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影使いの街  作者: やぎざ
第三章 業と力
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業と力 20

 「どういうことか分かっているのか!?」


 半島からは怒号が上がる。ネストの重役や研究員が来島し、その巨体を縮み上がらせる鬼道は内頬を噛み締め拳を握りしめる。

 調査班と救助班を読んだ鬼道。応援に駆けつけた舞台はそれから一時間後で、耐水圧装備を纏ったネスト構成員が管理棟に繋がる廃墟の地下鉄のターミナルへと足を向けた所だった。

 結果として、警備部隊は全滅。桃城レンカは遺体として取り出され、来灯丸は溺水し現在は応急用人工心肺と動静脈を繋ぎ、命を吹替している最中だ。


 地下に沈んだ管理棟。あの『四海臨空のゼフトクリューゲル』が安置されたその空間は海底奥深くに沈んでいるとも思われたが、潜水艦での捜査を行った時には外殻に大穴が開けられており、内部は海水で満たされていただけという報告だった。


 「独断で行った判断としては過ぎています」

 「ならなぜ、行った!? 来灯丸からの連絡も無く、相談もせずに貴様は──」


 鬼道の襟首に掴みかかる重役の中年。その後ろから「やめなよ」と声がかけられた。


 「彼の判断は結果的には間違っていたが、あのまま何もせずとしても彼らを逃していたことになる」


 後ろから現れたのはネスト特有の黒の外套に身を包む青年。中肉中背のその青年の青い髪が潮風に揺られて赤いメッシュの入った一部の髪が姿を見せる。


 「デ、『δ-12』の『式宮ラウド』!? い、いや。だったらなぜ管理棟を沈めた!?」

 「戦力の把握が出来ていないからこそということだ。それは或いは賭けにもなる。あの警備網を突破したからと言って、安安『四海臨空』を受け渡す方が、無能だとは思うけどね」

 「ぐ、ぐぐ」

 「退くんだ。君の専門は戦闘でなく研究だろう」


 澄んだ低い声でそう言いながら青髪の青年は重役の中年男性を退いて、鬼道ムサシの前に直立した。


 「鬼道ムサシ」

 「は、はい!」


 息を飲む鬼道。その咽頭に低く音が鳴り響く。


 「大儀であった」

 「!?」


 驚きを隠せず表情に出す鬼道を見てその青年、式宮ラウドは笑みを溢す。


「良い判断だ。だが、犯してしまった大事の自覚を忘れてはならない」

 「はい……!」

 「君は師を失っている。この悲しみを繰り返す無能ではないと私は期待している。失望をさせてくれるなよ?」


 笑みの中軽口のように言われる様な言葉。その中に確かに感じられる重み。

 これがネスト最上位機動部隊『δ-12』の頭の言葉。その声色の中に、幾重にもある修羅場を想起させるが、それはぼんやりとしたままで鬼道の想像の範疇には収まらなかった。


 「粗末なものだが、慰霊碑がココに建つということだ。桃城君の脳組織から記憶抽出が終了したら、そこへ誓いにいこう」

 「はい」

 「しかと胸に刻みこんだならば君の次の仕事は休むことだ。四海臨空を奪取したイレギュラー排除のため、英気を養って共に戦ってくれ」


 そう言い残せば、式宮ラウドは鬼道の元から離れ、各種部隊や班に指揮を取っていた。

 自分の手の平を眺める鬼道。あの時、師である彼女のための力として動く決意をした。それが、例え相手にもう伝わらないにしても、分かって貰えないにしても──


 正午を回った問には、遺体となった桃城レンカの脳組織から記憶情報の抜き取りを終えたネストは、今回主犯となった人物の風貌を記録した。

 建てられた慰霊碑は碧色の石に何やら達筆な文字が刻まれた50cm台の一本の物体だった。廃墟の地下鉄ホームの入り口付近の柔らかな土と背の低い雑草の生える一帯にそれはただ野ざらしに直立する。

 拝むものはネストにそう居はしなかった。鬼道だけが、その日の状況報告と整理が終えた後、ただ石化したようにそこで蹲っている姿があっただけだった。



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