欲の写身 12
勝手なやつだと言われ、腫れ物に触るような対応をされ、極力労力をかけないよう教師からも見放され……自分がそういう生き方をしてきたんだから仕方のないことだ。歩み寄って会話をし、お互いの問題点を見つけて改善する人としての必然の行動。それがプライドなのか、面倒なのか果たして分からないが、ただすることは謝罪と我慢、堪えるだけだ。
「自分をさらけ出してみたらどうなの? 正直不気味だよ?」
以前あいつから言われたことだ。何時だったかは知らない。
鴉丸は手に下げていたカバンを地面に下ろし、財布から貸家の鍵を取り出す。軽く汗ばんだ手をズボンで拭ってからキーを鍵穴に差し込み、ドアノブを開く。
「ただい……そうか、居ないんだったな」
いつもは喧しくて辟易としていた帰りを迎える声。どことなく以前に戻っただけと言い聞かせる自分に気がついたのは衣服を脱ぎ捨てて空調を着け始めたときだった。
「鬼道。俺だ鴉丸だ。サラ……銀咲の月影の反応について知っていることは無いか?」
鴉丸は携帯端末に事前に交換しておいた鬼道の連絡先へと語りかける。
『現在反応の再確認は出来ていない。昼間街であった円柱状の爆発の寸前に確認が取れたのが最後だな』
「……そうか。やっぱり」
『こっちも現在忙しくてな。ほら、もうそろそろ夏休みのシーズンだろう。人口密度が増えてきてるし、明日からは連休だ。人もごった返す。以前のレンサブリッジの件にならないよう人員を確保しているんだ』
「邪魔をして悪かったな」
『いや、お前からそうやって連絡をくれるのは安心する』
何を気持ち悪い。鴉丸は内頬を軽く噛みながら端末の奥にそう吐いた。
『何って、お前は誰にも頼らずすぐ抱え込むだろう。以前俺もお前に世話になった。ギブアンドテイクだ』
「何か世話になったら返さないとだめだろ。そういう気遣いが嫌なんだよ。勝手に感謝されて勝手に恨まれる。自分の意図しない所で情緒のすれ違いが起きるから人とは話したくないんだ」
『月影となら……楽か?』
「……そうかもな」
軽く鼻の下を指の背で擦った後、鴉丸は通信を切った。その後、シャワーを浴びた後に身支度を整えて再度外出を試みる。向かう先は他人だより。結局誰かにすがらないとどうにもならない妙な無力さにため息を一つ付いてから、玄関を出る。
玄関から鉄柵越しに見えるのは、茜色の陽光が街を横から照らし出す景色だ。何の出来事もなければ珍しいな、と干渉に浸る所だが鴉丸は立ち尽くすことなく歩を動かした。電子パスポートを取り出し直ぐにでも改札をくぐれる準備をする。
「コグネェ! 今大丈夫かァ!?」




