六話【愚か者の末路】
前回ので、ヒイナの父と母の名前を入れる前のを投稿してました!ごめんなさい!
その後、ヒイナとルリネの作った料理をご馳走になった白はあまり長居するのも悪いかと思いそろそろおいとましようかと考えていた。
だが、白が口を開こうとする前にエイルさんが口を開く。
「そういえば、ハクくんはこの街に来るのは初めてなんだよね?」
「記憶がなくなる前は分からないですけど、覚えている範囲では初めてです」
「ハクくんはしばらくこの街にいるんだよね?生活拠点とかはもう決めているのかい?」
「いえ、これからよさげな宿屋を探そうかと思ってます」
白がエイルさんの質問に答えていると、その質問でエイルさんとレイナさんがにやっといった感じの笑みを浮かべた。
「そうかそうか、ならハクくん、この街にいる間はこの家に住まないかい?」
「あら、それはいいわね、娘たちもハクさんに懐いているようだし、幸いにも部屋にも空いてる部屋はまだあるもの」
エイルさんとレイナさんの提案に白は一瞬固まる。
そんな提案をされるとは白は思ってもみなかったのだ。
「い、いえ、さすがにそれは…」
フリーズから回復した白は遠慮して断ろうとした。
しかし、
「迷惑をかけるとかそういうので遠慮してるのなら気にしなくていいよ、色々とお世話になったからね。それに娘たちも君がいると喜ぶだろう」
エイルさんは遠慮しなくていいと言ってくる。
「で、ですが...」
「まあハクくんが嫌だったり迷惑だと思うなら無理強いはしないけどね」
「いえ、むしろその提案はありがたいのですけど...しかし、」
「あら、ならいいじゃない。娘たち、特にヒイナがここまで人に懐くのはとても珍しいもの。ヒイナにルリネもハクさんがこの街にいる間、この家で暮らしてくれたら嬉しいわよね?」
レイナさんはそう言ってヒイナとルリネに話を振った。
当然、白にとても懐いている二人が喜ばないわけはなく、
「お兄さんがこの家に住むのです!?」
「そうなったらとても嬉しいです!」
目をキラキラと輝かせて白の方を見る。
結局、白は断りきれずにヒイナたちの家でお世話になることになった。
元々、提案自体はありがたいものではあったのだ。
流石にはいそうですかと頷けるほど白は図太くはなかったが。
だが、生活費とか食費はいらないというのだけはどうにか押し切って白はお世話になる間の費用として少なくない量のお金を渡す。
クリムゾンドラゴン戦の報酬でお金はそれなりに持っていたし、流石になんの対価もなしにお世話になり続けることは白には出来なかった。
なお余談だが、ヒイナとルリネは当然のようにそれぞれが自分の部屋を持っている。
そして白も空いている部屋を一室白専用の部屋としてあてがわれた。
当然のごとく白は一人で寝るはずだったのだが、夜、そろそろ就寝といった頃にヒイナとルリネがやってきて、白の部屋に泊まっていった。
翌日の朝、白はルリネと共に冒険者ギルドに来ていた。
白は、金銭的にはしばらく依頼を受けなくても問題ないほどの報酬金をトータスの街でもらっている。
しかし、だからといってだらだらと過ごす気にもなれない。
そこで白は、せっかくだからルリネの訓練も兼ねて手頃な依頼を受けに来ていた。
「どの討伐依頼がいいかなー、あまり相手が強すぎるとルリネが危なくて訓練にならないし...」
白は貼り出されている依頼を色々と眺めて吟味しながらそう呟く。
そう、今回はルリネの訓練が一番の目的であり、ちょうどいい手頃な相手を選ぶ必要があるのだ。
ちなみに、そのルリネは白と一緒に依頼に行けるというのが嬉しいのか、若干わくわくしながら依頼を選ぶ白を眺めている。
だが、依頼を選ぶ白の耳に不意に冒険者たちの声が聞こえてきた。
「しかしあれが噂の《龍滅姫》とやらか?クリムゾンドラゴン戦で大活躍したって噂だが、見た目はいいがその辺のガキの冒険者とそう大差なさそうじゃねえか」
「どうせあれだろ、見た目はいいからってクリムゾンドラゴン戦で神輿に担ぎあげられたお飾りだろ」
「はっ、あんなガキがAランク冒険者とか冒険者ギルドは何を考えてんだか」
「盗賊十数人を一瞬で倒したってのも怪しいもんだぜ、実際証拠はないそうじゃねえか」
どうやら、白の噂だけを聞いた馬鹿な冒険者が四人、憶測で好き勝手なことを言っているらしい。
わざと周りに聞こえるような声量で白を馬鹿にするようなことを騒ぎ散らしている。
当然白にもその言葉は届いているが、白は呆れたようにため息をつく。
実際、白は見た目からして強そうな冒険者ではないし、侮られることは予想していた。
あそこまで煽るようなことをしてくるのは想定外だが、どうせなにも知らない人の戯言だ。
相手にするだけバカバカしいと白は考えていた。
白はそう考えていたのだが、ルリネは我慢が出来なかったらしい。
好き勝手に白をバカにする冒険者たちを睨みつけ、その冒険者たちの元へと向こうとする。
だが、その前にルリネの様子に気付いた白におさえられた。
「こらこら、ルリネ。何をするつもり?」
「あの好き勝手なこといってる冒険者たちをぶっ殺すの!ハク兄のことを何も知らないで好き勝手なことばっかり!」
ルリネのその言葉に白はあちゃーと言ったような顔をする。
白自身は馬鹿にされても相手にする気もなかったのだが、ルリネはそう思わないらしい。
また、恐らくヒイナも突っかかっていくだろう。
しかし相手は一応は大人の男であり、体格もそれなりにがっしりしている。
下手にルリネやヒイナがつっかかったら危険な目にあってもおかしくない。
白自身よりもルリネやヒイナの安全のためにも、ああいった輩には一度痛い目を見させる必要があるかもしれない。
「わざわざルリネがそんなことをする必要は無いよ。僕にちょっと考えがあるからさ、今は落ち着いて、ね?」
白は依頼を選ぶことをやめ、そう言ってルリネの頭を撫でる。
白が頭を撫で始めてから少しすると、不機嫌そうだったルリネは頬を緩めていた。
ルリネを落ち着かせた白は、ルリネの手を引いて受付へと向かう。
受付に行くと、昨日と同じ受付嬢が申し訳なさそうか顔で応対してくれた。
「すみません、ハク様。ちょっと頭の足りないバカがいるようで...」
受付嬢は白たちだけに聞こえる程度の小声でそう言うと頭を下げる。
ちなみに、後で知ったのだが、あの冒険者たちはBランク冒険者で、それなりに高ランクの冒険者であるため無闇にギルド側から介入しにくかったそうだ。
「いえ、まあ侮られてもおかしくはない見た目なのは把握してますから。でも、流石に侮られたままってのは面倒なので、ちょっと考えていることがあるんですけど」
白はそう言って声を落とし、受付嬢に自分の案を伝える。
興味深そうに聞いていた受付嬢だったが、白の案を聞き黒い笑みを浮かべた。
「一応ギルドマスターには打診しますが、恐らくこの案は通ると思います。でも本当にいいんですか?」
「ええ、多分これでああいう輩はいなくなると思いますし、何より手っ取り早くて楽なので」
「分かりました、では準備はこちらで進めておきます」
白と受付嬢は人の悪そうな笑みを浮かべて話を終える。
受付嬢はほぼ正確にクリムゾンドラゴン戦のことを把握しており、それゆえにあの馬鹿な冒険者の言動にはイライラしていたのだ。
話をまとめ終えた白は、結局何の依頼も受けずに冒険者ギルドを後にする。
そして、冒険者ギルドを出て家へと向かう途中で気になって仕方が無いと言った様子でルリネが白に質問をした。
「ねえハク兄、さっき受付嬢さんと何話してたの?あのムカつく冒険者たちに関することだったみたいだけど」
「ん?ああ、まあちょっとしたイベントがてらああいう冒険者を叩きのめしておこうかと思ってね。あの冒険者をほっといたらルリネとかヒイナが突っかかって危なさそうだし」
「ちょっとしたイベント?」
「うん、まあ多分今日中には準備してくれるだろうし、明日になってからお楽しみかな」
白はルリネにそう言うと、結局その日はそのまま家へと戻った。
ちなみに、余談ではあるがルリネがヒイナに冒険者ギルドでのことを話すと、案の定ヒイナも怒っていた。
翌日の朝、白のもとを受付嬢が訪ねてきた。
訪ねてきた受付嬢に対し、白はもちろんのこと、なにをするのか興味津々といった様子のヒイナとルリネも同席する。
「ハク様、朝から失礼します。昨日お話していた件についての準備が問題なく完了しましたのでお伝えに参りました」
受付嬢はそう言うと一枚のチラシを取り出して白に渡した。
白は受け取ったチラシを確認し、そして左右からヒイナとルリネがチラシをのぞき込む。
「闘技イベント...?」
「《龍滅姫》ハクVS冒険者集団、《龍滅姫》の実力を見よ?」
チラシに書かれていることを読んだヒイナとルリネは一瞬首をかしげ、それからハッとした様子で白を見る。
「そ、闘技イベントだよ。昨日のあの冒険者を含めた腕自慢の冒険者有志と僕が戦うっていうイベントさ」
そう、白が昨日受付嬢と企画していたのはこれだ。
白のことを侮る冒険者を集め、闘技イベントを開催してそこで叩き潰す。
白の実力を馬鹿な冒険者にわからせ、さらにイベントとすることで娯楽にもなる一石二鳥な企画だ。
ちなみに、開催は今日の午後からであり、昨日の今日での冒険者ギルドの仕事の早さには感心させられる。
「じゃあじゃあ、ここでハク兄さまの勇姿がみられるんです?」
「うん、そうだよ。この街の闘技場で行うらしいから観戦もできるはずだよ、ね?」
白が受付嬢に確認するように聞くと、受付嬢は当然といったように頷く。
「今回、ルリネ様、ヒイナ様、そしてヒイナ様のご両親には特別席を用意しましたので存分にハク様の戦いをご覧になれますよ」
受付嬢の言葉にルリネとヒイナは目を輝かせる。
「ハク兄の戦い!すっごく楽しみ!」
「ハク兄さまの勇姿、楽しみです!」
ルリネとヒイナの様子に微笑んだ受付嬢は、封筒を一つ取り出してヒイナに渡す。
「この中に特別観戦券が入っていますので、これを持って受付にいけば特別席に通してもらえますよ。では私はこれで」
受付嬢はそう言って一礼すると帰っていく。
後にはとても興奮しているルリネとヒイナ、そしてその様子を楽しそうに見つめる白が残された。
そして、ついに闘技イベントの開幕の時間となった。
白は控え室で闘技戦が始まるのを待っている。
とても落ち着いた様子であり、緊張のそぶりはない。
まあそもそも緊張するほどの相手ではないのだが。
ちなみに、参加者はあの四人に加えて他にもBランクの冒険者が三人とAランク冒険者が一人いるらしい。
Aランク冒険者は、流石にBランク勢があっさりと倒されると面白味に欠けるだろうということでギルドからの依頼で参加した冒険者であり、白をどうこうという意思はなかった。
そして、ついに闘技イベントのメイン、闘技戦の時間が訪れる。
スタッフに促されて舞台に出ると、白の位置から対極の場所に八人の冒険者が立っていた。
八人のうち、この前冒険者ギルドにいた馬鹿な冒険者は既に勝利を確信しているのか、獰猛な笑みを浮かべている。
『さあこれより始まりますは本日のメインイベント!Bランク七人、Aランク一人の計八人の冒険者VS《龍滅姫》ホシガミ ハクさんの試合です!《龍滅姫》の二つ名を持つホシガミ ハクさんのランクはA!果たして八人の冒険者相手にどのような戦いをするのか!それでは闘技戦...はじめ!』
やけにハイテンションな司会の開始の合図とともに闘技戦が始まった。
「現し世にありし星の理よ、我が言の葉によりて形を成し、星を雨とし降り注げ《星ノ雨》」
闘技戦の開始と同時、白は右手を天に掲げ、以前に盗賊への脅しで使った《星ノ雨》の詠唱を始める。
対戦相手の冒険者に魔術師や弓士はいないのか、皆一斉に白のもとを目指して走っている。
だが、当然白の魔法完成の方がはやい。
相手の冒険者が半分も進まないうちに《星ノ雨》詠唱は完成した。
詠唱を完成させた白は、掲げていた手を振り下ろす。
直後、空から無数の隕石が冒険者たち目掛けて降り注ぐ。
威力は落としてはあるが、十分な落下速度で落ちてきた無数の隕石は、冒険者に直撃することこそなかったが、地面に激突したその余波で冒険者たちを吹き飛ばす。
やがて降り注ぐ隕石が止んだ時、闘技場の地面はクレーターだらけで荒れ果て、Bランク冒険者は全員吹き飛ばされてあちこちに転がっていた。
その異常な光景に自分が喧嘩を売った相手の危険性を悟ったのだろう。
ギルドで好き勝手騒いだ冒険者は真っ青な顔で口をぱくぱくとしている。
白を除いて唯一立っているAランク冒険者でさえ目の前の光景に絶句していた。
そう、酒場で騒いでいた馬鹿な冒険者は知る由もない事であったが、白はクリムゾンドラゴン戦で大活躍した、というのは間違いではないが正しくない。
正確には白は、クリムゾンドラゴンをほぼ単独で討伐したのだ。
様々な手続きの関係で白はAランク止まりではあるが、実際には白はSランクでもおかしくないだけの実力はある。
たかがBランク程度の冒険者が適う相手ではないのだ。
すっかりBランクの冒険者は戦意を喪失していたが、白は最後の一押しをBランク冒険者へと行う。
白が両腕につけた籠手に魔力を流し込むと、流し込まれた魔力に反応して真紅の炎で作られた爪が篭手から伸びる。
そう、この篭手は魔力によって真紅炎の爪を作ることができるのだ。
だが、当然白はそれだけでは終わらない。
「現し世にありし雷の理よ、我が身に宿りて雷の如き早さを我に《纏雷》」
白の固有雷魔法《纏雷》、白がよく使っていた《雷身》の上位の魔法で、瞬間的な速度では《雷身》に劣るが、《雷身》よりも持続的な加速を行うことが出来た。
《纏雷》の力で加速した白は、あたかも雷に変貌したかのような速度で闘技場を駆ける。
そして、冒険者ギルドで白を馬鹿にしていた四人の顔のすぐ横の地面を真紅の炎の爪で切り裂く。
切り裂かれた地面はその熱量で赤く染まっており、恐怖心に耐えられなかったのか四人はそのまま気を失う。
四人の愚かな冒険者を気絶させた白は、他の三人には目もくれずにAランク冒険者の方を向く。
だが、先程までAランク冒険者のいたはずのそこには誰もいない。
Aランク冒険者を見失い一瞬固まる白だったが、すぐにAランク冒険者の居場所は知れた。
白がAランク冒険者を見失った直後、白の頭上に影がさす。
白が頭上を仰ぎみると、大跳躍をしたのだろう、上空ではAランク冒険者が剣を大上段に振り上げていた。
そして、Aランク冒険者は、
「《エアステップ》」
省略詠唱で中級風魔法《エアステップ》を発動する。
《エアステップ》とは、空中に一回限りの空気の足場を作り出す魔法だ。
普通なら空中での移動に用いる魔法をAランク冒険者は、
「はぁっ!」
勢いよく蹴って空中で縦に回転しながら落下してくる。
攻撃方法としては奇抜ではあるが、落下の速度はかなり早く、回避しても間に合うかは怪しい。
更に回転することによって恐らく攻撃の威力も高めているのであろう。
恐らくAランク冒険者の必殺技ともいうべき技を前に白は、
「《白狐化》」
切り札の一つ、《白狐化》を発動した。
直後、白の体に狐耳と尻尾が生える。
そして、もうすぐそこにまで迫る斬撃を前に、白は無詠唱で《雷身》を発動した。
パチっという音が響き、瞬間的に加速した白は《白狐化》と《雷身》により強化された動体視力と反射神経を最大限に利用し、
パシッ
目の前に振り下ろされた剣を片手で掴んで止めた。
「なっ!?」
そう、にわかには信じがたいことだが、白は高速で回転しながら襲ってくる剣を平然と掴んで止めたのだ。
回転を止められ、まるで剣を白に振り下ろしているような体制でピタッと止められたAランク冒険者は驚愕の声を上げる。
だが、それよりもそもそもそんな不安定な体制で体を支えられるわけもなく、Aランク冒険者はその場に落下した。
そして、白はいつの間にか取り出していた神刀・朧狐をAランク冒険者の首に添える。
「まだ続けますか?」
「いや、完敗だ。降参しよう」
Aランク冒険者はそう告げると、両手をあげてポーズでも降参を示す。
それを確認した白は、神刀・朧狐を鞘に納めて《白狐化》を解いた。
その直後、
『Aランク冒険者が降参、他の冒険者たちも降参、勝者は《龍滅姫》ホシガミ ハクだ!!!』
司会者が勝者を告げ、闘技場は大歓声に包まれた。
こうして、愚かな冒険者たちに端を発する闘技イベントは幕を閉じる。
なお、この闘技イベント以降、白はクリネイトの街のすべての冒険者に恐れられるようになった。
その結果、喧嘩を売るような発言をする冒険者はクリネイトの街には一人もいなくなり、別の地域から来た冒険者が白を侮るような発言をすると、即座に他の冒険者がその冒険者に教育をするようになった。
また、白には《龍滅姫》に加え、新たに《狐の白巫女》という二つ名が付けられたという。