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影使いの街  作者: やぎざ
第三章 業と力
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業と力 5

 鴉丸が男に招かれたのはチェーン店らしき内装の喫茶店だった。円柱状のアクリルガラスが周囲を包むように象る外見。その短い円柱が積み木のように高く積まれて一つのビルのように形成されている。周囲を見ればそんな建物が周囲に乱立しており、時には太い橋のような物が建物と建物に架かっている。元々は飲食店や、衣料品、雑貨を取り揃える店舗の集合団地のようなものにも見える。


 「ここはどういう所か、教えろと言った表情だね」


 鴉丸は表情を崩さず、口をつぐんだままだ。男は割れて大穴の空いた円柱アクリルガラスを跨いでその先の木製のテーブル席の方へと向かう。


 「誰がここに迎えと促したんだい?」

 「……コグネ」

 

 鴉丸が短く言うと、男はアイツかと顎に指を沿えた。


 「かけたらどうかね?」

 「アンタの名前は?」

 「黄仙オウセン

 「……鴉丸スイレン」


 黄仙と名乗る男に続き、鴉丸は灰色の砂埃を被った椅子に座ろうとする。小汚いそこへ腰を下ろすことに躊躇していたが、やがては座らないと次の話に転じ無いと判断し腰を下ろした。


 「ここは日夜影使いが抗争している場所と奴からは聞いた。何が目的だ?」

 「目的なんてないよ。ただ勝敗を決めたいだけだ」

 「勝敗?」


 ハゲ頭の黄仙は、一つ鼻息を漏らして口を開いた。


 「一言で言うと自尊心」

 「自尊……心」

 

 黄仙は逞しい胸筋の見え隠れする和服の内側から、小さな白く平べったい物体を取り出した。電子機器のようだ。表には黒く象られたモニターのような部分が取り付けられている。


 「人は誰かを打ち負かした時に、何にも言いがたい充実感と自己肯定感を得るものだ。それも闘争。人が昔、狩りをしていた時に使った本能と、影の力を存分に使っての戦闘そのものに意味があり、此処では求められている」

 「要は力を存分に使って殺し合いが出来る場所が、影使いの中では求められていたと?」


 低い声色で言葉を漏らす鴉丸。だが、和服の男は嗄れた声で大笑いをしてから言う。


 「まあそんなところだね。自尊心の充足のために、潰し合いを日夜行っている。この『自尊心メーター』を使ってな」


 黄仙は白い電信機器を鴉丸の元に向ける。


 「……アップル?」

 「ほう。君の自尊心は256か」

 「それは高いのか?」

 「一般的に君の様な歳の子は1500前後をキープしている」

 「……」

 「お? 250になったぞ。6減った」


 鴉丸は内頬を噛みしめてその機器に視線を落とす。


 「あのコグネは、ここで自信でも付けろとでも言いたかったのか?」

 「さあな。だが、この数値が低いこと自体、君に何かしら意味のある不満や不安があるからじゃないのかい?」

 「……」

 「だったら試しにここの強豪と戦ってみるといい。大体7000代にいる連中は強い。そういうのとやりあえば答えは見つかるんじゃないか?」

 「……あの、断罪のナパームブレッドだのビレッジだのと言っていた男の自尊心はいくつだ?」

 「確かアイツは900代の雑魚だったな。私が測定した最後は何時だったか忘れたが」

 「そうか」


 それは君に渡そう、黄仙はそう言ってから自尊心メーターとやら白い機器を鴉丸の元に渡す。


 「急ぎのアテは無いんだろう? こんな所に来るぐらいなんだから」


 嗄れた声がそう言った突如、爆音と爆風が店外で巻き起こり、砂埃が霧散する。


 「やっているようだな。混ぜてもらえ」


 鴉丸は電子機器を握りしめて立ち上がる。


 「物は試しだ。アイツも無能ではないはず。きっとここに何かあるかもしれない。俺が強くなれるための何かが……」


 青黒い雷めいた影を纏って、鴉丸は店外に巻き上がる砂埃の方向へと歩を進めた。

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