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影使いの街  作者: やぎざ
第三章 業と力
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業と力 15

「『混線』?」

 「そう、名の通り混線。影は一種の情報結合体だ。強力だが、デリケート。お互いが触れ合うことで結合性は低下していく。接触面が大きければ大きいほどにね」


 全身を包帯でぐるぐる巻きにした烏丸が腕組みをしてあぐらをかく。月夜が照らしだす一帯。先の砕けた鉄の大杭と装置だけが鈍い光沢を上げ、周囲からは虫の声も野鳥の声も聞こえはしなくなっていた。


 黄仙は手を胸の前に掲げ上げて開く。上向けに向いた手の平に青紫の粒子が渦巻いて夜闇に残光を描く。影を微笑に分散させ、このホタルの様な発光体を浮かび上がらしているようだ。


 「『障壁』も影による産物。この粉みたいなのをぶつけて散らすことができる。そういうわけか?」

 「ああ。電波同士が衝突して混線するように、影も影同士の衝突によって僅かに混線を起こす。それを意図的に起こすというのがこの技術ってわけだ。粒子そのものには破壊力が無いが、障壁を崩すことで本人による物理打撃が可能というわけだよ」

 「じゃあ障壁以外にもその影をぶつければ、ビームを撃つようなそれも無効化できるんじゃないのか?」


 烏丸の質問に黄仙は首を振る。下唇を数秒間だ後に黄仙はしゃがれた声で語りだした。


 「理論上は可能だが、接触面の関係もあり、尚且つ弾速も関係する。己の身体に到達する前に消滅させなくちゃダメなわけだし、この混線を防御するプロテクトを織り交ぜた技術もラウンジでは一時期流行った。最も、その手法はコストパフォーマンスが悪い」

 「コストパフォーマンス?」

 「自分の影をチリのように変えて、ガスを操っているようなイメージで出してみたまえ」


 黄仙の促しに、烏丸は腕組みを解いて手の平を上に向ける。黄仙と同様の姿勢。イメージの通り自分の影をガスの様に微粒子化させて出現させるという方針の元、何度か行ってみた。だが、烏丸の創りだすそれは黄仙の物のように細かくもなく粗が目立つ。尚且つ形成ができたかと思えば青黒い火花を上げて分散し夜闇に消えていった。


 「『混線』は影を緻密にコントロールして初めて行える高等技術だ。集中力を当然使うし、その分動きも緩慢になりやすい」

 「弾を捌くつもりが、回避ができず良い的……か」

 「鋭いね」

 「なら、そんなことさせる前にぶん殴って沈めればいいんじゃねえのか?」

 「確かに『混線』に対する行動は一般的な体術や打撃、斬撃。影による素早い迎撃だ。或いは回避。しかし、それだけでは『障壁』の突破ができないだろう?」

 「……」


 押し黙る烏丸。口をへの字にはしているが頭で納得している。即ち、この面倒な技能の必要性と意義を見出し、それの習得のため日々精進しなくてはならないという課題が伸し掛かる感覚。一人で何かに取り組むということは嫌いではない。制限時間がなければ。

 次にあの月詠サラクがデートでもしようと声をかけてきた時、対応ができなければ終わりだ。


 黄仙がその空白を破るように咳払いをする。


 「君の攻撃は確かに重い。そして凄まじい破壊力を持っている。だが、やり方が下手だ。『障壁』による守りによって簡単に防がれる攻めだけだったら、障壁だけをしておけば良い。そこに障壁を潰す行動を織り交ぜることで、より殺傷能力の高い戦術へと昇華する。まあ、頭の悪い月影相手にした場合では、こんな技術は要らないのだがね。君が倒したい相手というのは果たして誰なんだい?」

 「ただの月影ではない……なにか」

 「月影……邪推だが、君は命が惜しくない生き方をしているようだ。影を交えれば戦術にもそれがよく出ているよ。帰る場所も、迎えてくれる者も居ないのかい?」


 烏丸の口が閉ざされる。黄仙はその思いつめて俯く表情に、過ぎた質問だったかと内心抱いたが、その僅かな沈黙を破ったのは烏丸の方だった。


 「俺は、あの居場所のために戦っているのかもしれない。アイツと共に生き続けられるように──」


 烏丸の練り上げた蒼黒の粒子が再び弾け飛び、混線はまた失敗した。


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