欲の写身 4
「あーマジほんとに『影消し』とか出来んのかよ!」
「そうでもせねば、あの男には勝てんかもだぞ?」
「……かったりぃな。学校休んでまで此処きてるのに、得るものなしじゃ負けた気がしやがる」
「面倒な性格だね」
早朝から、廃屋のショッピングモールに居るのは茶髪オールバックの男。このラウンジと呼ばれる一帯では『断罪のナパームブリッド』と呼ばれている。
なぜ、彼が通っている高校を休んでまでしてココに居るかと言われれば当然、宿敵を倒すための特訓に励んでいるからだ。
いいかい、と咳払いをする和服のハゲ。黄仙と呼ばれる人物が稽古を付けている最中だった。
「私達の使う影のイメージは高エネルギーの流体。そして攻撃方法の制御には幾つかある」
「おう」
「まずは『射出』影を身体から放出して行う攻撃。牽制効果があったりと、まあ戦いの基本だね」
黄仙は手で球体の様に空間を捉え、それを脇腹まで持っていいくと思えばそれをナパームブリッドの方向へと腕を伸ばした。指は開き、正面から見れば花か何かのようだ。
「で、もう一つあるのが、影を発射せずに身体の中に還元する攻撃方法、名は『拡張打撃』」
「……おう」
「剣や刃の様に影を変形させて攻撃するアレだ。一時的に身体から影を出すわけで、発射しないわけだから息切れもしにくいし、自身の拳による殴打よりもリーチが長い。影は半永久に作られ続けるが、乱用すれば切れてしまうこともある。供給の速度というものがあるのだよ」
「……?」
「まあ要するにヨーヨーだね」
黄仙はさっきとはうって変わり、上腕だけを水平にして手の平をパタパタと仰いだ。実態のないバスケットボールをドリブルさせているような仕草だ。
「火力を乗っけた『出し』と影そのものを還元させるための『戻り』の2つの要素がこの攻撃方法を構成している」
「お、おう」
「『影消し』というのは、この『戻り』を潰す戦術。つまりは、ヨーヨーの糸を切ることだよ。還元するはずの影が断ち切られる関係で、相手の息切れも狙えるし、バランスを崩すことにもなる」
「で、どう使うんだよ」
「ものすごい速度で突っ込んでくる奴が居れば、前もって攻撃を出しておくだろう。見てからじゃ対応できないから、置いておく様に」
「まぁ、たしかにそうだな」
「リーチがながければ長い分相手を寄らせにくくできるでしょう?」
「そうだなぁ」
「そこで出した拡張打撃を見てから狩るのがこの戦術なわけだよ」
「言ってることは分かるけど無茶苦茶だろう……」
「まあやってみんしゃい」
黄仙が青紫色の影で腕から鞭の様に放ち、ナパームブリッドへと向ける。
それが少年の花先をかすめた所で、黄仙の攻撃は空振りに終わった。
「どうした? やってみないと身につかんぞ?」
「だー! 知るかッ! 休憩ッ!」
頭をかきむしって少年は壁際に置いてあるペットボトルを手に取った。
「よぉーう! ナパームブリッド! 今日もサボりか?」
「神速の斬空刀……お前も同じだろう」
「まぁな」
現れたのは中性的な顔立ちで長い黒髪を頭の後ろで結った男だ。竹刀のような物体を脇差として携えている。
「今日もカラスマを倒すために特訓か?」
「そんなところだ」
「君はほんとに釣れないね。執着が男だなんて」
「ナンパすんならテメェはあの気持ち悪い語り口調をどうにかしろ」
「んん~!? 何のことですかなぁ!?」
「うざってぇ」
ボトルに口を付けて喉に中身を押し流すナパームブリッド。それが一通り落ち着く境目を見て、神速の斬空刀と呼ばれる男は口を開いた。
「赤髪の放浪者、知ってるか?」
「あぁ!? んだよそれ。どうせコスプレとかやって自分に酔ってるおもしろ人間だろ」
「まあそれはどうか分からないけど、確かに言えることがあるんだ」
「んだよ」
「メチャクチャ可愛いらしいぞ?」
「知るか」




