍近くあって体格もよく、当然ながらただのゴブリンより遥かに力強い。

それゆえに通常であれば、Cランク以上の討伐依頼の討伐となる魔物であり、ランクとしても実力としても初心者な白が戦えるような相手ではない。

白もまだ距離があって気付かれていないうちに逃げ出そうとした。

だが、白にとっては運の悪いことに、ここはあまり遮蔽物がない平原で、身を隠せるようなものがほとんど存在していない。

そんな開けた場所で気付かれずに済むわけもなく、恐らく仲間を殺した仇を探すためだろう。

周りを見回したハイゴブリンとバッチリ目が合った。

「............」「............」

しばらく無言で目を合わせている白とハイゴブリン。

「グゴア!」

「ひっ...!」

だが、そんな膠着状態が続くわけもなく、ハイゴブリンは短く吠えると棍棒を振り上げ白の方へと走ってくる。

白は即座にその場から走って逃げ出したい衝動に駆られるが、どう考えても走る速度はハイゴブリンの方が早く、逃げたところで追いつかれることは目に見えている。

「う、うう、現し世にありし風の理よ、我が言の葉によりて形を成し、渦巻く刃の嵐となれか、《鎌鼬》」

白は焦りながらも《鎌鼬》の詠唱をし、生成した《鎌鼬》に魔力を込めていく。

どんどんハイゴブリンが迫ってくるという恐怖に白は今すぐ《鎌鼬を》撃ち込みたい衝動に駆られる。

だが、すぐに撃っても大した飛距離が出ないことは明らかで、白は焦る気持ちを抑えて魔力を込めていった。

そして、先程ゴブリンを倒した時よりも更に多く魔力を込め、白は《鎌鼬》の発射準備を終える。

既にハイゴブリンとの距離はだいぶ近づいており、あと10秒もしないうちにハイゴブリンは白の元に来るだろう。

「いっけぇええ!」

完成した《鎌鼬》を、この1発で致命傷を与えてくれと儚い希望を抱きながらハイゴブリンへと飛ばす。

だが、

「避けられた!?」

回転速度を増しながら勢いよく迫り来る《鎌鼬》に対し、ハイゴブリンは横に跳んであっさりと回避してしまう。

自分の現状の最大威力の攻撃を回避された白は動揺するが、もうハイゴブリンはすぐそこまで迫っている。

今の白の手持ちの魔法ではこの距離でハイゴブリンの足を止められるようなものはない。

それゆえに白は、まずはハイゴブリンの攻撃を回避することを優先することにした。

「現し世にありし雷の理よ、我が身に宿りて瞬きの加速をなせ《雷身》」

白は素早く《雷身》の詠唱を終えるが、先程のようにパチッという音がするということがなければ、白の全身が一瞬光るということもない。

そして、ハイゴブリンが目の前まで迫り、棍棒を振り下ろそうとしたその瞬間。

パチッという音が鳴って白の体が一瞬発光し、その姿がぶれた。

そしてその直後、白めがけて棍棒が叩きつけられる。

が、既にそこに白の姿はなく、棍棒は勢いよく地面に叩きつけられることとなり、叩き付けられた棍棒を中心に土が飛び散った。

突然目標を見失ったハイゴブリン左右を見回すが、ハイゴブリンの視界に白の姿は入らない。

なぜなら、

「現し世にありし火の理よ、我が言の葉によりて形を成し、舞い踊る鳥となれ《火之鳥》!」

白は《雷身》による加速でハイゴブリンの後ろに回り込んでいたからだ。

白の詠唱の声に気付いたハイゴブリンは勢いよく振り返るが、その時には既に白の詠唱は完了している。

そして生成された《火之鳥》はハイゴブリン目掛けて飛んでいく。

それを認識したハイゴブリンは即座に横に跳んで《火之鳥》を回避する。

しかし、《火之鳥》は《ファイアーボール》のようにただ直進するだけの魔法ではない。

横に跳んだハイゴブリンを追って軌道を変え、ハイゴブリンの顔に衝突し爆発する。

今度は狙い通り《火之鳥》を命中させた白だが、この程度でハイゴブリンを倒せるとは思っていない。

《火之鳥》は自分で操ったり、追尾させたりことが出来る反面、その威力は《ファイアーボール》にも劣る。

《ファイアーボール》でゴブリンを倒せない以上、ゴブリンより強いハイゴブリンに《ファイアーボール》より威力の劣る《火之鳥》で大ダメージを与えられるわけがない。

だが、白の最大の攻撃である《鎌鼬》が避けられてしまう現状では、追尾性能のある《火之鳥》しかまともに攻撃できる手段とはなりえないのだ。

「現し世にありし火の理よ、我が言の葉によりて形を成し、舞い踊る鳥となれ《火之鳥》!」

それゆえに白はひたすらに《火之鳥》を発動し続けるしかなかった。

幸いにも非常に高い魔法適性を持つ白の魔力も高く、そう簡単に尽きることはない。

白は次々と《火之鳥》を生み出してはハイゴブリンに撃ち込んでいく。

もちろんハイゴブリンも反撃してくるのだが、《火之鳥》を徹底的に顔めがけて撃ち込むことで爆発によって視界を遮り、ギリギリのところでハイゴブリンの攻撃を避けれていた。

「う、現し世にありし火の理よ、我が言の葉によりて形を成し、舞い踊る鳥となれ《火之鳥》!...あれ?」

もう何度《火之鳥》を撃ち込んだだろうか、白は魔力的にはまだ全然問題ないのだが、ハイゴブリンの攻撃を避け続けているので体力的にきつくなってきた。

ハイゴブリンもそれなりにダメージを受けているのだが、まだ全然倒れる様子はない。

そろそろ弱気になりそうになってくる中、ふと白は《火之鳥》の詠唱時の感覚が変わっていることに気づいた。

これまでなら詠唱の間に徐々に魔力が高まっていき、魔法名まで唱えたところで完成する。

そんな感覚なのだが、今は唱え始めてすぐに完成しているような感覚に変わっていた。

「《火之鳥》!」

この場面で試すのは賭けに近い行為だが、白は魔法名《火之鳥》だけを唱える詠唱、省略詠唱を試してみた。

すると...

「よし、出来た!」

省略詠唱は成功し、《火之鳥》が生成されて撃ち出される。

《火之鳥》はしっかりと追尾しハイゴブリンの顔にあたって爆発し、ハイゴブリンの視界をしばし塞ぐ。

「これなら...!」

白は《火之鳥》の省略詠唱が可能になったことで、現状を打破できるかもしれない攻撃方法を思いついた。

「《火之鳥》!《火之鳥》!《火之鳥》!《火之鳥》!《火之鳥》!《火之鳥》!《火之鳥》!」

白は省略詠唱で何度も何度も繰り返し《火之鳥》を唱えていく。

生成された《火之鳥》は、一部はハイゴブリンへと飛んでいき、残りの大半はハイゴブリンの上を飛び回り始める。

そして、省略詠唱が可能になって攻撃感覚が短くなったことで、白はハイゴブリンから距離をとれるようになった。

「《火之鳥》!《火之鳥》!《火之鳥》!《火之鳥》!《火之鳥》!《火之鳥》!《火之鳥》!」

白は何度も何度も何度も何度も省略詠唱で《火之鳥》を唱え続け、気付けば空には大量の《火之鳥》が飛び回っていた。

「よし、このくらいあれば...」

そして、白が《火之鳥》を唱えることをやめると、ハイゴブリンは好機とばかりに一気に白に襲いかかろうとする。

しかし、ハイゴブリンは空に異様な気配を感じ、 立ち止まって上を見上げた。

そこには、大量の《火之鳥》が飛び回っており、その光景に思わずハイゴブリンは動きを止める。

そこへ、

「いっけぇええええええ!」

白の叫び声と同時に空を飛び回っていた《火之鳥》が一気にハイゴブリンへと襲いかかる。

だが、そこで黙ってやられるようなハイゴブリンではなかった。

目の前に迫り来る大量の《火之鳥》を前に、ハイゴブリンは手の中の棍棒を思いっきり投げつけた。

白めがけて(・・・・・)

「うわっ──」

慌てて回避しようとする白だが、渾身の一撃が決まったと思い油断しており、棍棒をモロにお腹にもらってしまう。

白は悲鳴や呻き声を上げることすらできず、勢いよく吹き飛ばされる。

それとほぼ同時にハイゴブリンに《火之鳥》が降り注ぎ、盛大に爆発した。


「ぐっがっ...ゴホッゴボッ」

棍棒が直撃した時の衝撃で一瞬気を失っていたのだろう。

全身に走る痛みで意識を取り戻した白は、痛みに呻き、口から血を吐き出した。

自分の状況が分からないが、少なくとも何本か骨が折れているだろう、臓器がやられているかもしれない。

せめて《癒しのしらべ》を唱えられればいいのだが、それすらままならない。

しかも予想はしていたが運の悪いことにハイゴブリンはまだ生きているようで、視界がぼやけててはっきりとは確認出来ないが、こちらに近づいてくるように見える。

白は前回ゴブリンに殺されかけた時よりも強く、自分の死をすぐ傍に感じていた。

(あぁ...僕はここで死ぬんだなぁ...)

もうそう遠くない未来、自分はハイゴブリンに殺されるだろう。

(まだ、死にたくないよ...)

自分ではそう思うのだが、体がまったく動いてくれない。

それでも、それでも死力を振り絞って、白は口を開き《癒しのしらべ》を唱えようとする。

そして、ようやく口が動いた時、紡ぎ出した呪文は《癒しのしらべ》ではなかった。

「我が神威によって命じる、神の雷をもって我が敵を討ち滅ぼせ《神鳴かんなり》」

白がその呪文を唱え終えた直後、辺りはゆっくりと暗くなっていき、大地が鳴動を始めた。

そして、凄まじい轟音が響き渡り、雷がハイゴブリンへと降り注いだ。

やがて、降り注ぐ雷が止むと、大地の鳴動は止まり、周囲は元通り明るくなっていく。

完全に周囲が明るさを取り戻した時、ハイゴブリンがいたところにはハイゴブリンの死体すらなく、ただハイゴブリンがいたはずの地面の惨状が先ほどの雷の威力を物語っていた。

「..................あれ?」

その様子をぼーっと見ていた白だったが、ふと自分の体から痛みが消えていることに気づく。

恐る恐る体に力を入れてみるが、やはり体に痛みはなく、むしろ重傷を負う前よりも体が軽くなったように感じていた。

「あの魔法は一体...?」

完全に傷が癒えていた白は、立ち上がると首を傾げる。

先ほどの瞬間、自分は《癒しのしらべ》を唱えようとしていた。

にも関わらず、まるで何かに導かれるかのように白の口は勝手に動き、先程の魔法《神鳴》を唱えたのだ。

先ほどの呪文は覚えているのでもう一度《神鳴》を使うことも出来るだろう。

だが、あの魔法はみだりに使ってはいけない。

そんな気がしていた。

いや、そんな気がしていたというよりも。

「まるで誰かと、約束でもしていたような...」

白はそう呟き、自分の言葉に首を傾げる。

少なくとも白自身のの思い出せる記憶の中にはそんな約束をした記憶はなかった。

だが、白が忘れているだけで、記憶を失うよりも昔にそんな約束をしていたのかもしれない。

とりあえず白は、この《神鳴》に関してはできる限りもう使わないように、そして、この《神鳴》のことはウィリルたちにも秘密にしておこうと決めた。

はい、というわけで今回は白君の本格的な?戦闘回でした!


本来、ハイゴブリンははぐれでD、ハイゴブリンのいる群れならC以上のランクの依頼となるのですが、今回はハイゴブリンは休息のために洞窟の奥から一切出てこなかったために気付かれず、単なるゴブリンの群れの討伐であるEランクの依頼となった形となります。


それにしても白君だけが使える魔法は、一般的な魔法に比べてちょっと効果が特殊なものが多いですね。


そして白が最後に使った驚異的な威力の魔法《神鳴》!

なぜ白はこんな魔法を使えるのか、白の忘れてしまった約束とは?

その秘密もいずれ明かされることと思います。


そして、次回の更新からは基本的には一日最大一話の更新で行こうと思います。

まあそもそも学校も始まって毎日更新できるか分からないので最初の宣言通り不定期更新になるとは思いますが、仮に一日に複数話かけても基本的には一日に一話までしか投稿しない感じで行こうと思います。


次回第七話、白君の《神鳴》がもたらした異変や轟音でトータスの街は大変なことになっており...?


というわけで、次の更新はいつになるかは分かりませんが、また次回の更新でお会いしましょう。


それでは、まったね~。

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