初界穿の翼 5
12月24日。寒空の下、イルミネーションを輝かせて彩られる街──はそこには無かった。
四海臨空のゼフトクリューゲルの再現と、それによる被害。水面下で活動していたネストの存在が世に知れ渡り、記者会見と復興事業が以前滅びた街の地の上でされていた。
「ですから、影と言うものは新種のエネルギーでして、特定の人のみが扱うことのできる才能のようなものでありまして──」
「ですからその才能を独占し、内密にし、ネストは何をしようと目論んでいたのでしょうか?」
「何も目論んで居ません! 私たちはこれらの力が悪用されない様に管理をし、また月影と呼ばれる特異的な存在の討伐を主として活動しておりました」
「悪用? 政治家のボディガードとして人員の貸出をしていたことは、一種の悪用なのでは?」
「命を守ることは我々としての、いえ、人としての当たり前のことです!」
ノイズ混じりのラジオからは、ネスト上層部の人間がマスコミからの質問に答えるやりとりがされていた。
「アホだなやっぱ。上は馬鹿だ」
仮設住宅が並ぶ中で、医療と月影の迎撃を任されるネストの人員。その一人の金髪の少女が湯気を立てるカップ片手にそう言った。
四海臨空が再び街に姿を表した『あの日』──その日から時が経つにも、人々は街を、故郷を失う衝撃から立ち直ることはできないでいた。小さな寒い独房の中で、身を寄せ合い何かが終わるその時を待っていた。
「アホ?」
「頭が悪いってことだ」
「いやまあそれは知ってるけど」
「じゃあ何だよ」
「上の人ってのは、どう答えれば正解なのかなって」
「……」
足を組んで腰掛ける金髪の少女は、横の壁に据え置かれている鉄塊を撫でながら唸った。
「記者もアホだからどうしようもない」
「……そっか」
その突如のことだ。出入り口を開け、重い金属会が軋み合う音を立ててある人物が入ってきた。
「来灯丸。先輩からの通達だ」
「先輩? ああ、桃城レンカの」
「つまらんことを言うな。元はお前の上に立って指揮をとっていた人だろう」
大柄で屈強な体つきの男。顔には苦難が刻み込まれたかのように更けた風貌ではあるが、十代だ。
「あ! 鬼道!」
「ああ。あ、いや、これはお前にも関係があるな」
咳払いをして、その男鬼道ムサシは身震いを抑えながら封筒を取り出した。
「ここから十数キロ東にある一帯だな。かつて『高層区A-』があったそこに、特異的な影の信号が出た」
「影?」
来灯丸は小首を傾げて細い金髪を揺らした。
「ああ月影って感じでも無いが、人間でも無いらしい。影の波長が異質だと彼は言っていた」
「彼──コグネか」
「あの人は優秀ではあるが野放しはできない。今は本部で監視され、こき使われているが、まあそんなわけで、影が確認された以上我々も出なくちゃならない」
「今からか?」
「規則性があるということだ。今夜の午後三時程にまた現れるとのことで、ソレに間に合う様にバギーに乗って向かう」
「私らが離れれば住人を守るのは?」
「δ-12が来るとのことだ。彼らだって式宮ラウドの行方不明を悔やんでいる。出来る限りこの区域に力を貸すと言っている」
「そう、か」
私は休むぞ、と吐き捨てて来灯丸は鉄塊を担ぎ上げて奥の寝床へ向かった。『あの日』以降誰かを切らない様にと言って、肌身離さず愛刀『雷刀牙』を抱いては寝息を立てている。
「お前はどうするんだ?」
鬼道の問いかけに、コーヒーを啜る少女は答える。
「待つよ。その時間をここで」
「そうか」
コーヒーを傾ければ、その軽さに小首を傾げる。中身を見れば底が見えているのを確認し、少女はとてとてと席を立ってサーバーの前に立ち蒸気を立てる液体を並々と注いだ。




