欲の写身 13
オフィスからフォビア=トライシスが出ていってから数分のことだった。
街からは煌々と光が灯り始め、空は闇夜に落ちている。
「そう言えば、観測型……どういったようにみえるんだ?」
「何がだ?」
晶叢シナツがふと思い出したかのように口に出し、桃城レイスケが答えたところだった。
「影の位置だったり」
「あぁ」
ソファで腰掛け腕組みをする桃城レイスケ。少し唸るような素振りを見せてから言う。
「夢とか、眼で見ていないのに見たものとして認識されあるものがあるだろう」
「あるな」
「ああいった情報をアップデート更新してるってのが分かりやすいかな」
「見えているわけじゃないと?」
「さぁ? 人によるんじゃないかな。少なくとも僕は、この街を──この世界を観測していると仮定したモノから情報を引き落としている感覚だ」
「興味深い感覚だ」
「一気に情報が流れ込んでくる。慣れるまでは何度吐いたか。それに、フォビアのも、晶叢。お前の反応改竄はもっと脳に響く」
「感謝するよ。しかし、良いものでは無いんだね」
「まあな。場所も絞られるし、自分の場合は”ココ”じゃないと上手く引き落としと改竄ができない。まあ個人差もあるだろうが──ともかく好きに動くこともままならないってことだな」
腕時計を確認する晶叢。その仕草に、桃城レイスケも室内に取り付けてある時計を確認した。
「時は近い。フォビアが火蓋を起こす時に僕は備えるよ」
「わかった。ナビゲートしよう。ハイエナ共に嗅ぎ回られないようにする。これも勤めか」
「助かるよ。じゃあ、僕は魔神復活のため最後の一仕事と行こうか」
「降りかかる火の粉を払うだけになりそうだけどな」
「ボンクラでもなければ、常人の目でも確認なんて用意だろうしね」
そういってから晶叢は動き出した。ソファで寝息を漏らす黒髪の少女を担ぎ上げ、部屋のガラス窓を開けば夜闇に向かって跳躍した。
「──さて、と。フォビア、晶叢シナツ。悪いけどこの桃城レイスケ……ちょっとばかし楽しませてもらうよ。……勝手に」
目を爛々と輝かせる不健康な顔つき。口角があまりにも歪んで、眼下の街の灯りが小さな三日月をかたどった。




