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影使いの街  作者: やぎざ
第二章 人は皆消すべきなんだ
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人は皆消すべきなんだ 9

 高層ビルの上階の一室。横に見えるのは巨大なアクリルガラスの壁と、その奥で煌めく人工物の凹凸。

 立体的に四角柱のようなそれが空に向かって伸び、背面からは光を放って、またその生え際ではアスファルトにタイヤを斬りつけるように駆動する車のライトが行き来する。

 

 「いい店でしょう。ちょっとした感謝の現れという奴です」


 不格好にスーツを纏う頬のこけた幸薄い顔の男。硬そうな髪質がアチラコチラに跳ねて、錆びついたフレームのメガネをした格好だ。


 「ふんッ」

 「確かに良い店だ。ここをチョイスしたのも、下で起こるセレモニーを眺めるためかい?」


 その店は高層ビルの一角にあるレストランだった。眼下に広がるのは綺羅びやかな街と、様々な車両が行き来する巨大な道路。それにかかる橋には人々が行き来するレンサ・ブリッジ。

 ふんぞり返り、机の上に足を乗せてチキンに齧りつく男の髪色は黒字に金色のメッシュ。その横で行儀よく厚切りのステーキを切り裁くのは、作り物の彫刻のような風貌をした白色の髪色をした美形の青年だった。


 円形のテーブルに、高い背もたれをした椅子が差し込まれる店内。

 赤色のカーペットの上に立ち並ぶそれらを使い、食事を行うのはその三人だけだった。他には誰もいない。既にディナー三人分を机の上に並べたウエイターも、コックも、客や受付なども、下に広がる無慈悲なる影の惨殺劇によって恐れを抱き、逃避したのだ。


 「ええ。理不尽に恵まれ、理不尽に僕を蹴落とし嘲笑い、ずっと僕という人間を見下してきた奴らを、今度はこうして僕が見下す番だ」


 両手を大きく広げ、その後手に持つグラスを口に当て、一つその透明の液体を煽ると再度雄弁に語るような声色で続ける。


 「まだ力は使いこなすことは出来ません。殺戮衝動だけが表に出てしまう。だが、これもいずれ僕の意のままになる」

 「……ほう」

 「いやぁほんとスッキリしたよ。まずぶっ殺したのはアイツだ。大学時代に僕を騙して、中退を決定させた憎き糞女。美人局みたいに穴兄弟を呼びまくり、僕を寄って囲って暴力を振りやがって」


 打ち震えるようそう言う男。身体をかがませて、膝を折り胸の前で拳を握る。


 「ああいう人間は最後にとっておくべきだったな。僕の使う他人の影と同化し『複製』を行う影の力。もっと器用に動かせるようになってから、どうやって殺すかじっくり楽しむべきだった」

 「とんだクソヤローだなお前」

 「こんな僕を産んだ世界がクソヤローなんですよ」


 チキンの肉を食い尽くし、骨だけになったそれをそこらに投げ捨てる黒髪金髪メッシュの男。

 メガネの鼻あてを位置上げてから、その男に対して冴えないメガネのボサボサ髪の男が語り出す。


 「この世の中には死んでいい人間が居過ぎる。否、死んでいい人間しかいない。人は皆消すべきなんだ。僕の生涯は、僕以外の人間の生涯全てを象ることにしますよ。第二の人生、いやなんど死を試みただろうか、僕という人間が今、やっと生まれたようなそんなカタルシスを感じる」


 饒舌に語るメガネの男。一気にグラスに注がれた液体を飲み干してから、空になったグラスを男二人の方向に向けて掲げ出す。


 「感謝です」


 その後、一気に握るようにしてグラスを男は粉砕した。

 血の滴る手の平を、ハンカチで拭き取る仕草をして、再度背もたれの高い椅子に腰掛けた。


 「何度目かの人生……か」


 白色の彫刻染みた美しい青年がふとそうぼやく。


 「どうしたんです?」

 「輪廻転生説という言葉があるだろ? 人がなぜ生まれ変わるかは、本当の自分に生まれるためで、それをずっと繰り返す。だから、全力の自分でいられる人間となることが、この世に未練を残さず、再度コンテニューしないように生きることに繋がる。僕はそれを大切だと思う」


 静かに語る青年だが、その言葉には熱が帯びていた。語り終わってからは、冷め始めた肉を一つ口に運び、数回咀嚼した後に手元のグラスの中を啜った。


 「ケッ。意味わかんねぇよお前ら。要はぶっ殺せば良いんだろ。この世の人間全てをよ」


 吐き捨てるようにそう言うメッシュ男はもう一本、手羽先チキンを手に取り肉汁溢れるそれにかぶりついた。


 「ああ、フォビアの言う、その通りだ。一緒に根絶やしをしよう、江ノ島コウジ君。君とは良き協力者に、そして良き理解者同士になれそうだ」


 瞼を一つゆっくりと閉じてから、その白色の美青年は静かに声を沈めて漏らすように言った。


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