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影使いの街  作者: やぎざ
第四章 欲の写身
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欲の写身 16

 夜の街を駆け抜ける黒衣の少女は吠える。


 「エステライト! 糸吊ブラックラスプの野郎らは何処だァ!?」

 『そこからだったら東に数十メートル行った所に3人居る……』

 「了解」


 細い金髪を靡かせ、鉄塊を引きずり跳躍し建造物の外壁を踏みしめる。その次の瞬間には瓦礫を巻き上げて上空まで跳ね上がり、屋上に着地。配管を踏み潰したことを気にもとめず駈け出し、鉄柵の奥へと飛び出した。


 「この真下だな? エステライトォ!」

 『ああ……確かに反応はそこに』

 「行くぞ! 雷刀牙ァ!」


 落雷の如く直下する金髪の少女、来灯丸。


 『まて!』


 耳骨内蔵インカムでエステライトのノイズ混じりの声が響いた時には遅かった。

 黒衣を纏う少年に、来灯丸の握る鉄塊が貫通し血しぶきを上げた。


 「来灯丸ッ! 貴様、このタイミングで寝返るとでも言うのかッ!?」


 引き裂かれた少年と同じよう、外套を纏う少年少女ら数人が困惑したような、怒りに身を任せたような怒声を上げた。

 肉塊へと変わったその少年と同じく、来灯丸もその組織のシンボルを現す黒い外套を纏っていたからだ。


 「ネストの人間……!? エステライト……まさかお前!」

 『黙れ。こっちも何が起こっているか分からん。おかしいぞ。街の影の反応が全て、糸吊ブラックラスプになってやがる!』

 「おいそれって!?」


 耳元に指を二本添えて、来灯丸は吠える。


 『ああ。ネストも何もかも、全てブラックラスプだ。こちらからの観測を行おうにも、敵味方何もわかりやしない。生憎反応だけは追える。一旦固まるよう指示する。分散するなよ』


 吐き捨てる様な口調で通信は来られた。インカムの向こう、閉店時間を迎えたメイド喫茶の上階で金髪ツインテールの和服少女は頭を抱える。

 首に取り付けられたコードを光が行き来し、射影機に似た装置が光線で街の立体図を照らし出す。そして、浮かび上がる黄色の反応と糸吊ブラックラスプのラベル。


 「おかしい。これはマジに、ヤバイかもしれないな」


 人が人を殺す。ネストがネストを殺す。混乱と殺戮の街を、高層ビルのオフィスから見下すのは、同じくこめかみ付近に指を沿える男。指先も、下肢も脱力しかけているのか震えている。


 「物を”観る”ことを忘れた人間モノの末路だ。貴様らはフィルターやレンズのその先にある物を自分の都合の良いモノとしてしか捉えていない。見て考えろ。可能性を模索しろ。僕が何の策もなく、貴様らノイズ共を監視していたと思ったか!? 書き換え等、とうに容易いッ!」


 無精髭を伸ばした不健康そうな男。

 桃城レイスケはそう一人電灯も付いていない暗室でぼやいていた。


 その瞬間。コンクリート壁をせん断する音が響いた。滑らかで小気味よい切断音。その音を耳にして、桃城レイスケは振り返る。その評定に驚愕、恐怖は無い。あるのは──歓喜。


 「待っていたぞ、妹よ。いいや、『荊棘裁ルフスレイン』!」

 「……っ!」


 薄汚れたローブのフードを拭い取る。可憐な少女の眼球は冷淡に濁り輝き、殺意を帯びている。月光が、細く長い赤色の髪に透き通っている。

 その瞳を覗き込む桃城レイスケは身震いをした。脊髄に冷水でも流し込まれたかのような感覚。これだ、と口元を歪ませ鼓動を加速させる。


 「貴方が誰かは分からない。でも私は貴方を殺さなくちゃならない」

 「それはなぜだか分かるかい?」

 「分からない」

 「君が生を求めているからさァ!」


 駆け出すのは桃城レイスケだった。

 同時に幾つか遅れて戦闘態勢に入る少女。指先よりも長いローブの内側から、朱色に光り輝く刃を展開して、男の腹部を貫く。


 「ゴフッ!」


 吐血をしながらも、朱色の刃を両手で捉える桃城レイスケ。


 「殺意そのものが具現化したか。もとより、お前は俺を殺すことだけに全てを捨ててきた骸だ。虚ろだ! その存在が、仮初の肉体を捨て、深淵を歩く惨殺へと変貌したッ!」


 吠える桃城レイスケ。眼球を突出させ、饒舌に大口を開けて吠える。歓喜の声色。それはまるで、少年の様に目の前の出来事を喜ぶかの様に。


 「なぜだろう。貴方を見ていると涙が止まらないの」


 少女が儚げに瞼を開けて眼前の男を眺める。睨むことのないその目からは雫が頬に伝って月の光を一度光らせてから落ちた。


 「記憶……本来それは脳組織の檻の中に封じられたガラクタだ。いや、殺意の根源を失わない様にすることで、更に殺傷効果を高めているということか……?」


 考察するような口調でぼやく男。腹を貫く朱色の刃を握りつぶし、震える足取りで少女の方へと歩み寄る。


 「ああ。殺して、本当に良かった。親父や親族を殺し、本物の殺意を手にした化物を生み出した。僕の見たかったのはコレだ。晶叢の言う──生の競争。こんな形で目の当たりにするとは……!」


 痙攣するのか、空をゆっくりと漂うように上がる腕。桃城レイスケのその腕が少女の頬に触れる瞬間、その手首は紅色の残光が走り切断される。

 崩れるように倒れる男。刃渡り2メートルを超える朱色の大刀。中空に突如現れたそれらが、空かさず男の背中に連続して突き刺さった。


 「本物の殺意……霧でも何も隠せんな」


とうとうその男は自分の『妹』を象った殺意の化身に触れることなく肉塊へと変わり果てた。


 「生ってなんだろう……」


 少女は泣いた。


 「私って何の為にこの人を殺したんだろう」


 渦巻くのは虚無。


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