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影使いの街  作者: やぎざ
第四章 欲の写身
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欲の写身 6

 プランとは……そう口にする群衆。ビルとビルとの間。配管が複雑に絡み合った錆臭い一帯で男らは言った。


 「踏み入ったことは言えん。それがあの男の意思で、でもって俺もお前らに暴れろとしか言わん」


 黒と金のツーカラーの髪色をした男がそう口にする。野獣の様に鈍く暗い眼光をした視線が、薄暗な一帯に照り付く。


 「そうは言っても、何の詳細も言わずただ暴れまわれなんて我々も信用出来ん。与えられた影の力には感謝する。しかし──」

 「いいから黙って従え」


 冴えない中年の男の前に、獣の様な男の足が伸びる。壁に足底が付き逃げられないように挟みこまれる中年。その人知を超えた身のこなしに息を飲む他なかった。


 「いいか? お前らクズは社会のゴミ溜めで生ゴミの汁を啜るくらいしか生きてく術が無いような連中だ。いつか機会が、チャンスが……そう自己暗示して大事なそれを遠に失った屍なんだよ。そんな人間に”俺は”力を与えたんだ。まぁ、桃城の加護ってのもあるけど、少しはこっちの話を効くべきだと思うんだけどなぁ? このフォビア=トライシスさんの話をよォ?」

 「ぐ……」


 中年は、フォビアと名乗る黒金メッシュの男のプレッシャーに視線を合わせることすらできず、背後の壁からずり落ちる様にして座り込む。


 「ケッ! 意見するんならそれなりの威勢と覚悟を見せろってんだ。所詮人間はどいつもこいつも同じ──」

 「それはお前もか? 我らもか?」


 フォビアの独り言を遮るように超えが響く。良く通る高い声。中性的な人物のそれを思わせる声の発信者は黒い外套に身を包み、巨大な鉄塊を携えていた。


 「登録外影使いを複数確認。『糸吊ブラックラスプ』の集合地帯に出くわした。黒だ。瞬き一つせず追っておけよな」


 インカムにそう呼びかけるのは少女一人。他には誰ひとりとして居ない。金色の髪を靡かせて、フォビア=トライシスと相対する。


 「テメェが、糸吊ブラックラスプの本体か?」

 「フン。あいつ、そんな名前で俺らを……」

 「らを? その先を言え。……聞こえんようなら叩き切るぞ」

 「やってみろ。小娘が」

 「雷刀牙……ッ!」


 外套を脱ぎ捨てて少女は鉄塊を掲げて飛び込む。影を流し込んだ鉄塊は刃を幾重にも展開させて、男の胴体目掛けて振りかざされる。その刃、影を討つ為の物ッ!


 「身ぐるみ剥いでェ! 骨の髄までしゃぶってやるぜェ!!」


 その男、フォビアも方向を上げると共に、虹色の影を展開した。暗く沈み込む様な虹。無数に伸びる平らな長方形の刃が、飛翔する少女の身体目掛けて襲いかかる。


 「ガァ!」


 鉄塊を十字になぎ払い、雷光で漆黒の虹の刃を振り払う。その少女、来灯丸は再度鉄塊を上段に構え、隕石の様に落下をしながらフォビアの元に墜落した。


 少女が振りかざす雷刀牙と呼ばれる鉄塊。チェーンソーの様に刃が蠢くその刀身を、男は素手で受け止めていた。


 「それで終わりかよ、ネストの犬がよォ!」

 「『礼絶のイズナラク』はどこだ? 私を殺し、地下の『四海臨空の骸』を奪取した……あの男はどこなんだァ!?」

 「教えるかよ雑魚がァ!」


 街の大地から穿つ爪。闇色の虹が一帯を切り裂き、来灯丸は遥か上空に弾き飛ばされてしまった。


 「ッたく。おいお前ら。面倒な犬どもに臭いを覚えられる前にさっさと散れッ! 次に俺がPHSに連絡を寄越す時にだけ、全力で暴れまわるだけだからな!?」


 冴えない中年男性を始めとした群衆。社会の隅で生きていた男たちは、フォビアの命と力を受けて、震える足を叱咤させて消えていった。


 己の復讐の為に。己が爪を噛む中、幸福を噛みしめる人間との心中の為に──。


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