業と力
毎週2回ほどの事だ。
いつもどおりのことだったが、その日は違っていた。
鴉丸宅から南に電車で十数分のそこにある廃屋の空港での闘争。茜空に染まるそこで、雷鳴が空に瞬き、宙を切る鋭い轟音と粉砕される瓦礫。
砂埃が舞い上がり、隕石の如くそこに落下する蒼黒と白銀の光。
「……フゥ……フゥ……」
「……惜しいなぁ。後一歩叶わない」
大の字になって仰向けでくたばる少女と、その首を上から鷲掴みにする少年。
既に毛髪を銀色に染め上げ、上肢片方は鋭い爪を持つ異形のそれと化した少女は悔しそうにそう告げる。相手も片目を中心にどす黒い火花を巻き上げる人間離れした風貌の、長身の少年。鉛色の髪を風で揺らしながら、乱れる呼吸と焼けつくニューロンを正常に保とうとさせる。
「でも……」
少女はそう漏らした。そこから吐かれる言葉に、その少年鴉丸スイレンは鼓膜に神経を集中させる。
それは彼女が人でない怪異、月影としての言葉なのではないかという直感的な意識から来るものだった。
「次、殺しあう時はスイレンを殺せる」
「そうかい」
ぶっきらぼうに少年はそう漏らしたが、その実発言には怯えていた。
いや、見透かされていたという言葉が正しいのかもしれない。
実力差は僅差ではあるがその少女、月詠サラクの方が上を行く予感があった。彼がこうして彼女に勝ち越して来ていた”それ”も既に尽きかけて居るのかもしれない。
その後、ドロの様に眠りだす月詠は、身体から漏れ出る銀色の光を徐々に弱めていき、鴉丸に担ぎあげられ最寄り駅についた時にはいつもの黒髪になっていた。




