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影使いの街  作者: やぎざ
第三章 業と力
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業と力 11

 空の端は薄灰色に染まり、少し橙の光が雲に焼き付いていた。ラウンジに乱立する廃屋のビル群。その側壁には大穴が開いて、鉄骨の隙間から夕日が漏れ出ていた。


 「ナパームブリッド。学校あそこではいきなり好き勝手言って悪かったな」

 「謝るのが遅いぞ、嫌われ者。まあ、ココに来続ける根性だけは認めてやるよ」


 昨日、鴉丸と断罪のナパームブリッドと呼ばれる青年が対峙した橋。同様に今日も、二人は相対して交感神経に火花を散らしていた。


 「行くぜぇ! 新入りィ! 俺の自尊心に変わりやがれェ!!」


 黄金に輝く漆黒の煙──断罪のナパームブリッドは己の影を腕に纏って鴉丸に勢い良く飛びかかった。


 「ゴフォ!?」


 殺意をむき出しに飛びかかる男の腹を、鴉丸は影を使うこと無く肘で迎撃していた。


 (ホントに弱いな……)


 鴉丸は肘を振り払い、だらりとして動かない男を橋の外に放った。数秒後、重々しく海水に沈み込む様な音と、飛沫が巻き上がった。


 「なるほど、掴んだみたいだな」


 嗄れた声が鴉丸の鼓膜を捉える。ハゲ頭の和服の男。黄仙オウセンが腕組みをしながら歩を進める。


 「……何のことだ?」

 「自尊心が向上しておる。問題集を見つけたようだな」

 「同等、あるいはそれ以上の相手を打ち負かす方法……俺に足りないのはそれだ」

 「全力で私にかかって来い」

 「上等……!」


 青黒い稲妻が天や地に染み渡るように発現する。その瞬間、鴉丸は一気に跳躍し、一直線の雷光と化した。向かう先は黄仙。逞しい大胸筋を貫くようにして腕を突き伸ばしたが、その腕が肉体を貫き、その先の虚空を捉えることはなかった。


 地面から空に向かって伸びる流星。それがラウンジにそびえ立つビル群の側壁にめり込んだ時に、鴉丸は確認した。


 「それがアンタの『内包影力』とやらか?」

 「いいや違う。『障壁』……影力戦の基礎だ」


 胸の前で両腕を交差し、攻撃を防ぐ黄仙。その男の前には、鴉丸の攻撃を遮るように強固な空間があった。

長方形。青紫色をした光沢めいた残光がその形を象っていた。


 「成る程、この出力ならば戦闘も拒否されるわけだ」

 「……なんだよこの下敷き」


 垂直に立つビル壁にめり込む黄仙。それに向かって、鴉丸は再度、青黒い稲妻を纏わせた腕で力いっぱい強力な一撃を繰り出した。 大気を震わせ、地響きを起こす。地上で戦闘を行う影使い達の注意が一度そちらに向く。周囲の海抜林から鳥類らが散らばるように飛び上がる。雲は裂けるように形を変えた。


 轟音が一度起こり、ビル壁に一つの穴を開けて黄仙はかっ飛ぶ。追撃に向かうため宙を蹴る鴉丸。コンクリート壁が空に溶け込む様に飛散したが、黄仙の前方で鴉丸の攻撃を拒絶する空間が砕ける事はなかった。


 「ジレってェな」


 しびれを来した様に鴉丸は右下肢に影を集中させる。その後、その脚部が爆散して血しぶきが空にかかった。

 欠損した右足の先は、青黒い雷で鎌の形状を取っていた。鴉丸は身体を捻り、その凶器と化した右足を上方に突き上げ、『障壁』を張る黄仙を捉えれば一気に蹴り下ろした。


 一層大きな落雷がラウンジの大地に直下した。深さ十数メートルのクレーターが出来上がり、その中心部には鴉丸が鎌と化した脚を黄仙の胸元に突き下ろしていた。


 「……これが同等、それ以上の相手だ」

 「だが、防戦一方だと拉致があかねえぞ?」

 「それは、君もだろう?」


 何がッ! と吠えるように鴉丸は再度、腕に影を纏って攻撃を叩きこもうとしたが、雷は上がらなかった。


 「……!?」

 「ガス欠といったところか。最も、君という器が耐えられなかったというべきなのか」


 気がつけば鴉丸は大の字になって果てていた。空には細切れになった雲が薄紅色に染まり上がって浮かんでいる。


 「右下肢を平気に犠牲にしてまで行う猛攻。これも君の低い自尊感情故由来の代物というべきか」

 「説教か?」

 「いいや、独り言だ。これで君にも課題が見えてきただろう」


 右足からの流血はそこにはなかった。筋組織が沸騰するように鴉丸の脚の先端を伸ばしていく。下肢が再生したのを見てから、黄仙は鴉丸の腕を引いて立ち上がらせる。


 「その再生能力……も、か」

 「『障壁』 それの潰し方は何だ?」

 「知りたいか?」

 「意地が悪いなアンタ」


 黄仙はよく言われると言って腕組みをする。考えこむような素振りで数秒硬直した後に、仏頂面で下唇を噛む鴉丸に向かい黄仙は口を開いた。


 「障壁……できる?」

 「できん」

 「まあ簡単だから覚えて」

 「……」


 黄仙が拳を固めて水平に掲げ上げる。鴉丸はその意義を読み取ったのか、それとも場の空気というべきかを感じ取って、軽く拳を握る。

黄仙の岩肌の様な拳に打ち付けようとした時、鴉丸の拳に感じた感触は硬い空間のそれだった。

陽光と青紫の光が長方形を描く。


 「意地が悪いな、アンタ」

 「よく言われる」


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