五枚目 ハート・ビート・ダウン
和泉は自他共に認めるカードゲームの天才だ。だが最初から、その才能が花開いていたわけではない。その戦歴は千軍万馬と形容できるような、十二歳の少年にしてはあまりに過密なものであり、彼の自信と実力はほぼそこから裏付けされている。
生まれて初めてのカードゲームの相手は姉。このときは大敗を喫した。
その次も姉。引き分けに持ち込むことに成功。
その次も姉。難なく快勝。
その次も、その次の次も、その次の次の次も姉。もう敗北という文字の形すら曖昧になってくる程に連勝。
そこから先、どれだけねだっても、永遠に姉はカードで勝負することをやめた。
その後、小学生の仲間や、ショップのデュエルスペースでの戦いを経て、世界大会を総なめし現在に至る。だが、その道程のどこにも任侠だけはいなかった。
世の中には一枚で数百万円の価値を持つカードや、開封されない限り一千万円の価値を持つパックが実在する。だが流石に彼らにとっても『玩具』は取引の範疇外だったのだろう。
しかし現実に目を向けてみると、和泉の視界にはカードを構えるヤクザがいた。なるほど、この世界だと銃器、麻薬に並んで星術が大きな力を持つらしい。
そろそろこの世界の異常な空気に慣れた和泉は、驚きを頭の隅においやった。
「相手が誰でも関係ない。キャントリッパー! アドバイスをお願い!」
「よし来た!」
和泉はまず手札を見る。
カードにはおおよそ攻撃力か、あるいはそれに類する数値を持つ。ときにそれは一桁だったり、四桁だったり、ときには五桁以上の数値で表示される。
つまりカードゲームによって大きくバラつきがあり、攻撃力の相場はそれぞれ違う。まず和泉は『ブラッドポイントの相場』を訊こうとして――
「……あれっ?」
目を疑った。
――おかしいな。時差ボケで目が悪くなってるのかな。
一度強く目を瞑り、開ける。カードのブラッドポイントを再び注視する。
「……あれ? あれあれあれあれあれあれあれ……?」
やはり見間違いではない。和泉の手の中にあるのは、全てが星駒、いわゆるモンスターカードだ。だが、その数値が何度見ても信じられないような値だった。
眼球が痙攣し、視線がブレる。薄ら笑いが漏れ、冷や汗が噴き出してきた。
一枚目、死刑囚ネコヒゲ。BPゼロ。
二枚目、夢眼。BPゼロ。
三枚目、ウミウシコチョウ。BPゼロ。
四枚目、クッションアメーバ。BPゼロ。
五枚目、ホヤやん。BPゼロ。
「……ごめんキャントリッパー。手札事故ったみたい。なんか、ブラッドゼロの奴隷カードしか来てないんだ」
「え? 何言ってるんだお前」
キャントリッパーが心の底から理解できないような、淡々とした対応をする。
「そんなの当たり前だろ」
「は?」
「だってそのデッキ、私も含めて全て、ブラッドゼロの奴隷で構成されてるからな」
「……」
和泉は考え方を変えることにした。
通常のカードゲームにおいて『素の攻撃力が高い』ということは確かに採用の一因になる。だがカードでそれに並び大事なのは『効果』だ。
カードは『攻撃力と効果が反比例の関係にある種類』と『攻撃力と効果は比例して強くなっているが、その分出しにくくなっている種類』に分けられる。
おそらくこのカード群は前者だ。それも『攻撃力を完全に犠牲にして効果にしか期待しない』という一点特化のデッキ。
このタイプは『永続的に効果を無効にしてしまうカード』に気を付けてさえいれば、圧倒的有利にゲームを進めることができる。
キャントリッパーも、手札にBPゼロの星駒しか来ていないことをまったく危険視していない。ならば頭脳を務める自分が動揺して如何とする。
「いや、何でもないんだ。それより、お互いの星術師が自分の手番でやることを教えてよ」
「まずはスタートステップだな。これはもう終えたことにしていいだろう。次にドローステップだ。カードを一枚ドローする」
「ドローね」
カードを一枚引く。今度来たのもBPゼロの星駒だった。
ここで和泉は、今まで引いたカードが全て水色の枠を持つことに気付く。そして、その枠内の絵柄に描かれているのは、ホヤ、アメーバ、ウミウシ、ナマコと海や水を連想させるようなカードばかりだった。キャントリッパー自身も人魚なので、この共通点がふと気になる。
「……ねぇ。さっきから水色の枠のカードばかり来てるんだけど」
「そりゃそうだろ。私たちは全員水星出身だぞ?」
「へー」
――水星って水あったっけ?
できるだけ平素を装って応えたが、心の中は戦慄いていた。先ほど空に浮かんでいた天体を確認しようと空を仰いでも、既に曇っていてよくわからない。
おそらく彼女の知っている水星と、和泉の知っている金属だらけの水星とは別物なのだろう。別世界だから相違点があって然るべきではあるが、同じ名前のものでここまで違いが出ると流石に怯む。
それはさておいてドローステップは終わった。この世界の考察は後回しにして、今はゲームを進めなくては。
「ドローが終わったら?」
「チャージステップ」
「チャージ?」
「俗称は『稼ぎ』だな。《キャントリッパー》のBPの反対側にCPってあるだろ?」
盤上の《キャントリッパー》を見た。確かにBPの反対に、効果テキストを挟むようにCPと書かれていた。数値は十万だ。
「あるね。これは?」
「チャージポイントだ。チャージステップにおいて重要になる値だな。一ターンに一度、ブレインはハートのCP分だけ自身のブラッドを蓄積することができる」
「んっ!? それどういうこと!?」
キャントリッパーの説明は至極易しいものだったが、内容が信じ難いものだったので思わず訊ねてしまう。それが本当なら、和泉は毎ターン『初期ブラッドの半分に当たるポイントを懐に入れることができる』ということだ。それもノーコストノーリスクで。
いくらなんでも話がうますぎる。その反応を見たキャントリッパーは誇らしげに胸を張った。この瞬間が一番気持ちいいと顔に書いてある。
「私のCPは凄いぞ。なんと銀河中で一番高い! まあ同着一位が何人かいるが、それもそんなに数は多くないんだ。やり方は私に手を翳してチャージと唱えるだけ!」
「……これチャージしたとしてデメリットないの?」
「チャージ自体にはデメリットはない」
「チャージ以外には?」
「さあチャージしろ! さあさあチャージしろ! 稼ぐぜー!」
「……」
意図的に和泉を無視している。彼女は気分を無理やり高揚させ、ぴょんぴょんと小さく飛び跳ねていて、こちらを見ようともしない。どうやらチャージ以外に致命的なデメリットがあるようだ。
今は和泉自身も考えないものとして、キャントリッパーの小さな体に手を翳す。
「チャージ!」
本日何回目になるかわからない心臓の鳴動。
キャントリッパーと和泉の心臓の鼓動が重なり、二人の間の魔力バイパスを利用して、増産したブラッドを和泉の方へと送る。
キャントリッパーのテンションが高まっているせいだろうか。その勢いは思いやりが欠片もなく、逆流したブラッドは和泉の心臓を破裂させんばかりに膨張させ、受け止めきれず暴走した分が視界を真っ赤に染める。
「ぐっ……!?」
全身の血管が激しく収縮。人体は目へと溢れ出したブラッドを急ぎ回収し、視界の赤みは消えた。いつの間にか上がっていた息を必死に整えて、歯を食いしばる。
完全回復にはまだ時間がかかりそうだ。それまでの時間を紛らわそうと、和泉はこちらを心配して落ち着かない挙動を繰り返す彼女に訊く。
「……さっきから気になってたけど、ブラッドってその生物の血液そのものなのかい?」
「いや。私たちがブラッドと呼ぶものと血液は違うものなんだけど、血液の中にブラッドがあるから、血液ごとブラッドを扱ってる感じかな」
「じゃあ分離してから扱えよ!」
「ごめん。その技術、まだ個人単位でできるようにはなってないんだ」
「……はぁっ」
和泉は佇まいを直し、呼吸を半ば強引に整えた。ともあれ貧血は解消できたのだ。それでよしとする。
盤の所持BPの表示を見てみれば、確かに二十万から増えて三十万となっていた。
「おお。本当に増えてる」
「だろう? 凄いだろう?」
「……」
胸を張って威張り散らす彼女に凄い、と素直に言ってもいいのだが、和泉の中の経験がそれに待ったをかける。このシステム、どこかに大きな瑕疵がある。そんな気がしてならなかった。
「えーっと、とりあえずチャージステップもこれで終わりかな? 次は?」
「メインステップ。星駒の召喚や星術の行使はここでしか行えない……けど、私たちのデッキには星駒しか入ってないから、あまり考えることはないな」
「つくづく初心者に優しくないデッキだなぁ。で、一ターンに何体召喚できるの?」
「フィールド上にいる星駒のBP合計値が、ハートのBPを超えない限りいくらでも」
自分たちの場合、ハートはブラッドゼロのキャントリッパーなので、場に出すことのできる星駒の最大合計値は――
「……ゼロじゃん」
考えるまでもなかった。なるほど、確かにこれなら自分のデッキに奴隷カードしか入っていないのも頷ける。
対する相手のハートはBP十万のアトランタなので、五万のBPを持つ星駒を二体まで召喚できることになる。
「今さらなんだけど、ハートって代えることはできないの?」
「何だ? 私じゃあ不服か?」
不服そうに眉を動かす。そういう意味ではなかったのだが。
「残念だが、一度出したハートは代えることはできない」
「どんなことをしても?」
「……いや、まあ例外はあるが……あれは代えてるわけじゃないから、うん」
強く訊くと歯切れが悪くなる。そっぽを向いてぶつぶつと嘯く声は聞こえない。
「……ハートゾーンに置いたカードは、どんなことをしても外すことはできない。これだけは確かだ」
「ふーん」
外すことはできない。
カードゲームに精通する和泉は、これだけで何となく予想が付いた。しかし、どうやらキャントリッパーに関係のない話のようだ。よって和泉にも今のところ影響はない。
頷いて、和泉は手札を見た。
「六枚全員星駒、それもBPゼロの奴隷。一見して意味不明のカード群だけど……」
「勝てるようにはできてるぞ」
「……うん。勝つよ。召喚の仕方を教えて」
キャントリッパーはここに来て目を白黒させた。まさかここまで抜本的なところまで教えるハメになるとは、という表情だ。
眉間を押え、しばらく何事かを考えた後、痛みに呻くように苦しげに声を絞り出す。
「……カードは縦。表側表示で、出してくれ」
「う、うん。ごめん。なんかごめん」
しかしカードゲームによっては、カードの向きと出し方のミスは後々に多大な衝撃を産んでしまう。その衝撃は間違いなく、初心者の和泉と攻撃力ゼロのキャントリッパーには無視できない。
ひとまず、目に付いたカードを一枚、表側表示で盤に置く。
「僕は《死刑囚ネコヒゲ》を召喚!」
カードを認識した盤は、歯車を高速回転させる。星術式クロック同期設計が悲鳴を上げ、平面上の電撃がビリリとカードを中心に走る。
星術式バイパスを通じ、指令がキャントリッパーへと送られ、それを受け取った彼女は杖を振りかざし、その先を振るって目の前を指し示した。
「さあ! 久しぶりの出番だネコヒゲ! 新しい主人に拝謁を!」
渦状の風が巻き起こり、それに沿って光の柱が構成されていく。先ほどのキャントリッパーの招聘と似たような原理で、何かが杖の先で質量を得て、姿かたちを表していく。
キャントリッパーの召喚タスクが終わり、出てきたのは紅く長い髪を携えた大柄の男だった。服は黒と白の縞々囚人服。足には、鎖で鉄球と結び付けられた足枷。
全体的に柄の悪そうな男だが、顔に付いた『猫のアンテナ髭』が何とも滑稽だ。気怠そうに、足枷の付いていない足で、もう片方の脛を掻いている。
和泉は実のところ、彼のことが気になっていた。他のカード類は大抵、水か海かを連想させるカードだったのに、何故か彼にはそういうところが見受けられない。効果に期待していたのではなく、純粋な好奇心で彼を選んだ。
大あくびを一つしたあと、ネコヒゲはじろりと眼球を動かし、キャントリッパーを視認する。
「久しぶりだなリップ嬢。眠りすぎて、そろそろ鼻提灯にカビが生えるかと思ったぜ」
「すまないな。新しい主人を探すのに思いの外手間取って」
「……で、その新しい主人は……」
きょろきょろとネコヒゲが周りを見渡す。しばらくその行動を続けた後、ふと下に目を向けて、やっとのこと和泉を見つけた。ネコヒゲは膝を折りしゃがみこんで、ゆっくり品定めをするように和泉を見る。和泉は警戒して、半歩身を引いた。
やがてネコヒゲが納得したように口を開く。
「この人か。アンタの好み変わんねぇなァ。どことなく牡丹に似てるじゃないか」
「……誰?」
「おっと。俺としたことが、今の主人の目の前で前の主人の話をしちゃダメだよなァ」
やってしまった、とわざとらしく手を額に持って行き、痛みを耐えるような顔になる。
どことなく彼の行動言動挙動すべてに演技じみたところを感じた。その正体と本心は、飄々としていて掴みどころがない。
「今後ともよろしくだ……さて、拝謁はこれでいいよなリップ嬢。敵はー……あっちか。よし」
ネコヒゲは足枷の鉄球を持ちあげ、のろのろと歩き、リップと龍人の間に入った。
ただし、動きはノロノロしているが、その鉄球を持つ動きはどこか軽々としていた。囚人服越しではわからないが、かなりの膂力を持っているようだ。
さて、ここまで観察したものの、彼に頼り甲斐があるのかないのか判別が付かない。しかし一つだけ確かなことがあった。
「……水要素ゼロだね。水星出身なのに」
リップは困ったように首を傾け、半笑になる。
「大むかしは大海賊として有名だったんだが、今は見る影もないな」
「あ、そういうこと! 裏設定に水要素あったんだ!」
「ちなみに浅井長政と同い年だ」
「一五四五年生まれの四百六十九歳!?」
キャントリッパーより十一歳若いらしいが、それでも長寿であることに変わりない。この星駒たちは一体どういった存在なのだろう。見た目は、和泉たち基本人類とほとんど差はないのだが。
「……で、キャプテン。メインフェイズに召喚したいのはネコヒゲだけか?」
キャントリッパーの意思確認に、和泉は頷く。
「じゃあこれで先行一ターン目は終わりだな。本当はこの後アタックステップがあるんだが、先攻一ターン目の星術師にそれを行う権利はない」
「わかった。ターンエンドを宣言するよ」
カチ、と盤の中でギアが変わったような音がする。この機械の中で、処理すべきものの変動があったらしい。
「相手のターンだね」
「あ、そうそう。相手の盤は、自分の盤を裏返すと見ることができるぞ」
「それ結構重要な情報だよ。どれどれ」
黒いカラクリ仕掛けの盤を引っ繰り返し、裏を見る。
青みが少しだけかかった、若干不鮮明な立体映像が飛び出した。それを移しているのは、携帯に取り付いているカメラよりも小さいレンズ一つだ。
「相手の場にあるのはBP十万の龍人・アトランタ。確かハートって、条件を満たせば直接攻撃に出れるってこと言ってたよね? その条件って?」
「盤にハート以外の星駒が存在しなければ直接的に戦闘に参加できる」
「……ちょうど今の相手の盤みたいな状態?」
「そうそう。ちょうどあんな感じ。でも気にするな。複数回攻撃効果でも持ってない限り、相手ハートが直接的にこっちを殴ってくることはありえな――」
キャントリッパーの講釈は、途中から和泉の耳に入ってこなかった。
手慣れた調子で、相手の盤はステップを終わらせていく。まずCP二万のアトランタでチャージし、茶恋寺の所持BPは二十二万になる。
そして相手は星術を発動。赤い枠だが、枠の形が星駒のそれと違うものだった。
効果テキストを読み込み、和泉は息をヒュッと飲み込む。
「……何でハートが単独で攻撃をしてこないってわかるの?」
「何でって、旨味がないからだよ。一体の星駒が攻撃できる回数は、一ターンに一度だ。一度の攻撃なら防ぐ方法なんていくらでもある。星術師同士の戦いは『たくさんの星駒を並べての総攻撃』が一番効果的なんだ」
「でも多分、ハートってそのデッキで一番の戦力を選ぶものなんだよね?」
「確かにそうだけど、そういうふうに『専用の構築』をされていないデッキならハート自体の戦闘的脅威なんて度外視しても」
ズシンズシン、という音が聴こえたキャントリッパーは、話の途中で相手に意識を向ける。
こちらに向かって突進するように槍を振りかぶり、殺気を槍に纏わせて吶喊してくるアトランタを見て、キャントリッパーは失神するかと思った。
辛うじて意識を頭に叩き戻し、震えながら悲鳴を上げる。
「グロリアスにこっち来てるぅーーー!? 何でぇ!?」
「どうやら専用に構築されたデッキを使ってるみたいだなぁ」
相手が使ったカードは、コスト五万ブラッドポイントの星術カード《トリッキーストライク》。
細かいところはまだ読み込んでいないが、効果テキストの中に和泉は『攻撃回数を一回増やす』という記述を間違いなく目にしていた。
まだキャントリッパーに説明を受けていないが、ここで和泉は星術カードの正体を理解する。
コスト五万BPと書かれているカードを使った茶恋寺の所持BPが、二十二万から十七万に減っていた。おそらく星術カードは使うたびに所持BPを消費するのだろう。こちらの奴隷デッキに対して、実にコストパフォーマンスの悪い戦い方だ。
だが実際に、それは自分たちを追いつめている。
「キャプテン! アイツ私を攻撃しにかかってる! 助けてくれ!」
「えっ? いや助けてって言われても」
確かにアトランタのカードの上には『攻撃対象:相手ハート』と表示されている。相手にとっての相手ハートと言えば、間違いなくキャントリッパーだろう。だが助け方がよくわからない。キャントリッパーに訊こうにも、彼女はテンパって自分に抱き着いている始末だ――
「って抱き着くなよ! 僕まで巻き添えくらうだろ!?」
「死なばもろともーーー!」
「主従関係の欠片もない!」
「ブロック」
――え?
二人して、声のした方を向く。平然としているネコヒゲが、鉄球をおろして猫背で佇んでいた。
「ネコヒゲでキャントリッパーをブロックと宣言して、俺のカードを横向きにしろ」
「ん? うん。ネコヒゲでキャントリッパーをブロック!」
盤を表向きに直し、ネコヒゲのカードを横向きにする。
劇的な効果が現れた。ネコヒゲは、鉄球を発泡スチロールのように軽々と引きずり、吶喊するアトランタに横から抱き着くようにタックルする。実は鉄球は張りぼてなのではと疑うも、鉄球が引きずられる度轟音を伴って地面を抉っているため、その質量を認めざるを得なかった。
ネコヒゲのタックルを食らったアトランタは大幅によろけ、キャントリッパーに槍を突きつける前に倒れる。
ネコヒゲを振りほどこうとアトランタはもがくが、彼は意地になっているのか一向に剥がれない。やがて、痺れを切らしたアトランタは彼の顔を力いっぱい殴りつけ――
「なっ!?」
和泉が止める間もなく、のけぞった彼の腹に巨大な槍を突きたてた。




