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影使いの街  作者: やぎざ
第三章 業と力
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業と力 16

 「感動の対面といったところか?」

 「ほざけ。今から貴様を叩き潰す。遺言を受け取る気もない。此処で死ね」

 「だ、そうだ。フェイレンくん。君の真髄を見せてもらいたい」


 痩せこけた頬の男、桃城レンスケが言って身を引く。桃城レンカの前に出るのはフェイレン。そう呼ばれる大柄の男──基、月影。


 「どけ。始末するぞ」

 「成る程。血気盛んな娘だ」


 そうフェイレンが関心したかのような声を漏らした次の瞬間には顎から脳天まで貫く赤い影が一本伸びていた。


 「荊棘裁ルフスレイン」


 二本指を揃えて上方向へと第一関節を曲げる。


 身を翻してフェイレンは距離取る。包帯は引き裂かれ、狼の様な顔を露わにしていた。血走った眼光がレンカを捉え、筋組織は収縮し、次の瞬間には瞬き一つさせない速度で殴打を繰り出せる体勢を取っていた。


 「……そこ」


 レンカがそう言うと同時に平べったく鋭い赤い影が地面から伸び、足首を切り飛ばしていた。


 「ぐッ!」


 体勢を崩したフェイレンめがけ、レンカの素早い飛び蹴りが襲いかかる。

 既の所で静止。直径10センチにも満たない空間の壁が、桃城の攻撃を遮っていた。


 「『障壁』か」


 ぼやいてバク宙し、中空で赤色の粒子を浮かべてフェイレンに向かって放つ。

まるでガス。無数に分散したレンカの影、荊棘裁ルフスレインがフェイレンの障壁に向かって飛びかかる。


「解いた所で──!?」


その粒子がフェイレンの体表に接触すると同時に、無数の切り傷が出現した。黒色の体液が暗闇に飛散した。

本来破壊や攻撃性を持たないその粒子。『混線』──


荊棘裁ルフスレイン。内包影力『切断』

影そのものに無数の斬撃を内包したそれは、人や月影が触れるだけで切り飛ばしてしまう。ただ触れるだけで明確なダメージとなるその影は、身体負荷をかけるほどの大出力を必要とすることもなく、乱打して回避をさせないだけでも十二分以上の損傷を与えることができる。


「終いだ」


桃城がガスのように散りばめた赤い影を腕に纏いフェイレン目掛けて振り払う。たたきつけられる微小のナイフ群。それらがフェイレンの身体に打ち付けられたかと思えば、瞬時にして引き裂き身体を微小な肉片へと変える。火花のように飛散した肉片で溝は無くなる。胴部で上下へと分断し、二つとなった月影が地に落ちた。


「……ほう」


感嘆の声を漏らす桃城レンスケ。


「復讐が何も生まないだなんて言われて、一度思い返したこともある。それがなきゃ自分の強さも保てない弱い人間だってことも分かっている。でも。縋るしか無かった。そして、殺すしか無かったんだ。お前を」

 「……いい目をするようになったな」

 

 桃城レンカはただ、殺意を脳裏へと駆け巡らせていた。冷たい火花。そう表現ができるような信号を脳裏に植え付けて歩を進める。向かう先は己の肉親ただ一人──


 「だが、詰めが甘いのはお互い様だ」


 桃城レイスケ。彼がそう言うと同時に、桃城レンカの腹部を切り裂いて飛び出す毛むくじゃらの太い腕があった。


 「フェイレン。正しくは──『惨殺のシャウトキリング』 触れたものを『殺す』影を内包する、月影らしい月影だ。冷静な思考切らしたな」


 月詠の腹から伸びる腕。それから中心に「何か」が引き剥がされていく感覚があった。生命力。それらがどんどん虚脱していき、それらは足の先、腕の先、指の先、そして頭の先へと向かおうとしていた。


 「桃城──レンスケェ……!」


 呻きながらそういう桃城レンカは絶命した。

 肉塊は横たわり、その腹を貫く腕の生え際の上半身。狼男の半身も既に行動を停止しようとしている。


 「フェイレン。君の活躍を無駄にはしない。非常に興味深かったが残念だ。これも、プランのため──」

 「貴様らッ……私が居なくなって、どうやって『四海臨空のゼフトクリューゲル』を起動させるつもりだ──!?」

 「骸となった君の再生を待つ時間はそう無い。ディザストクラスハングアップ、もしくはファンブルの月影ものを手配するよ。それができるのが僕と晶叢シナツだ」

 「やはり人間は信用ならない……ッ!」

 「知ってる。だから我々が動くんだ」


 フェイレン、機能停止。身体を縮ませるようにして毛むくじゃらの巨体は小さくなり、毛は毛根へ引っ込む。最後にはゴム人形の小さな赤い塊の様になってころりと床に沈黙した。


 「今から向かうぞ晶叢シナツ。四海臨空のゼフトクリューゲル」


 桃城レンスケは着々と歩を進めていく。暗闇の廊下のその奥、この島の最下層へと……


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