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影使いの街  作者: やぎざ
第三章 業と力
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業と力 19

 披露が筋組織や骨に染み付き、己の身体が一つの風化した絡繰りのような感覚。眼に隈を浮かべた鴉丸スイレンは、朝焼けで反射する自分の貸家の扉の前に居た。

 鍵を入れ、こじ開けるようにひねる。最近は錆びているのか回転が悪い。今すぐにでも寝たい。徹夜をしてまであそこまで障壁と混線を練習する意味はあったのか。


 自問自答をしながらも、携帯端末を取り出し時間を確認する。午後の5時半。後4時間後には高校の1限目が開始される。このまま身支度を済ませて、教室で寝たほうが良いのかどうか。

 ドアノブを捻り、その奥へ押しやれば黒髪を短く切りそろえた少女が寝巻き姿で直立して出迎えていた。


 「お帰り! 遅かったよー? 女の子が付く酒場にでも行ってたー?」


 屈託のない笑みを見せるその少女、月詠サラクを目の前にしながら、その面倒なジョークに思考を巡らすのすら億劫に思う鴉丸。肩を押しのけて部屋の奥へと向かう。


 「なになに? ほんとに行ってたの? 黙ってやましい事でも隠すみたいに!」

 「……行ってない。シャワー浴びる。そんですぐに出る」

 「また?」

 「学校だからな」

 「放課後時間ある?」

 「空いてたら連絡する」

 「……」


 仏頂面と低い声色でそう返す鴉丸。汗の染みこんだ上着を脱ぎ捨て、半裸になりながら冷蔵庫を開け、中からミネラルウォーターを取り出す。キャップをひねればそれを直ぐ様口につけて喉に流す。数回咽る仕草を視界に捉えながら月詠は言う。


 「今日行きたい所あるんだけどさ」

 「後にしてくれ。眠い。シャワー浴びて学校で仮眠する。出席しなかったら桃城だの鬼道だのがやかましいからな」

 「……その、さ。スイレンはこういう……なんていうの? 彼女面する女ってやっぱ嫌い?」

 「あぁ? なんでそうなるんだよ」

 「だって最近全然構ってくれないじゃん! 身体は傷だらけになるし、絶対変な遊びしてるって誰が見ても勘ぐっちゃうじゃん!」

 「じゃあなんだ? 今日あたりどこか出かけようってか?」

 「すごい嫌そうな物言い。私と関わるのそんなに嫌なの?」

 「嫌もクソも……生活のためだ。今俺が飲んだ水も、服も、そのテーブルにある宅配ピザも、全部金だ。月影を始末して、金を取らなくちゃ行きていけないし、誰も助けてくれない」

 「そんなお金が無いわけでも無いんでしょ?」


 テーブルの宅配ピザの包装を尻目に立ち尽くす鴉丸。その月詠の言葉に硬直し、視線をその方向へと向けると、電灯が一つもついていない薄暗な室内の中、弱く光る水滴の様なものが浮かんでいた。


 「……ちょっとぐらい遊ぶ時間あるじゃん絶対に。なんで、私は人の様になれないの」


 鼻を啜る音が溢れる。月詠はその後何一つ言わず黙ったまま寝室へと足を運び、ベッドへと身を沈めた。寝言も寝息一つ立てることはない。


 (アレは俺を殺すための新たな策か? 誘導……あの知能ならば仲間との協力で潰すこともできる。近頃ラウンジで戦闘経験を積んでいることを勘付かれたか──)


 ボトルの中を空にしてキッチンに置く。その後衣類をまとめシャワーを浴び、勉強道具をまとめて鴉丸は家を出た。

 呆れるほど澄んだ空からは透明な朝日が照り出し、街の眠りを覚ます。


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