4 外は普通だった
かーさまに【認識】君した時の妙な気配、とーさまからも感じるようになったよ。かーさま>>とーさま>イリアさんの順に強く感じる。て言うか、自分が一番強く感じるのはどうしてなんだか。離れている距離が関係しているのかなと思って、かーさまに触れてみたり離れてみたりしながら【認識】君。確かに近いほうが強く感じるのは間違いないけど、かーさま>>とーさま>イリアさんの順に強さが変わる意味がわからない。
仮定1 感じるのは愛情?
推測 とーさまはかーさまと比べて、あたしの事があまり大事じゃない?
とーさまは別の場所でお仕事しているらしくて週に一~二回我が家に帰って来るんだけど、もうあたしの事が大事で大事で、べたべたしてばかりなの。ずっと膝の上に乗せたり、あれであたしを大事にしてないとか愛してないとかだったら他の父親はどうするんだって位に見えるからねぇ。
うーん、愛情度をグラフ化とか数値化とか出来ればいいんだけどそんな事出来る訳無いし検証不能だわ。
仮定2 感じるのは魔力?みたいなもの?
推測 かーさまは治癒らしき魔法?が使えるみたいだから、魔力?みたいなものが強くても不思議じゃないかもしれない。でも魔力ってこんな風に感じれるものなのかしら?そもそも魔法と言うものがこの世界に在る、認識されている現象なのかすらはっきりとはわからないのよね。そうだ、判っていそうな相手に聞いてみよう。
「かーさま?」いすに座ってお洗濯した服を畳んでいる傍へと拙く歩いていって、足に掴まるようにして顔を見上ながらあたしは訊ねたわ。
「なあに?」
「んとね、メアリが口いたいになった時、かーさま、いたく無いにしてくれたの、なあに?」判っている単語で何とか、かーさまに質問。
「ん?ああ、メアリーちゃんが転んで唇切った時の事ね。」こくこくとあたしは頷いてみる。
「椅子から落ちちゃったんでしょう?吃驚したわ。お顔が血で真っ赤になってたんだから。※☆☆してあげたんだけど、しばらく痛かったの?」
単語の意味が判らないのが辛いわ。※☆☆って、なんですかそれ。それが魔法なの?・・・って、やっぱり魔法があるのかしら。ここは追求せねばいかん。
「※☆☆?いたく無いになる?」きっと目がきらきらしていたに違いない。自分では見えないけどね。
「※☆☆の☆▽を唱えたのよ、直れ直れって」
☆▽・・・呪文?・・・・・・やはり魔法があると考えてよさそう。
「なおれ、とーさまもイリアさんも?」かーさまに向かって首を傾げてみる。もちろん質問って事だ、この辺のボディランゲージは得意になって来た。なんせ語彙が少ないからねぇ。
「おとうさんとイリアちゃんはあまり出来ないかな。おかあさんは※☆で◇☆って、他の人より力があったから比較的使えるけど。メアリーちゃんが生まれる前は△○とかで★※した人の□○していたのよ」
うう、わからない単語が多い。何度もかーさまを質問攻めにしてやっとわかった事。
1.学校がある。魔法を教えてくれる。もちろん魔法じゃない勉強も教えてくれる。
2.治療院という病院みたいな所がある。怪我をした人の手当をする場所である。かーさまが働いていた事がある。
3.かーさまは治療・回復みたいな魔法が使える。他の人より魔法の力が強いらしい。
4.魔法を使うには魔力が必要である。人によって、使える魔力量(?)は違う。かーさまは多いほうだ。
ふむふむ、大体予想通りだったわ。まあ、ここまで聞き出すのにえらい時間がかかったのは置いておいて。だって質問するにも魔法とか治療とか学校とか勉強って言葉すら知らなかったんだから。頭の中に辞書みたいなのを作って、パズルかクロスワードみたいに組み立てながら話すのって、意外と大変なのよ。
さて、判った事から結論付けると、仮定2が正しいってことになるのよね。そう、あたしは魔力を感じることが出来るって事。かーさまに聞いてみたら、そんな事が出来る人はほとんど居ないらしい。もちろんあたしが出来るって事なんて言ってないよ。大事になったら嫌だもの。
この力、【認識】君じゃ無くって、【魔力探知】さんとでもしましょうか。かーさまに【魔力探知】さんをしたらなんだか暖かい感じがして、安心感があるのもわかったの。なんとなくうれしくなった、見守ってくれてるんだなぁって。
これも【認識】君と同じ様に回数を重ねる程力が強くなるのかしら。やってる見る価値がありそうね。
当然、その日から【魔力探知】さんが日課の仲間入りよ。
お天気の良い日、かーさまがお散歩に連れて行ってくれる事になった。
「メアリーちゃん、お散歩してみる?」
家から出た事が無い訳じゃ無い。家の中に閉じこもってばかりの引きこもりっ子じゃ無いんだから、開けてもらったドアから外に出てお家の周りを歩いてみた事くらい有るよ。でもかーさまのお散歩って、なんかもっと遠いところへ連れてってくれそうで、うんうんと同意してしまうよ。
「いきたい」
外・・・遠いところ・・・期待に胸をときめかせながら勝手にドアの方へ行って、かーさまを待ったわ。かーさまは仕方ないわねえこの子はって風にあたしを見ながらドアを開けて、手をつないで二人で外へと。ドアの向こうは2段ほどの階段になっていて、あたしはぴょんぴょんと跳ねる様に飛び降りちゃう。だって、うれしいんだもん。
家の前は踏み固められた道路。舗装されているとか石が敷き詰められている訳でも無い。所々に草が生えてる。とりあえず【認識】君の出番だ。「1年草。被子植物。キク科。たんぽぽ。薬草。飲用に適」うあっ、タンポポみたいだと思ったら、タンポポそのものだったわ。こっちのはどうかしら「1年草。被子植物。キク科。オオバコ。薬草。」そ、そうよね、漢方薬に、するわよねぇ。こんな調子で目に入った周りのものに【認識】君を掛け放題。
30メートルくらい離れて建っているお隣の家に差し掛かると、人の気配がする。家の横にある畑で野菜を作っているらしい。
野菜に【認識】君をかけてみた結果はかぼちゃの一種、きゅうりの一種、トマトの一種、とうもろこしの一種などだった。しごく普通で拍子抜けしたけど、まあ野菜として食べるものだから元の世界とあまり変わらなくてもさほど不思議は無いかもしれない。
道路の方へ出てきたおじさん、【魔力探知】さんの出番です。とーさまと同じくらいかなあ。
かーさまがご挨拶してたら、「かわいいお嬢ちゃんにあげる」と小さな果物を貰ってしまった。
もちろん【認識】君。「被子植物。バラ科フユイチゴ。食用。甘味、酸味」た、食べれるわよね、食用だし、小さい子にくれたんだし。若干の不安を抱きながらも一つを口の中へと。甘さが広がるけどちょっと酸っぱい。思わず顔が歪んでしまうったけど、仕方ないわよ。
「ははっ、子供には酸っぱかったかな」
おい、そういうのは食べる前に言ってほしいわ。
ぽかぽかと太陽の光の中をかーさまと手を繋いでご近所さんを一回り。小さな足が疲れ始めた頃に我が家に戻ってきました。今日は長いこと歩いたのでバタンキュー。ぐっすりと寝てしまって、翌朝お布団が冷たかったのは・・・ご近所には内緒にしておいてね。