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影使いの街  作者: やぎざ
第三章 業と力
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業と力 17

 「ど、どうするつもりですか!?」

 「連中の目標が何なのかは知らん。一つ正しいのは只者では無いということだ。鬼道ムサシ、あのアホ女の部下ってだけで私はお前が嫌いだ。だが、やばくなった場合は例のコードを入力しろ」


 フジツボや藻類が足元に飛散し、潮臭い湿度が錆びたエレベーターの中に漂う。

 四海臨空のゼフトクリューゲルの安置されていた一室から、来灯丸と鬼道はそのエレベーターを使い上階へ上がっている途中だった。


 「こ、こんな場所マップには記載されてなかったですよ!?」

 「重要機密事項だからな。四海臨空が再度解き放たれることはこれまでに類を見ないほどの大破壊をもたらす。だからこそ人の手の及ばないそこへと墜落させるんだ」

 

 エレベーターが上階へ向かうまでの中間層で止まった。扉が開けば藻類が壁に張り付きぬめりを帯びている。来灯丸は力まかせにその藻類の壁の中に腕をぶっこみ、その奥から何かを引き剥がすような動作を行うと、壁が左右に開いた。鉄格子の足場が伸び、配管が天井や壁に張り巡らされている巨大な空間。足場の下からは赤黒い光が煌々と静かに照り付く。


 「いいか? この一時間以内に私が無線を一度でもよこしたらコードを入力しろ。これはネストの重要機密を守るためと世界を守るためだ」


 来灯丸がそう言って鬼道の背中を押す。痛い、と呻いて振り返れば扉は既に閉まり始めていた。


 「桃城……」


 上階にたどり着き、緊張感のない電子音が一帯に鳴り響く。

 開いた扉から視線をよこす来灯丸。その奥には銀髪を揺らめかせて微笑する青年の姿があった。


 「出迎えだよ。今度はどっちに宛があるのかな?」


 その銀髪の青年は後ろを向いて、来た道に呼びかけた。

 ──只者ではない。

 既に無線を飛ばし、桃城らに呼びかけをしていたネスト兵力を片付けたのはコイツらだと確信した来灯丸は空かさず踏み込んだ。


 「雷刀牙ッ!」


 鉄塊に黄に輝く影が流れだし、鋭利な刃が展開して超振動運動を起こす。その殺傷兵器が男の背中を確かに貫き、肉片を何マイクロ秒の速度で飛散していく。


 「ハァッ!!」


 鉄塊を振り上げ、男の腹から右肩にかけてを切断する来灯丸。よろついた足取りで姿勢を崩す銀髪の青年目掛けて追撃の蹴りを見舞って吹き飛ばす。


 「狙撃用抜刀術──壱式『煌切』」


 鉄塊から一本のしなやかな刀身が抜身になり顕になる。虚空を捉える斬撃と連動して、吹き飛んだ男の元へ一本の真空の刃が襲いかかる。


 下半身と、二つになった上半身。計3つへと分解された銀髪の男に歩み寄り、来灯丸は口を開く。


 「貴様らの目的は何だ?」

 「存外楽しませてくれる。数分前のとはわけが違うね」


 頭と首、胸から腹にかけてと腕が繋がった半身で、青年は声色一つ変えずそう言う。

 

 「答えろ。さもなければ脳髄を分断する」

 「それは恐ろしいね。僕達の目的は、まあそうだな。不要な人類の掃除。そう言ったところか」

 「それは誰の命令だ」

 「僕の、僕達の魂の訴えだ」


 突如、銀髪の青年の目が光りだす。夕暮れの様な閃光が瞬いた瞬間、来灯丸は瞬時に身を退いた。同時に来灯丸の足幅に捉える衝撃。


 「ッ!?」


 元々は銀髪の男の下半身であった、それだけの肉塊が鋭く回し蹴りを行っていたのだ。虚を突かれ壁に打ち付けられる来灯丸。だが、継ぎ目すら無く、次は胸と腹と腕だけの半身が中空に浮遊し力強い裏拳を来灯丸の延髄を捉えていた。


 「ガッ──は」


 薄れゆく視界。来灯丸のその視線には青年のちぎれた上半身が浮遊し、片腕をこちらにかざしていた姿を目にする。


 その一帯に強い衝撃と轟音が巻き上がった。側壁には亀裂が入り、海水が流入してきている。

 壁に大の字になり埋め込まれた来灯丸。吐血を滝の様に流しながら、それでも指先で無線機を求めていた。


 「君の探しているものは、これかい?」


 いつの間にか五体満足となった銀髪の青年が涼し気な表情と声色でそう言う。来灯丸の眼前に掲げられたそれを見て、少女は衝動的に手を伸ばそうとする。


 「させないよ。君がコレを使って何かをしでかすかもしれないからね」

 「……テメェッ! 桃城や兵力に何をしやがった!?」


 その言葉に、銀髪の青年は驚いた顔をした。その次には子供の悪知恵を働かしたかのような表情を浮かべて口を開く。


 「桃城……確かにレイスケと似ていたなあの娘は」

 「……ッ!? あ、アイツは!? アイツはどうなったんだ!?」

 「知らないね。彼女が彼らを止めているのならば、ココに残る桃城はレイスケになる」

 「レイスケ……アイツが……アイツが追い求めていた男……ッ!!」

 「時間がないんでね。先を急がせてもらうよ」


 銀髪の青年は無線機を握り潰してからそれを周囲に投げ捨てた。既に海水は青年の膝の高さにまで達していた。

 青年はエレベーターの扉を殴打で粉砕し、中に入れば小さく跳ねてから床に向かって鋭く直下した。

 ドシン、と低く地響きのような音が響く。それを鼓膜に捉えてから、来灯丸の意識は途絶えた。


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