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影使いの街  作者: やぎざ
第四章 欲の写身
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欲の写身 10


 ナイトセルの回収は出来た。そう室内に呼びかけるのは晶叢シナツだった。


 「お前がそんな仕事をやりきったみたいな顔初めて見たぜ」

 「ああ。全力で努めを果たすということは人間にとって大切なことだ」


 黒髪金メッシュの獣のような眼光の男が腕組みをして晶叢を出迎える。額の汗を拭いながら、脇に抱えた黒髪の少女を床に下ろす。

 ボロボロになり、既に昏睡をしているその少女は息を絶え絶えに細くしてそれ以上の活動、覚醒は見られない。


 「銀咲のハウライト……本当に仕留めてくるとは」


 部屋の隅のソファで眠気眼に横たわる不健康そうな男が呼びかける。桃城レイスケだ。


 「僕は君たちみたいに知的でインテリジェンスな立ち回りはできないからね。精々、こうやって力任せにことを進めることしかできない」


 快活な笑顔を向けながら晶叢シナツは襟首をはためかせて汗の滴る肌を僅かな風で扇ぐ。


 「フォビア=トライシス。同胞の確保はできたかい?」


 獣のような眼光の男が口を開く。


 「以前の江ノ島コウジ級のクズ共をわんさかかき集めてきた。人に憎悪を向け続け、己の弱さを認めきれないゴミ共だ。大虐殺が期待できるぜ」

 「それは楽しみだな。四海臨空もそう待ってくれない。そうだな。プランは今夜にしよう。深夜だ。緊急時すぐに何処かへ逃亡できないように街の鉄道が止まってから──それの方が良いだろう。桃城レイスケ。ネスト共の動向はどうだい?」


 晶叢に呼びかけられ、桃城レイスケはあくびを一つしてあごひげを弄る。


 「人員を大量に割いている。僕の父が生きていた頃に名を残す者も来ているようだ。確か式宮ラウド……」

 「恐れるに足りるか?」

 「まあ、脅威にはなりえるがプランの障害にはなりえないだろうな。最も恐れるのは──」

 「なんだ?」

 「いや、もはや何もない。僕はそれまで死なないよう保身に務めるよ」

 「何? 君は死ぬのか?」

 「ああ。近いうちにそうなりえない」

 「と、言っても銀咲のハウライトを四海臨空のゼフトクリューゲルに食わせるまで、邪魔者を入らせないことさえできればプランは半分以上。いや既に終了だ。後は長き眠りから目覚めし魔神が人類種に鉄槌を下す」

 「見届けそうに無いのが残念だよ」

 「そうか……フォビア。桃城レイスケの護衛に着くことはできないか?」


 晶叢の呼びかけに、フォビアは眉にシワを寄せてから口を開く。


 「今日、俺に汚え手で触ったメスガキが気に入らねぇ。後、式宮ラウドとやらか、そいつの足止めは誰がする。貴様は四海臨空の覚醒を見届けねばならんだろう」

 「人手が足りないねコレじゃ。仕方ないな桃城、君は満足かい?」


 水を向けられた桃城レイスケ。掌で口元を覆ってから唸って数秒後に答えた。


 「死ぬのは怖くない。死に方を選べないことこそが恐怖だ」

 「君も君で楽しそうだな」


 微笑する晶叢シナツ。再び少女を掲げあげてから、部屋の脇にあるホコリの被ったベッドへと向かいそこへ下ろした。


 「惜しい存在だ。コレほどの力を持っていたとすれば人間の殲滅など容易い。なぜ、この月影は人を潰さないのか」

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