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影使いの街  作者: やぎざ
第三章 業と力
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業と力 6

 平日の昼のオフィス街。高々と空に向かって伸びるコンクリートとガラスの柱。その根元を征く者とすれば殆どがスーツ服の男だ。


 「昼間は少々気が滅入る」

 「君は、夜を踏みしめる者だからね。時間を間違えたかもしれないが、一度は顔を合わせておいて貰いたい。 プランの実行はもしかしたら今夜になるかもしれないからね」


 大柄で約二メートルを超える体格をしたトレンチコート姿の人物と、涼し気なYシャツ姿で銀髪を風に靡かせる青年。

 大柄の男の方は、顔を包帯でぐるぐる巻きにして、目元以外は露出していない。また、その目元も人のそれとは違い、血の気を帯びていて人のそれではない。猛獣のように縦に鋭い同行の浮かぶ眼球。


 「プランとは? 貴様からは大まかにしか説明されていない」

 「……エレベーターに乗ろう。そこで詳しく語るよ」


 銀髪の青年はビルの出入り口に歩を向けて動き出す。

 自動ドアをくぐったそこはホテルのような内装のエントランスだった。洋風で白とベージュを基調とした落ち着いた雰囲気をしており、真っすぐ進んだそこには応接を担当する女性スタッフが2人いた。


 「ジャベリン=大洲の関係者です。連絡は着ているはずなんですが……」

 「はい。本日、大洲さんは来客がお見えになるということで──」


 促されたそこはエレベーターだった。二桁を超え三桁に達し得うる階層。銀髪の男と、大柄のトレンチコートが乗り込む。


 「すごい名前だな」

 「変な人間がこの街には多い。そもそも、そんな人間もうこの世には居ない。それよりもプランの説明だ」


 銀髪の男はエレベーターの操作を行い、97階行きの入力を済ませてから口を開く。


 「近日中、ファビア=トライシス……あの男の影である『覚醒のオストラフィア』が街に『糸吊ブラックラスプ』を蔓延させる」

 「今までを小出ししていた理由は?」

 「動向を知るためさ。邪魔者のね。そして、その管理を行っている者に今から会いに行く」


 大柄の男は、銀髪の男の発言に思わず身構えてしまう。上から下に伸びる引力。ガラス張りの壁からは街を一望でき、陽光を一面に浴びたビルの壁らが乱反射している。


 「今までの糸吊ブラックラスプは全て囮みたいなものさ。言うならばそう、餌だね。連中の戦力と人員。今動くことの出来る足軽な連中の把握のために彼らを泳がせた」

 「……それらがどう私と関係するのだ?」

 「もうすぐ起きる糸吊ブラックラスプの進出。それらは別の目的に変わる。そして、この街の端に眠る『四海臨空のゼフトクリューゲル』の再起動……それが僕らの最終目標であり、君の目的手もある」

 「最強の月影との融合……」

 「融合ではない。乗り換えさ。君の魂というエネルギーを使ってのね。そのほうが”君ら”にとって都合が良く、目的としているものの遂行に最も適しているだろう」


 既に殆どのビルは外壁のみならず、屋上を二人の眼下に見せていた。給水タンクや、ガーデン。それらが人の営みを感じさせる。


 「……話を戻そう『フェイレン』 今から会う人物は、生憎バトル向きの人間じゃない。だからこそ同様に君の護衛が必要なんだ。そして、プランの実行の際にその人物は僕達と同行し『四海臨空の骸』の回収に向かうこととなる」

 「……」

 「心配しなくていい。彼は人間に感心は無いが、君たちのことは大好きなんだ。きっと君も気に入られるよ」

 「そうではない。貴様は私という存在の種を知っていながら、なぜ戦力にならない人間の護衛を任すのだ?」

 「……そうだな」


 引力が止まって、身体が薄く浮かぶ感覚。重たい扉が左右に開いてその奥を見せる。眼前に伸びるのはT字路のような廊下で、その線と線の結合部には「大洲」という立て札が下げられた扉があった。


 「僕達としても今回のプランは少数で収めたい。情報の漏洩は予期せぬリスクを孕む。だから人間は頼りたくもないし、戦力になる人間で無所属、尚且つ僕達の理念に同意できるのは居ない。だからこそ、世間体や立場のない月影きみたちのような存在に力を借りたというわけだが──」


エレベーターが開くと同時に、その扉が開く。中から顔を出すのは中肉中背の男。


 「遅れてすまない『桃城レイスケ』 彼が『影裂のフェイレン』」


 美形ではあるが、健康的な風貌ではない。長い黒髪は肩まで降りており眼元は落ち窪んでいる。それでも、彼は爛々とした眼差しをフェイレンと呼ばれる大柄な男に向けて立ち尽くしていた。


 「『晶叢あきむらシナツ』 プランが楽しみになってきたよ」

 「それは結構」


 ゆったりとした歩幅で、黒髪の男、桃城レイスケは二人の元へと歩み寄る。同時にフェイレンの方に差し出される腕。


 「これからよろしく頼むよフェイレンさん」

 「……」


 握手を求めるその手に敵意はない。フェイレンは沈黙しながらぎこちない腕の運びで桃城レイスケと手の平を介した。


 「彼が君を求めた」


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