業と力 21
(今日はあのやかましい桃城も、それに金魚のフンの様にくっつく鬼道も居ない。珍しいな)
そんなことを考えながら鴉丸は大あくびをして頬杖をする。
窓から外を眺めれば、鋭く街に突き刺さる熱線で照り突き、蜃気楼の様に輪郭を歪ませる。ありふれたビル群が、分厚い空気の層で淡水色色に遠目に見え、校門付近で見られる往来も少ない。
夏という季節がもうそこまで来ているという感覚を鴉丸は抱き、同時に期末テストという単語が脳裏に過ぎり、首を振りかぶる。
「あれは……」
校門の付近で居たのは二人の男子生徒と、見慣れない服装の人物一人。白のワンピースと麦わら帽を被る姿を見たところ女性のようだ。
「やや! これは先日のお嬢さんではありませんか!」
「あ、うん。あなた誰ですか?」
「ぬふぉふぉう! 忘れられてはこまりますな。ここであったのも何かの運命! 我々は惹かれ合っておるのですぞ」
「……今はそんな気分じゃない」
二人の男は制服を乱して来た風貌で、一人はやや小柄で中性的な美少年。面妖なしゃべり方以外では割りかしまともな風貌だ。
もう一人は緘黙で何一つしゃべりはしないが、中性的な方が一歩を越えようとした時には肩を掴んで首を横に振る。
アンニュイな表情を浮かべるその女性は、昨日という言葉の響きにはっとする。
「何やってんだよお前ら」
「やや! これはナパームブレッド殿! ここに超絶美少女ワンピースちゃんがおるのですぞ! これは愛でないと失敬に値するかと」
歯の隙間から溢れるように笑う中性的な男がそう呼びかける相手は、同じく制服を着崩した不良風の男だ。黒髪に金色がちらついて見える
「あの、すみません。ここに鴉丸って人居るんですよね? 何時頃ここから解放されるか分かります?」
「ッッ!?」
少女の気だるげだが、健気なその表情に断罪のナパームブリッドの中には何か電撃が走るッ!!
「あ、あのー」
「あ? あぁ、ウェイ!? お、おう!! じ、16時ッ! それくらお!」
早口でまくし立ててナパームブリッドは校内へと逃げるように駆けていった。
(何やってんだアイツ。てか他の連中も見たことあるような無いような……)
鴉丸がそう思い浮かべていたらチャイムが鳴り、昼休憩となった。校門の方へと突っ切って三人の居る方へと向かった。
「テメェ……」
「こんにちはスイレン。どうしても会いたくなったから来ちゃった」
「何頭のカルい邦楽の歌詞みてぇなこと言ってんだよ」
予感は当たってしまった。鴉丸の脳裏にこびりつくその顔が、今目の前で麦わら帽を被る少女と一致していた。
そして、その少女が送る間違いない殺意。人でない確かな破壊衝動──
「今から良い?」
「……上等だ。相手してやる」
「やっと付き合ってくれた」
「軽口を叩く余裕はあるようだな。場所を移すぞ。此処でやりあえば面倒な事になる」
午後の授業は何だったか、今日の学食の日替わりメニューは何だったか。そんないつもなら抱いている疑問も思考も抱かず、鴉丸はただ横に少女を連れて街の中へと向かう。
「どこが好みだ?」
「好きにしたら?」
校門には再び沈黙で静まる。土から出る時期を間違えたツクツクボウシの声が遠くに聞こえるような聞こえないような……
「鴉丸ァ……」
沈黙する不良風の二人の男たち。呆気にとられる中、ただなんとなく漏らす。
「やはりあの手の女持ちは潰す必要があるな」
「何時?」
「そのうち」
「それよりも今日小テストじゃね?」
「成績響くやつだったっけ?」
「今からやろうぜ」




