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影使いの街  作者: やぎざ
第三章 業と力
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業と力 18

 「なるほど、これがかつて世を滅ぼそうとした……」

 「無理をさせないでくれ」


 白色内装の広い空間。そこには火花を上げ、焦げ付いた精密機器。そして、中心で磔にされている小柄の青黒い人型。


 感心したようにその月影に視線をやる晶叢シナツの後ろから、ずぶ濡れになった桃城レンスケが身を表した。

 不健康な顔つきに、濡れた髪が降りてより一層浮浪者の様な風貌を思わせる。


 「悪かったな桃城レイスケ。存外、僕は余興を楽しみすぎたようだ」

 「楽しめたのならば幸いだな。何事もメリハリが大切だ。で、どうする?」

 「フェイレンが居ないようだが……そうだな、それじゃあ回収しよう。四海臨空の覚醒は後日だ。できることならば、次の後窯を探してもらいたい」

 「そう来ると思っていた」


 四海臨空のゼフトクリューゲル。既に己の身を痛めつけるネストのレーザー照射器の何にも捉えられていないその身体。秒が経つ度、拘束具から解かれよう身を動かす。回復が進んでいるようで、既にチェーンソーの様な武具で貫かれた身体の傷口も塞がれつつ有る。

 ギョロリとした一つの単眼が高速で動くが、それがピタリと一瞬──ほんの数コンマ数フレーム止まったところでそれは二人の方を捉えていた。


 「!?」

 「……なるほど。たしかにこんなやんちゃ坊主ならば、機関も本拠地から遠ざけるわけだ」


 瞬きを行った瞬間。磔にされていたそこに、月影の姿は無かった。虚空に浮かぶのは鮮血と片腕。そして、身を翻して殺意の視線を晶叢に向ける影。


 桃城レイスケはその瞬時の出来事に脂汗を頬に伝わせるが、片腕を削がれた晶叢は平然とした表情で壁に着地する月影を見定める。


 「ピュシャララッララッ!」


 一直線に突撃する月影。藍色の一閃となったその対象に、晶叢は右腕をかざし深淵の闇と夕暮れの光が混ざり合った巨丸で迎撃を行う。


 青黒い肉片を飛散させて地面に落ちる四海臨空の月影。受精卵に血走った眼が浮かぶ物体へと変体したその影を尻目に、引きちぎれた腕を晶叢は拾い断裂部に装着した。


 「フォビアの影……糸吊ブラックラスプでの騒動に乗じてネストの兵力から回収した『骸の保存用カプセル』あるよね?」

 「あぁ。今からそれに入れるところだ」

 「ストックも考えて、約1周間強といったところか。うかうかしていられないな」


 桃城が薄手の手袋を装着し、視界臨空を懐から取り出した円柱状のカプセル内に入れる。カプセルの中身には薄青色の薬液がシュワシュワと泡を立てており、視界臨空がその中に浸かればより一層強く泡立つ。


 「痛めすぎじゃないか?」

 「確かにその通りだが、もう次のターゲットは決まっている。視界臨空の餌とする月影は強大であるほど確実に覚醒を起こす。彼女を捕獲するにはそれなりの時間を要するだろう。こんなもので十分じゃないか?」

 「またバックアップをしなくちゃならんな」

 「その時には、フォビアにも協力を頼むことができる。そう大事にはなら──!?」


 突如、その広大な一室に激震が走る。

 鈍い金属音と、分厚い水を切る音。


 「こ、コレはッ!?」

 「まずいなぁ……非常にまずい」


 親指のツメを噛む晶叢。只事ではないその現状に思考を巡らせ、そして有る一つの答えに辿り着いた時、同時に有る男は決断を済ませていた。


 「もうやるしか無い。事後報告書ならばいくらでも書いてやる。だから、ここは沈めるしかッ──!!」


 鬼道ムサシ。彼の脳裏には数時間前に目を通した作戦書類と、管理棟のマップが浮かんでいた。

 四海臨空の管理。ネスト本拠地のラボで管理を行うにはリスクがあるため、この月影が出現した現地で、この月影を管理するためだけの最低限の設備を取り揃えた管理施設を島の海底に後付で設けた。


 格子の足場と、配管。薄暗な空間の中で、鬼道は制御用モニターのボタンに拳を打ち付けていた。ただならぬ判断をした自覚。そして、焦燥。管理棟を切り離したのだ。


 その後、鬼道は数分の仮眠に更けた後に、非常用の梯子から地上へと這い出た。朝焼けの照り付いた凪いだ海。海鳥が遠く黒く浮かんで、潮風が森林の木の葉を揺らす。


 「救助隊だ。本部へ救助隊と調査舞台の報告を……」




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