第八話
「……珍しく二日続けて登校してきたと思ったら、これはどう言う事だ? なぜ、水瀬と黒須が一緒に登校しているんだ」
「お、おはようございます。都築先生、えーとですね」
「そこで会っただけだ。たまたま時間が一緒になっただけで、何を詮索したいんだ?」
遅刻のため、職員室に届を出さなければならず、二人は職員室を訪れた。
圭吾は伐が優夢といる理由がわからずに眉間にしわを寄せるが、優夢は遅刻をしたと言う事に申し訳なく思っているようで深々と頭を下げるが、伐は悪い事をしたなど微塵も思っていないようで気だるそうに欠伸をしている。
「……確かにそうだな。ただ、黒須、お前は反省するという事を知らんのか?」
「反省? 形だけで良いならいくらでもしてやるよ。ただ、あんたはそれを望まねえだろ? 都築センセ」
対象的な二人の様子に圭吾は大きく肩を落とすが伐は気にする様子もなく、制服の内ポケットからタバコを取り出そうとする。
圭吾は伐が何をするか気が付いたようで彼の手をつかむ。
「……黒須、お前は職員室をなんだと思っているんだ?」
「あ? 分煙か? 世の中、喫煙者に住みづらくなってやがるな。禁煙者がどれだけ、税金を払ってると思ってるんだ?」
「禁煙だ!!」
伐はタバコを吸えないのは世の中が世知辛いせいだとため息を吐くが、圭吾は伐の不遜な態度に声を荒げた。
「あ、あの、都築先生、分煙だ。禁煙だ。じゃなくて、そもそも、黒須くんは未成年なんですけど」
「……そうだったな。黒須、良いか。お前の事だ。言って聞くわけはないと思っているが、せめて、学園では吸うな。わかったら、教室に行け。サボるんじゃないぞ」
「あ、あの……良いです。黒須くん、授業に行きましょう」
優夢は大きく肩を落とすとその一言で圭吾は冷静になりながらも、伐の喫煙については諦めているようで一つだけ注意する。
その様子に優夢は生活指導の教師として強く言って欲しいと思ったようだが、直ぐに伐の事だから言っても無駄だと思い直し、伐の制服を引っ張って職員室を出て行く。
「……」
「いきなり、どこに行く気ですか!?」
「……屋上、終わったら起こしに来い」
廊下に出ると伐は授業になど出る気はないようで欠伸をしながら、屋上へと続く階段に向かって歩き出す。
「ちょ、ちょっと待ってください。屋上って、屋上のドアはカギがかかってて出れませんよ。それに授業中にあの歪みってものに襲われたらどうするんですか?」
「あー、基本的に歪みが出るのは日が落ちてからだ。日中にうろつくのは変わり者だけだ」
「そ、そんな事を言って何かあったら、どうするんですか? と言うか、面倒だって言うのが顔に出てますよ……これ、何ですか? あ、可愛い」
伐が屋上のドアを開けるカギを持っている事を知らない優夢は伐を引き留めようとすると伐は欠伸をして、歪みは出ないと言う。
その様子に優夢は伐がすでに面倒になってきていると感じ取ったようで彼をジト目で見ると伐は頭をかいた後に制服のポケットから一つの首飾りを取り出して彼女の手のひらに乗せる。
優夢は首飾りを覗き込むと首飾りには一匹の猫がかたどられており、そのかわいらしさに目を輝かせた。
「……一応は術式を組んである。襲われても時間稼ぎはできる」
「時間稼ぎって……大丈夫なんですか?」
「時間が稼げれば、どこに居たって駆けつけてやるよ」
目を輝かせている優夢から伐は首飾りを取り上げ、彼女の首にその首飾りをつけると欠伸をしながら屋上に向かって歩き出す。
「ほ、本当かな? あ? お昼休み?」
優夢は伐の言葉に疑いを持っているようで首飾りの猫を手に取ると首を傾げた。
その時、授業終了の鐘が鳴り響き、飢えた生徒達が学食や購買に向かって解き放たれる。一直線に向かってくる生徒達の様子に優夢は顔を引きつらせると生徒達にひかれないように慌てて廊下の端に移動し、何とか安全を確保する。
「お、おはよう」
「優夢、遅いよ。何してたの?」
生徒達の突進を防ぎ切り、疲れた様子で優夢が教室に顔を出すと、机を合わせてお弁当を広げている友人達が優夢の登校に気が付いたようで手招きをしている。
「うん。ちょっと、何かいろいろとおかしな事に巻き込まれて」
「お昼は買ってきた? 食べないと午後の授業持たないよ」
「買ってきてないけど、遅い朝食を食べてきたし、大丈夫だと思う」
優夢は机の上にカバンを置くと疲れたと机の上に突っ伏す。
その様子に友人達は苦笑いを浮かべるも彼女の事を心配してるようで、昼食について聞く。
優夢は簡単とは言え、しっかりとした少し遅い朝食に満足しているようで笑顔で言う。
「そんな事を言って、授業中にお腹が鳴っても知らないからね」
「と言うか、遅刻ってわかったからってしっかり食べてきたわけ? あんた、図太いわね」
「そ、そう言うわけでもないけど……何?」
遅刻をしているわりに朝食を食べてきたと言う事実に友人達は呆れたようで大きく肩を落とすと、優夢は少しだけ気まずいと思ったようで友人達から視線を逸らした時、友人の一人が優夢の首元にある猫の首飾りに気づいたようでひそひそ話を始める。
優夢は友人達の様子に少しムッとしたようで頬を膨らませた。
「奥さん、聞いて下さいよ。水瀬さんのところのお嬢さん、朝帰りらしいわよ。親元から離れたら、こんなところよ」
「あの首飾りもその男からのプレゼントらしいのよ」
「ちょ、ちょっと何を言い出すの!? 何もない。何もないってば、いきなり何を言うの!?」
優夢への電話の時に彼女が誰かと一緒にいた事はばれており、優夢が普段付けてはいない首飾りの事もあるのか、相手を男だと決めつけている。
優夢は何もなかったとは言え、伐と一晩過ごした事実はしっかりと残っており、慌てて首を振っているが、その様子から友人達の持っていた疑惑は確信に変わって行っているようで口元を緩ませ始めている。
「違うって言うなら、吐いちゃいな。あたしはあんた達が一緒に登校してきたのを見てたのよ。さあ、吐け。あたし達にはないコイバナを」
「……お願いだから、真面目に授業を受けててよ」
優夢がいくら否定しようと伐と一緒に歩いていた姿は見られており、彼女の友人達の中には彼氏がいる人間はいないようでバンバンと机を叩く。
その間に優夢の両脇はしっかりと固められており、逃げられない事は火を見るより明らかで、優夢は顔を引きつらせた。