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影使いの街  作者: やぎざ
第一章 初まりの夜
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初まりの夜 3

 午後の授業は何だったか。そんなことを考えながら鴉丸は学外に出ていた。下唇を噛み締め、腹を擦って顔を顰めて歩を進めるその先は最寄りの公園だった。


 いきなり襲撃され暴行を振るわれ、とてもじゃないが何もなかった様に復帰するほど回復は早くない。

休息がほしい。その願望に忠実に従い、鴉丸は街をふらふらと征く。


空高く伸びたガラス張りのビルが何時にもなく陽光を照らしだし、混みあう車道。歩道にはスーツを着た男が数名見えるくらいで、こんな時間に制服を着た高校生の鴉丸を見てはけしからんと言う様に眉を潜めて無言で過ぎ去っていく。


公園には主婦層と思わしき数名が屋根ありのスペースの下にあるベンチで腰掛け何やら語り合っている。その眼前には鴉丸の腰にも満たない子供達が辿々しい足取りで追いかけては追いかけられてを繰り返していた。


鴉丸は木陰にある寂れたベンチに腰をかけた。一息ついて、サボタージュを決め込んだことに罪悪感を抱いて、それでも今更学校に戻るなんてと変な所で意地を張る自分に嫌悪感を抱いて、最終的には何もせずに肩を落とす。


数秒間、思考も何も途絶させ時間間隔が曖昧な春の陽気に浸ってあくびを一つすれば、咽頭から奥が乾燥していたことに気がつく。

懐から財布を取り出して、数枚の小銭を確認し周囲を見渡して自動販売機を探した。


「あった」


独り言って、鴉丸は重々しくベンチから腰を上げ、赤色の金属箱の方向へ向かう。しかし、向かう途中に鴉丸より先に自販機の前にやってくる影を捉えた。自分より背が小さく、プリーツスカートを履いているのを見るところほぼ同年代の女性。上半身に白色のパーカーを羽織った風貌。短めに切られた黒髪と、特徴的な二本のくせっ毛を立てるその人物は、何やら頭を傾げるなり、せわしなく動いて購入には至ってないらしい。

見慣れない風貌だった。


 「え? 何? 自販機の使い方わからない感じ?」

 「ひっ!? い!?」


 肩をすくめ、歯をガチガチと鳴らしたような表情で少女は鴉丸の方を向く。長いまつげの奥から伸びる視線が警戒の色を帯びていることに鴉丸はため息を一つして、言う。


 「100円硬貨あるじゃん? これをそう、そこの横長の線の奥に入れるの?」

 「え、あ。ホントだ。ありがとうございます」

 「あ、ああうん」


 しかし、このご時世自販機の使い方を知らない若者が居るとは。見たところ混血っぽいようなちょっとここら周りとは違った顔立ちをしている。帰国子女という言葉が浮かんだが、流暢に言葉を話すことは出来ているようだ。ずっとお城の中で過ごしてきたお姫様の絵面が浮かんだが、却下した。○○国王妃来国! なんて記事、此処数日で見たこともない。

 それよりも、鴉丸は人相の悪いその自分の顔に思いをめぐらした。確かにブサイクではない。しかしながら表情の変化のないような仏頂面は見るものを萎縮させ、更には皮肉屋な口調が同年代の男女を遠ざけてきた。不良校の出という噂も出ていることを最近知ったばかりだ。


 「えっと、学校とか無かったのですか?」

 「え?」


 ふと自分の格好を見返してみると、学校指定のネクタイに校章のピンが付いていたことを鴉丸は知る。ありがた迷惑な警官対策に、カッターシャツ姿になっていたがどうやらまだ欠点は残っていたらしい。


 「もしかして不良さん?」

 「まあ、そんな所かもな」

 「へぇ、聞いていたより割りかし知性は足りてそうなのね」


 なんだこの女。面向かって失礼極まりない。鴉丸はそう思い、眉を潜めたがその少女はどうやら悪意の無い屈託のない微笑みをしている。世間知らずなのだろう。社会経験のないこういう娘にはいつか粛清の時が来る。

 

 「どけ、俺も買う」

 「え? あ、ごめん」

 「……あんまり思ったことをそのまま言葉に出すなよ。損する」

 「あ、はい。ありがとうござい……ます」


 鴉丸は缶コーヒーを一本購入し、公園の出入り口に向かった。その背中に声をかけることも無く、鴉丸も振り返って少女を確認しようともしなかった。


 「日は高い。少し早いが、奴の所で時間を潰すか」

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