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第七話

「で、ですけど」

「……これがねえとイライラすんだよ。他に治めるなら」

「タ、タバコで良いです!?」


 納得がいかなさそうな優夢だが、伐の次の言葉には予測ができたようで自分の身の安全(貞操)を優先する。


「……タバコは体に悪いのに」

「最近は健康志向だ。分煙だって、街中でも吸えねえんだ。家でくらい吸わせろよ」

「絶対に街中でだって吸ってるくせに携帯なってる?」


 伐には伐の言い分もあるのだが彼の不遜な態度から、彼が世間の風潮など気にしていない事は明らかであり、優夢は小さくため息を吐いた時、制服のポケットに入れていた携帯電話が鳴っている事に気づき、ポケットから携帯電話を取り出す。


「もしもし、どうしたの?」

「どうしたの? じゃないわよ。大丈夫? 風邪? それともただの寝坊?」

「寝坊? 今、何時ですか?」


 電話先の相手は彼女の友人であり、優夢は首を傾げながら電話に出ると登校してこない彼女を心配している。

 優夢は目が覚めてからいろいろ有ったためか、時間の事は気にする余裕はなかったようであり、慌てて伐に時間を聞く。


「……」

「遅刻じゃないですか!?」

「だから、そう言ってるでしょ」


 伐は無言で壁にかけてある時計を指差すとすでに1時間目の授業が終わり、休み時間に突入している時間であり、優夢は驚きの声を上げると電話の先から呆れたようなため息が聞こえる。


「ただの寝坊ね。先生には伝えておくから早く来るんだよ」

「う、うん。ごめんね……どうして、時間を教えてくれなかったんですか?」

「それくらい確認する時間もあっただろ」


 友人は登校を待っていると言い、優夢の返事を聞くと携帯電話を切った。

 電話が切れたのを確認すると優夢は伐を非難するような視線を向けるが、それは筋違いの非難であり、伐は気だるそうにタバコをふかしている。


「そ、そうかも知れませんけど……って、黒須くんも遅刻ですよ。急がないと!?」

「あ? 行くなら、勝手に行けよ。俺は調べ物があるからサボる」

「絶対にこのまま寝る気ですよね!!」


 優夢は食べかけのトーストを名残惜しそうな視線を向けるも遅刻していると言う事実の方が問題のようで慌てて立ち上がり、後輩である伐にも声をかけた。

 しかし、伐は大口を開けて欠伸をしており、優夢は不真面目な彼の態度に伐が登校する気はないのは明らかである。


「あ?」

「それに昨日、私の事を守ってくれるって言いましたよね? 1人にする気ですか?」

「……まだ、交換条件だって提示してないんだ。先に契約で結んで、文句言われても困るんでね」


 優夢は昨晩の伐の言葉を使おうとするが、伐は交換条件は成立していない事を告げる。

 その目は交換条件がなければ優夢の身の安全など興味がないように短くなってきたタバコを灰皿に押し付けて言う。


「そ、それはそうかも知れませんけど……」

「どんな条件でも受けるって言うなら、別だ」

「うっ……で、でも、やっぱり、初めては好きになった人とが良いし」


 伐は立ち上がると優夢に交換条件の条件提示をこちら側の思うがままに決めると言い、優夢は伐の事だから求められる事は1つしか思い浮かばないようであり、直ぐには頷けないようである。


「好きな相手ね? そこまで大切にする価値のあるもんかよ。長い間、男1人にしか股を開かないなら別だけどな」

「ど、どうして、そんな事を言うんですか!? 何度も言おうと思いましたが、黒須くんはデリカシーにかけます」

「……騒ぐな。ただ、失えば1つ身を守る術も出てくるけどな」


 気だるそうに伐は優夢の貞操など守り続ける必要性などないと言うが、優夢にとっては大問題であり、顔を赤くしてまくしたてるように言う。

 しかし、伐自身は何とも思っていないようで欠伸をしている。


「身を守る術?」

「……今も昔も初物狩りが好きな男はいるからな。歪みの元がそんな男だったら、喜んで食いついてくるだろうな。そして、壊れるまで犯されて、飽きたらはらわた引き裂かれて食われて終わりだ」

「あ、あう。で、でも」


 伐は優夢の不安をあおるように言うと優夢の顔は見る見ると青くなって行くが、命以外にも守りたいものはやはりあるようで簡単には頷けない。


「……言っておく。交換条件は先輩の処女(初めて)じゃないぞ」

「へ? そうなんですか?」


 優夢の様子に伐は小さくため息を吐くと、伐の口から出た言葉は優夢の予想からは外れたものであり、優夢は間の抜けたような声で聞き返す。


「それは奪おうと思えば無理矢理でも奪えるからな……それに今の目的はそれじゃない」

「嘘じゃないですよね?」

「何だ? 疑うのか?」

「……疑われるだけの事をしている気がしますけど」


 伐の言葉は優夢にとっては疑わしいものでしかなく、彼女は伐をジト目で睨む。

 その視線に伐は気にする気はないのか欠伸をしており、その不遜な態度は優夢にとっては信用に足るものではないようである。


「そりゃ、悪かったな。ただ……悪い事は言わねえよ。俺は今回の失踪騒ぎの件で協力して貰いたい事があるだけだからな」

「協力ですか? で、でも、私に協力できるような事ってありませんよね?」

「あるだろ。先輩はとっておきのエサだ」


 優夢は伐が自分に何をさせるつもりなのかまったく想像がつかないようであり、首を傾げる。

 その様子に伐は小さく口元を緩ませた。


「エ、エサ? そ、それって私の事を囮にするって事ですか?」

「有り体に言えば、そう言う事だな」

「それって、私は危険じゃないですか!? そんな条件、飲めるわけがないじゃないですか? 囮にして私を見捨てるつもりですよね?」


 エサと言われて、優夢は自分の安全は確保されていない事に気が付くと納得が行くものではないため、当然、声を上げて信じられないとテーブルを叩く。


「どっちにしろ。先輩を喰おうと歪みは近づいてくるんだ。変わらねえだろ。ここで契約しないとあんたは大切なものを2つ失う。大切な、大切な貞操と処女()だ」

「だ、だから、そう言う事を言わないでください!?」

「それに……これは契約だ。契約は相手が破らない限り、どんな事があっても俺からは破らない。これはノラ猫()の流儀だ」


 伐は現状で言えば、優夢が頷く事しかできない事は知っているようで欠伸をしながら言うと、伐のデリカシーに欠ける言葉に優夢は怒りと恥ずかしさで顔を真っ赤にする。

 その様子に伐は1度、ため息を吐いた後に真剣な表情に変わり、自分のルールを守るためだと言う。


「りゅ、流儀ですか?」

「あぁ。どうせ、先輩は受けるしかないんだ。解決ができたら、金も払ってやるよ。結構良い依頼金なんでな」

「う、受けるしかないって、警察に」

「頭がおかしな奴だと思われるだけだ」

「うっ……で、でも」


 優夢は伐の表情の変化に一瞬、ドキッとしたようで声を裏返す。

 伐は優夢が自分の提示した条件を飲むしかないと確信しているようであり、席を立つと優夢は警察に届けようと考えたようだが、現実味はない事は自分でも理解できているようで大きく肩を落とした。


「メリットとデメリットを計算して答えを出せよ。一先ずは今日はサービスだ。登校してやるよ。どうせ、遅刻なんだ。この時間から登校したら昼を抜く事になるんだ。しっかり、食っておけ」

「……わかりました」


 登校など面倒だと言わんばかりに頭をかく伐だが、時間は話の間にさらに進んでおり、優夢は時間を確認してどこかで諦めが入ったのか席に座り直して食べかけていたトーストを口に運ぶ。


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