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影使いの街  作者: やぎざ
第四章 欲の写身
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欲の写身 11

 「ココに落ちてやがったか愛刀がよォ」


 お昼の爆発地点周囲。通行止めになった車道のコンクリートに亀裂を上げて突き刺さっているのは鉄塊。来灯丸はやさぐれながらその鉄塊を引き抜き、背中に携える。


 周囲は日が暮れ始め、付近には爆発の調査に向かうネストの影使いが数人居る。遠巻きには仕事帰りのサラリーマンや学生風の十代の人影が見え隠れしていた。


 「……この格好でボソボソ言ってたら頭おかしい思われるかな」


 自身の身だしなみを見てみれば漆黒の外套に長い金髪。そして言動。気恥ずかしさに首筋をポリポリとかく来灯丸は再度一帯を見渡す。


 「っ……?」


 外壁に大穴を空けるそこを、何者かが潜って入る。僅かに見えた程度だが、弱々しい足取りで来灯丸は負傷者だとあたりをつけて駆け出した。


 「お、おいアンタ。ここは危ないから──」


 薄汚れた布をローブの様に纏うその人物に背後から声をかける来灯丸。近寄って後ろから肩を叩いてみる。自分とほぼ同等の身長で十代の男女、或いはもう少し上の年齢の女性か、と予想をする。


 「……?」

 「……!? お前ッ!」


 頭に被った布を取っ払い、肩を叩いた来灯丸に見返ったその人物はほぼ同年代と思わしき女の顔だった。

 まるでどこかの令嬢のように品のある目鼻立ち。赤色の長い髪がサラリと夕暮れの風に僅かに靡く。

 思わず息を呑む来灯丸。そのは無いと言い聞かせながらも、彼女がこうして硬直する理由はその美貌の他に確かな物がある。


 「桃城」

 「……なぁに?」


 来灯丸は鈍く濁りのある暗い瞳に見据えられて、血液が水銀に変わったかのような冷気と重さを感じる。これは紛れもなく、人外の視線。

 敵意は感じないが、同質の物──それを感じた来灯丸は、その少女の形をした存在の肩に乗せた腕を取っ払う。


 「あなたは何? 私に何か?」

 「私にって……お、お前は桃城レンカだろ? あの憎たらしい顔を私が忘れるかっ」

 「レンカ……知らない。あなたも知らない」


 小首を傾げながら来灯丸に返す姿は、以前のその人柄から考えて似ついても居ない。だが、既に先日の海底ラボの事件で死亡報告された桃城レンカと瓜二つだ。髪色だけが以前の艶のある黒髪でなく、赤髪となっている点だけが違う。そう言えば、あいつの影の色も──


 「どうしたの?」

 「のわぁ!」


 来灯丸の鼻先のそこへ踏み込んで顔を覗き込むローブの少女。思わず距離を取る来灯丸は耳から首筋にかけての部分に指を沿えて口を開く。


 「エステライトォ! 私の目の前に居る存在の反応はなんだァ!?」

 『またよくわかんないものでも見たのか?』

 「よくわかんねぇから聞いてるんだってのォ!」

 『反応も何も……影の反応なんて何もないけど?』



 離れた距離で姿勢を低くし、その少女の動きを警戒しながらエステライトからの発信を待つ。


 「……エステライト。銀咲のハウライトは、夜の活動期以外……どんな反応だった?」

 『どんなもこんなも、私は『予熱』を感じ取ることはできなかったわけだけど』

 「同質の月影……」

 『何?』

 「すまん切る」


 沿えた指を離して桃城は再度立ち上がる。


 「おねえさんはなんなの?」

 「おね!? おねえ……私か!? いや、まあそのなんだ。アンタはなんでココに居るんだ?」

 「知らない」

 「何が目的でこの街に居る?」

 「知らない」

 「知らないって……」

 「ただ──この胸の中で渦巻く熱が、私をこの街の何処かへ行けと言うの」

 「二重人格……?」

 「知らないけど……私はそれをやり遂げなくちゃならない。やり残したことかもしれないし、これからの為に必要なことかもしれない」

 「……」


 目を細くして見据える少女は、再び来灯丸に背を向けてローブを被る。数十歩を歩いたと思えば一気に上空へ向かって飛翔した。


 「スペクトキリング……まあいいや。今日は嫌な予感がするメンテにでも移るか」


 腰に携えた影力機械剣『雷刀牙』の柄の部分に指を添える。

 頭の中で反芻するあの顔──桃城レンカと何も変わることのない瓜二つの顔立ち。にじみ出る性格の悪さなどがリセットされた人柄が見て取れない風貌。形だけが桃城で、その器の中全てがくり抜かれたような空虚。


 「ったく。なんで私があいつの事思い詰めてんだよ……」

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