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十五枚目 物凄い手のひら返し

 都庁北棟四十五階。星術師専用の食堂『すばとり』は洋食店だ。だが、それはあくまでも表向き。インド産のカレーと日本産のカレーが別物であるように、源流が西洋でも日本のアレンジを強く受けた洋食は数多く存在する。

 この洋食店は、そういう『もはや別物』な洋食を、何の気後れもなく出している。結局のところ『なんちゃって洋食店』なのだ。

 場合により、下手なこだわりを捨てた方が一般の受けがいいこともある。この洋食店はまさにその最たる例だろう。値段設定は高めだが、レパートリーは豊富だし、なによりも美味い。


 そのデザートラインナップの中、値段に並び実物も最大の『黒蜜パフェ』を幸せ極まれりな表情でパクつくはメードだ。

 和泉は彼女へのお詫びの席に、早速予想外の出費を重ねてしまう。隣では恐怖と慙愧とその他諸々の情に支配され、蒼い顔で俯いているリップがいる。和泉としては、辛気臭さが伝染しそうなのでこの顔をやめてほしかった。


「……で? 話ってなに?」

「むあ? なんだっけ?」


 平然と、頬にクリームを付けながらメードは首を傾げた。この幸せの前では、あらゆる事柄は些事だろうと。


「おいおいおい。呼び出しておいてそりゃないよ。こっちはその恐怖感だけでリップが一回死んでるんだ」

「……ひゃいっ!?」


 まさか自分に話題が向くとは思っていなかったリップは、信じられないような顔で和泉を凝視。その後、メードの視線を受けていることに気付いた彼女はすぐさまに、へつらい始める。


「いえっ、そんなっ! 私のことなんて気にしなくてもいいですけどォ!? 不老不死ッスし!」

「口調おかしくなってるよ。ひとまず落ち着きなって。すぐ殺されるってことでもなさそうだし」

「もしそうなったら地平線の果てまで逃げような!? 約束な! 約束だかんな! お願いだから一人で逃げようなんて考えないでくれよ!?」

「はいはい」


 脇にしがみ付くリップの背を落ち着けるように何度も撫でてやる。そこから伝わってくる体温は熱く、心臓の鼓動は早鐘のようだった。常々思う。頼り甲斐が無さすぎるだろうと。

 その取り乱しようを観察していたメードは、心の底から呆れたように訊ねる。


「……あなたのデッキハート、随分と、その……アレだね? 大丈夫?」

「御心配どうも。性格は確かにこうだけど、能力だけは優秀だからいいんだよ。別にさ」

「能力だけ優秀でごめんなさい……」


 そこは謙遜しない。恐怖している状態でも、ところどころ個性が露出している。知らず、和泉の口に苦笑いが浮かぶ。

 すぐに殺されるわけではないというのは安心させるための方便だということを、この女はまったく理解していないらしい。今の一言が都庁最強の不興を買ったことを察知していない。

 皮肉を明後日の方向に跳ね返す能力持ちとは恐れ入る。お蔭で彼女には、いかにも『二人で息を合わせてそれとない挑発を繰り出した』ように見えただろう。

 緊張感で首の回りがキリキリ痛む。


「……私のデッキタイプに対する当てつけ?」

「……」


 彼女のデッキが『BPとCPが優秀なだけのバニラカードを中核とした構成』をしていたことを思い出したリップは、自分のヘマを自覚して、ますます抱き着く力を強める。


「あんまり苛めないでやっておくれよ。また死ぬからさ」


 と、澄ました顔でフォローを入れる和泉自身も怖くてたまらない。

 本来、リップたち星駒は死という概念を持たない。心臓が止まったり抉られたりしても、それは『死ぬ程に辛い』というだけ。

 ゲーム上なら治療費を払えば復活できる。現実の上なら時間を待てばいいだけ。復活(リスポーン)をちょっと早めたいのなら心臓マッサージなどの医療技術を行使すればいい。

 だが和泉たち、地球原産の基本人類(ゼオセントロイド)は死んだら代えが効かない。原則、生物の価値を表すブラッドを運用するその性質上、星術は生物しか使えない。更に言うなら、生物全体に不可能なことは星術であっても不可能だ。

 有史以来どころか、この地球が誕生してからというもの、死者蘇生を成し遂げた文明や生物は一つたりとも存在しない。

 身も蓋もない言い方をするならば、科学での再現性が認められないものは、魔道技術でも同様に無理なのだ。

 この状況、速い話一番危険なのは、基本人類である和泉ということになる。


「気を悪くしたのなら謝るよ。追加注文でもしようか?」


 一対一の状況、インタビュアーは笑顔を絶やさないことが鉄則になる。状況にもよるが柔和な笑みを浮かべている相手に対し、一方的に怒る人間や、無視を貫き通す人間はそうそういないからだ。

 今このとき、凄惨な行いを繰り返すメードと向かって、平然とニコニコしている和泉のことを感嘆でもって、遠巻きから観察している野次馬たちは、和泉の笑顔がどれほどの労力とカロリー消費の上で成り立つかなど、知る由もないだろう。

 果たして、和泉の苦労は報われることになる。メードは和泉にふっと笑いかけると、やっとのこと本題に入った。


「あなたのこと、茶恋寺から聞いてる。強いんだってね?」

「心強いだろ?」

「うん。とても。あなたが私の味方なら、の話なんだけど」


 一つ頷き、彼女は相棒を『リバシィ』と甘い声で呼び、テーブルの上に立ちあがらせた。その後リバシィは、片手に持ったスマートフォンの画面を何度かタップしたあと、二人に見えるように液晶を見せる。

 画面には八百十五万六千三百六十一という数字が表示されていた。数字の頭には『B』と『D』を組み合わせたようなモノグラム。おそらくブラッドの通貨記号だろう。


「これは?」

「新宿区星術師協会が保有しているブラッド総計。思想の説明は受けた?」

「さらっと受けたよ」

「話が早い。じゃ、打ち明けようか。この星術師協会の持つ思想について。と言っても、そう難しい思想は持ってないんだけど」


 パフェのグラスをスプーンでかき混ぜながら、メードは言う。


「このブラッドは、星術と星駒の研究に使わせてもらう。理由は強くなるため。最終目標は特になし。以上、思想の説明終了」

「最終目標、特になし? それ、ただ単に強くなりたいだけってこと?」

「そう」

「強くなって、その武力でもって治安維持に当たるとか、そういうことではなく?」

「やりたいんならやってもいいよ? この新宿区協会は、他の協会と比べてみても有数の自由度。力をどう使おうと構わない。ローカルルールは三つだけ。一つ目に、私にできるだけ逆らわないこと。二つ目に、他人に力の使い方の強要をしないこと。三つ目に、自分と自分の財産に危機が及ぶと判断したときのみ上記のルールは無効にできる。これだけ」

「ふーん……」


 個々の自由意志の尊重。

 そう言えば聞こえはいいが、要するに責任の丸投げだ。個々の取り分は大きいが、力の負担もそれぞれで行えと。

 随分と纏まりのない組織だ。経営の素人が集まった無謀なベンチャー企業でも、ここまでではない。ルール無効のルールが設定されている時点で失笑ものだろう。

 しかし、和泉にとっては随分と体のいい拠点だ。力はいくらあっても困ることはない。元の世界に戻るのに、一体どれだけの無理が必要なのかは計り知れないのだから。

 他人と他人の財産に危機を及ぼさない限り、その行為に集中できるというのも密かなメリットだ。


「……どう? 気に入ってくれた? この協会」

「ああ。この分なら、入りたいなって思うよ」

「よかった。それじゃあ、私の話はこれで終わり。あとは先輩たちに挨拶をしたり、勝負を挑んだりすればいい」


 リップの震えが止まった。恐る恐るメードの方を見れば、彼女は和泉の浮かべているような笑みで視線を投げ返す。


「あなたの主人も言ってたでしょ。殺しやしないって」

「……た、助かった……いや助かってた……?」


 最初から危機に瀕してなどいなかった、が正解だ。

 あまりの脱力感に、そんな細かいことを指摘する気概さえ削げてしまう。

 彼女と戦わずに済んで、心底ほっとした。


「じゃあ、僕たちはこれでお暇させてもらうさ。丁寧な説明どうもありがとう」

「お達者でー!」


 言うが早いか、リップはその場に和泉を置いて逃げ去ってしまった。双方の安全が保証されている状況だとは言え、なんとも逃げ足の速いこと。


「……よくわかんないなぁ。あの子」


 和泉はその後ろ姿を見ながら、困ったように頬を掻く。

 リップはしばらく走ったところでハッとして、急ぎ引き返し、和泉の手を引っ張って再び逃走を始めた。


◆◆


 本来の都庁展望台は、東京の景色をほぼ一望できる四十五階と、トイレと喫煙所の存在する四十四階しか解放されていない。

 しかし、この世界の都庁は四十四階と四十五階に留まらず、そこから屋上までの全てのフロアが星術師協会(ネビュラクラン)と化しているようだった。

 茶恋寺がメードを引き連れて屋上へと向かわせたときに気付いたこの事実は、和泉には少し喜ばしい。損得ではなく、ただ単に美しい景色が見れて嬉しいなという子供じみた感情からくる喜びだ。

 わくわくした気持ちで星術師協会を探索していると、後ろから肩を叩かれ、和泉は振り向いた。つられてリップも振り向き、露骨にイヤな顔になる。


「なんか用かよ。茶恋寺」

「後見人への態度かよ。それが」


 茶恋寺の方も、リップの眉の皺を見ると肩を軽く落とした。

 特にこれといったリアクションを取っていない和泉の方を向くと、ポケットの中から取り出した缶ジュースを投げ渡す。その後、近くのベンチを指し示し、座るように促した。

 特に断る理由はないし、和泉の方も茶恋寺と話したいことがあるので、素直にベンチに腰掛ける。リップはそれを憮然とした面持ちで見るばかりだったが、主人が話す気になっているのを妨げるわけにもいかない。

 『ん』と言って、片手を茶恋寺の方に差し出す。茶恋寺は軽く舌打ちすると、ポケットから二つ目の缶ジュースをリップに渡した。リップは顎をツンと上げ、偉そうな足取りでベンチに向かい、座る。もちろん和泉の隣にだ。しかし茶恋寺のことは、あからさまに無視している。

 邪魔はしない。だが構うんじゃない。態度で声高にそう宣言している。


「……猫宮。お前、早速あの女に目を付けられちまったな」

「その点に関しては、最初の山場は乗り切った感じかな。もう二度とあんな目には会いたくないですけどね」


 缶ジュースのプルタブを持ち上げ、カシュッという音が鳴ったのを確認すると、それに口を付ける前に和泉は訊いた。


「……何者ですか? 彼女」

「生年月日以外は不明……いや、というよりは本人曰く『最初から無い』って話だった」

「最初から?」

「後見人を立てない場合の入会費はこの新宿区協会の場合、五十万だ。これは数ある協会の中でも抜きんでて高い方でな。だがメードはどこからともなくフラッと現れて、あっさりと五十万を払って、後見人なしで入会した。入会費を払った時点でのヤツのブラッドは三千万を越していたらしい」

「三千万っ!?」


 常人の三十人分に相当する命の価値(ブラッド)だ。フリーの時代に相当の戦闘経験を積んでいたことになる。


「経歴は不明。住所も不定。名前もなく、着ていた服もボロボロ。髪は伸び放題でボサボサ。腕にリバシィを抱いているヤツの第一印象は『野性児』だ。怪しいことには怪しかったが、星術師協会にアカウントが無いことだけは確かで、しかもブラッドの総量も申し分ない。あの受付嬢は細かいことは特に考えず、全てを『まあいっか』の一言で一蹴し、ちょうどそのとき聴いていた洋楽の名前をそのままヤツに付け、アカウントを作成し、新宿区協会の中へと招き入れた」

「あのお姉さん豪胆すぎるだろ! メードはそんな適当に付けられた名前をずっと名乗ってるの!?」

「割と気に入ってるらしいぞ。名前」


 あの二人、結構気が合うのではないだろうか。なんとなく仲が良さそうだ、とは思う。


「そこからは早かった。俺はそれを当事者としてずっと見ていたから、良く知っている。ヤツはリバシィの圧倒的な制圧力で、新宿区協会を牛耳(ぎゅうじ)り、蹂躙し、自分好みに作り変えて行った。まあ、個人的にはこっちの協会の有り方が、居心地のいいものだから放置してるんだが……仮にそうでなくってもヤツに逆らうヤツはいないだろうな。怖くてよ」

「だろうねぇ」


 彼女の戦い方は、やりすぎだ。力の使い方を完全に誤っている。結果的に、彼女の利害が新宿区協会全体の利害と一致しているからいいものを、一歩間違えたら総スカンを食らってもおかしくはない。

 茶恋寺はバツが悪そうな顔になり、告げた。


「……で。猫宮。お前、五将陣(ごしょうじん)に入ってみる気はないか?」

「ごしょうじん?」

「協会ごとにいる、星術師の代表のことだ。その協会の最強の五人だと思ってていい。対抗戦で出るのは主にこの五人で、俺もその一人だ。ポジションは先鋒」

「さっきやってた対抗戦に出ろってこと? なんでまた? 欠員でも出たの?」

「これから出るんだよ」

「はい?」


 首を傾げると、茶恋寺は自分のことを親指で指さした。


「俺が抜ける」

「……なんだって?」

「この都庁五将陣、先鋒は最弱のヤツが務めることになっていてな……ぶっちゃけて言うと穴埋め要因なんだよ。やれるんなら誰でもいいんだ」


 遠回しに、自分が五将陣の中で最弱だと暴露している茶恋寺は、さして気にしたふうでもない。和泉が怯んでいると、更に続けた。


「お前は俺に勝ってるし、実力は申し分ないはずだ。やってくれないか?」

「えー……そんなこといきなり言われても。第一メリットがないし」

「五将陣に入ってると、ブラッドの売値が若干上がるぞ。ポジションに関わらず、売値は十パーセントアップだ」

「メリット結構でけぇ!」


 いや。と首を振る。この話、裏がありそうだ。疑いの目をしばらく向けると、茶恋寺は観念したように肩をすくめた。


「……先鋒は代々、他のメンバーのケツ持ち係でな……スケジュール管理とその連絡、相手五将陣の情報調達その他諸々やらされるんだよ」

「パシリじゃん! ヤだよそんなの!」

「頼むって。もう既に渋谷区の連中から喧嘩を吹っ掛けられてるんだ。流石に連続で先鋒はやりたくないんだよ。な? 今回だけでいいから」

「そんなー……」


 今回だけ、と言われても、イヤなものはイヤだ。行動を縛り付けられるのは何にも増して耐えがたい。和泉の時間は限られているのだから。

 しかし、ブラッドの売値増加は垂涎のシステムだ。果たしてどうしたものかと逡巡する。


「渋谷区協会にいる時計塔五将陣の情報は既に調達済みだ。あとは連絡とスケジュール調整だけだから。な?」

「うーん……」

「大丈夫だって。相手はつい最近、この世界に来たばかりの異世界人を大将に据えてるって話だし。この世界でずっと星術師やってた俺たちの敵じゃない」

「でも――待って。今、なんて?」


 和泉の目が、幼稚な迷いだらけの年相応のものから、修羅と見紛うような険しいものへと変化する。茶恋寺はそこで軽くのけぞりかけたが、悪くないスイッチを作動させることができたと認識した。


「相手は大将に異世界人を据えてるらしいぞ。つい最近、こっちに来たばかりのヤツらしい。あっちの世界の人間は総じて、こっちの世情と常識には疎い。蹂躙するのは簡単さ」

「……」


 茶恋寺の甘い囁きは、しかしまったく的外れのものだった。リップは、和泉を見て目を白黒させている。まさか、こんな早くに手がかりが掴めるとは思っていなかったのだろう。


「……大将、ね。どうしたら大将になれるかな?」

「あん? それは……今の大将はメードだからな。どうしても大将の座が欲しいんなら、正々堂々と勝負を吹っ掛けて、勝った上で強奪すればいい。こればかりはあらゆるローカルルールでも縛ることのできない、星術師の基本的な権利だ」


 ――だが、まさかアイツに喧嘩を吹っ掛けるわけがないだろう。

 茶恋寺は言外にそう続けていた。態度からも、敵意と害意はまったく感じられない。

 和泉はジュースを飲み干して、立ち上がり、にこりと微笑んだ。


「茶恋寺さん。いい返事をすぐにでも返してあげるよ。だから三十分ばかり待っててくれないかな?」

「ん。おう」


 それを心の準備か、はたまた現実的なデッキの準備かなにかだと信じた茶恋寺は頷き、その場を去る和泉を止めなかった。

 リップは一人だけ、彼のやろうとしていることを虫の知らせで察知し、すぐに追う。


◆◆

「パフェはパフェでも食べたくなくなるパフェはなーんだ?」

「……」


 四十五階。洋食店『すばとり』。

 その場にいた全ての星駒と基本人類は、脳の処理落ちを体感していた。

 歴戦の勇者たるメード、そしてその相棒のリバシィですら同様だ。つい先ほどまで自分たちを幸せの地平線まで誘っていたパフェを、丸い目で凝視している。

 白いバニラソフトクリームの山と、砂糖の香り漂う黒蜜のコントラストは鮮やかさを失い、今は醜悪極まる辛い臭いを放つばかりだった。全体的に緑色のぶつぶつがかけられている。


「正解は、わさびが大量にかかったパフェ。うちの姉なら喜んで食うけどね」


 からり、と軽い音を立てて床に落下する緑色のチューブを見送ってから、和泉はメードの対面に座り直す。ただ、今浮かべている笑顔は嘲笑だ。先ほどまでの人のいい猫宮和泉は、演技だったと露呈させている。

 ギロリ、と殺意の籠った目線をメードは作り、パフェを台無しにした仇敵の顔を射抜く。


「……なんのつもり?」

「いやぁ。面倒事は御免だからさぁ。終始、キミに対してはずーっと媚を売り続けて行こうって思ってたんだけどね? 事情がついさっき変わったんだ」

「なにを言っているの?」

「アンタの大将の座、是非とも譲り受けたい」

「!」


 いよいよ、メードは信じられないような顔になった。

 気を良くしたように和泉は笑う。


「というか譲れよ。つまるところ勝負だ。叩きのめしてやるよ、このメスガキ」

「……要は死にたいんだ?」


 呆然としていたメードは正気を取り戻すと、和泉に負けない程の笑顔を浮かべる。口角を釣り上げ、歯をギラリと露出させ、殺意の炎を瞳に灯す。


「いいよ。お望み通り、遺族があなたとわからないくらいの肉片にしてあげる」

「じゃあ僕はキミをハンバーグにしよう。デミグラスソース用意しなきゃ」

「あ、やっぱり骨をすり潰してカルシウム粉にしてソフトクリームに混ぜる」

「キミの臓物すり潰して健康ドリンクに」

「あなたの目玉を抉りだして目玉焼きに」

「その人体惨劇クッキングをやめろ! それより戦闘の日取りだ!」


 耐え切れなくなったリバシィが叫ぶと、二人は憎まれ口を一旦収める。先にメードが口を開いた。


「三日後はどう? 渋谷区の連中との対抗戦は、一月中ならいつでもいいって話だったけど。こういうの速いにこしたことはないし」

「それでいい。じゃ、僕は準備があるからこれで」


 悠然と立ち上がり、ポケットに手を入れながら和泉は去る。メードはわさびを避けながら、パフェをどうにか食べられないものかと苦心していた。つい先ほどまで、一触即発の雰囲気を纏っていた者たちとは思えないほどに、その場に感慨というものは残っていない。

 その様子を遠目で見ていたリップは悟る。


 ――あ。これアカンヤツだ。

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