業と力 23
「あれが例の……」
廃屋のビルの屋上。二人の内、不潔そうな無精髭の男はそう言いながらぼやく。
「二人……なのか?」
昼下がりの風が銀髪を揺らす。晶叢シナツは遠目越しに見える銀色の閃光と蒼黒の雷に喉を唸らせる。
「反応では、確かにあいつは『銀咲のハウライト』そして、もう片方が『闇還アヴィタリス』」
「初めて聞く名前の影だな」
「まあ、感じ取るそれは『月影』じゃない。ただの人間だ。何者かは知らんが、プランのじゃまになるようなら──」
「殺そう。コイツのために」
そう言って銀髪の男、晶叢シナツは懐から30センチ台の長さの携帯型円柱水槽のようなものを取り出した。水色の淡い薬液地味たものの中には、妊娠初期の方で見られる魚のような胎児がぶよぶよと浮いていた。陽光が照り付いて、水温が上がったのかその麻黒く青い体色をした胎児はゴボリと水泡を吐き出した。
「『四海臨空のゼフトクリューゲル』……これを最速で再起させるには膨大な月影の形成型素粒子が必要だ」
薄汚い無精髭の男、桃城レンスケはそう言う。眺める先は、地上から天使の矢の如く、乱射される閃光が空に向かって伸びている最中だ。
「『ナイトセル』か?」
晶叢は頭の高さまで四海臨空の骸を掲げ上げそう言う。
「月影が休息期から復活する時に蓄えるこのエネルギー体。対応ができない速度で復活をさせなければならない」
「そのほうが、被害が大きいと?」
「僕達の目的は『人類と言う種の根絶』だ。君はとしては『最強と呼ばれる月影の観測』かもしれないがね」
「人は面白くない。月影(彼ら)こそが、真に人間であるとそう思っている」
「ホモ・サピエンスと人間は違う……か」
虚空を眺めるその晶叢の眼は虚ろであった。だが、その付近で居た桃城レンスケはわずかながらの付き合いではあるが、彼の瞳に好機の色が浮かんでいることを確信する。
「アレがそんなに知りたいか?」
「アレとは?」
口だけを笑わせて桃城に視線を向ける晶叢。
桃城はただ黙ったまま、銀の閃光の方に顎を向けた。
「『闇還アヴィタリス』にシンパシーでも感じるのか?」
「人は新たなる発見に人生の喜びを感じ、未知なる体験に恐怖を感じるものだ」
「今の君は?」
「どちらなんだろうね」




