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影使いの街  作者: やぎざ
第四章 欲の写身
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欲の写身 7

 揺れる校舎、室内。鴉丸の授業を受ける学校の一室。地震? と言うぼやきが周囲に流れると同時に、鈍い虹の光を纏う影が窓を割って侵入してきた。


 「こちら来灯丸。状態は正常だ。観測班……それよりもさっき交戦した影の反応を追え。雷刀牙で傷は負わした。私の影の反応を追えば……?」


 金髪の少女は鴉丸を下敷きに着地。その男をサーフボードの様にして床を引きずり、数メートルズレるよう移動したところで停止した。


 「ッ!? おい! 誰だよテメェ!」

 「説明は後だ。てか不要だ。一般への被害……どう片付けるつもりか」

 「ちょっとッ! テメェ待ちやがれェ!」


 鴉丸の背中に足を着く少女、来灯丸は跳躍する。下敷きになった鴉丸が跳ね上がり、その目には廊下の窓から飛び降りる金髪の少女の姿があるだけった。


 「何? 影の反応が消えただと? 私のそれも追えないと?」


 着地したのは校庭。人工芝の一帯を歩く来灯丸は耳孔付近に指を二本沿え、耳骨内蔵型インカムからの反応を受け取るところだった。


 「どういうことだ? エステライト。また手抜き仕事か?」

 『そういうことではない。ただ、負えないだけだ。さっきまであった影の反応が全て消失している。まるで何者かに『管理』されているようだ』

 「管理? マネージャーでもなんでもぶった切れば良いんじゃねーのか?」

 『だからそれが出来んと言っておるだろうが脳筋。それよりも始末書の心配でもしておくのだな。手付かずってやつだ。一旦戻ってこい。その後再び糸吊ブラックラスプの反応を見つけ次第に追う』

 「ったく無能共が」

 『お前もだろう?』


 地面を一脚し、校舎の屋上にまで飛翔した来灯丸。着地した周囲を見渡せば短い黒髪の少女がインスタントの固形燃料で湯を沸かしコーヒーを淹れている姿だけがあった。


 「ここの学生か?」

 「いや、違うよ。友達がここに居るの。ずっと一緒に居よう言ってるのに転校の手続きがめんどいだとか、一緒に居たら変な風にみられるとかぼやいてココに居ろって。ひどくない? 休憩時間には来るって言ってたけどもしかして、私ってそんなに不細工? 不細工なのかな……だから一緒に居たくないって……」

 「そういう面倒なところで距離を置かれているだけじゃ」

 「……」

 「じゃあな」

 

 しょぼくれる少女を尻目に来灯丸は再び飛翔した。


 「まずは雷刀牙。あれを再びロストすればまた開発科に頭を下げることになりかねん」


 青空に架かる黄金の彗星。呆気にとられる教室で、鼻血を拭う鴉丸は窓から覗くその空の残光を追っていた。


 「……んだよアレ」


───

──


 「……関係がなくは無さそうだ」


 切れ長の目に映るのは金の光。天を仰ぐ青年の銀色の毛先が揺れる。その後に、残光の発信源のそこへと視線を移した。

 大穴と亀裂を付けた壁面の校舎。


 「彼処に……か。何の変哲もない少年少女が世界を滅ぼす。出来た話だ」


 青年は見据えた視線で歩を進ませる。ちょっとしたショッピングに出向くかのような軽い足取りのような、人生の転換期へと向かうような重鎮の様な歩幅で──。

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