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第二話

「……眠い」

「優夢、何、欠伸してるのよ……彼氏が寝かせてくれなかったの?」


 休み時間になり、移動教室なのか数名の女子生徒が教科書とノートを抱えて廊下をあるいている。そんななか、その中の一人の『水瀬優夢みなせゆめ』は大きな欠伸をする。

 その様子に友人なのか一人の女子生徒が彼女をかうように笑う。


「……彼氏なんかいないし、眠いよ」

「どうしたのよ? バイト、きついの?」

「バイトは慣れてきたからそうでもないけど、この間からおかしな夢を見るんだよね」

「何? 男の夢?」


 優夢はからかわれた事に少しムッとしながらも、それより、眠気が勝っているようでもう一度、欠伸が漏れる。

 優夢はここ最近、おかしな夢を見ているとため息を吐くとどうしても男関係の話に持って行きたいのか一人が手で口を隠し含み笑いを浮かべた。


「……違うよ」

「何々、それならどんな夢よ? 話してみなさいよ」

「どんな夢って」


 優夢は大きく肩を落とすと、彼女の夢の内容が気になるようであり、友人達の視線は優夢に集まる。


「……うぜえ」

「な、何!? なんの音!?」

「ケンカ? 倒れてるのって三年生? で、相手はネクタイの色を見ると一年生よね?」


 その時、廊下の先から大きな音が聞こえ、話は中断してしまう。

 優夢達は突然の音に慌てて音がした方へと視線を向けると気だるそうな表情をした少年『黒須伐』が大柄な男子生徒を床にはいつくばらせ欠伸をしている。

 廊下の真ん中で突如として起きた出来事に、生徒達は遠巻きに囲いをつくり、このケンカの行く末を見守ろうとし始める。


「……ねえ、あの三年生って、柔道部の主将じゃないの?」

「そう考えるとあの一年生、不味くない?」

「止めないと、私、都築先生を呼んでくるよ。な、何!?」


 床にはいつくばっている男子生徒はこの近隣では有名な柔道の選手のようであり、このままでは一年生がボコボコにやられてしまうと思ったようで、二人を囲んでいる人間からは伐に逃げるようにと言う声や、ストレス発散のためか純粋に伐がぶちのめされる姿を楽しみにしているのか、二人の事を煽るような声まで聞こえ出す。

 その様子に優夢はこのままでは不味いと思ったようで持っていた教科書とノートを友人に渡し、生徒指導室にいるであろう圭吾を呼びに向かおうと振り返った時、廊下には鈍い音と男子生徒のうめき声が響く。


「お、お前、何なんだよ?」

「……うるせえな。質問は受け付けねえよ。質問をしているのは俺なんだよ」


 その鈍い音は伐が倒れている男子生徒の腹を蹴りあげた音であり、男子生徒は呼吸ができないのか消え去りそうな声だが、三年のプライドがあるのか伐を睨みつける。

 しかし、伐はその視線に怯む事無く、男子生徒の髪を右手でつかみ無理やり顔を上げさせた。


「あいつになんのようだ? お前はあいつの居場所を知って」

「……他人の話も聞けないなら、こいつはいらねえな」


 男子生徒は伐に敵意の視線を向けたまま言うが、それは伐の求めているものではなく、気だるそうにため息を吐くと男子生徒の右耳に左手を当てる。

 その様子に周りで二人の事を見世物扱いしていた野次馬達は伐の次の行動に予測が付いたようで目の前で起きるかも知れない惨劇に顔を青くし始め、廊下に座り込んでしまう生徒まで現れ出す。


「お、お前、何を言ってるんだ?」

「……もう一度だけ、聞く。蓮沼由貴が失踪する(きえる)前に何か気が付いた事はないか? お前がへたくそな上、早いせいで欲求不満になり、買春うりを始め、それで稼いだ金で好みの男を買っていた尻軽女ビッチの事だ。何でも知っている事を話せ。これは命令だ」


 伐からはこの年代の少年が発するには異常なまでの迫力があり、男子生徒の声は上ずっている。

 その様子に伐は視線を鋭くして男子生徒に問う。


「由、由貴がそんな女なわけあるか?」

「……耳だけじゃなく、この余計な事を言う口も要らないか?」

「な、何も知らない!? お、俺だって、あいつを探しているんだ」

「……役立たずだな」


 男子生徒は彼女である由貴が伐が言うような人間ではないと反論しようとするが、伐は男子生徒の主観はいらないと彼を睨みつけた。

 その様子に男子生徒は顔を引きつらせて、大きく首を振ると伐は何も情報が得られなかった事に苛立っているようでその苛立ちを目の前の男子生徒にぶつけて晴らそうと思ったようでつかんでいた男子生徒の頭を廊下の床に叩きつけようとする。


「ダ、ダメ!?」

「あ? ……何の用だ?」

「あ、あの。特に用はなかったりするんですけど、身体が動いてしまったと言うか?」


 伐と男子生徒の中に漂う冷たい空気に周囲が凍りついているなか、伐の腕に優夢が抱きつき、伐の行動を無理やり止める。

 伐はいきなりの珍入者の顔を見て少し驚いた表情を見せるが、直ぐに視線を鋭くして、優夢に問う。

その視線に優夢は怯んでしまったようでしどろもどろになりながら答えるが、彼女自身もどうして飛び込んできてしまったかわからないようである。


「そうか。なら、放れろ。俺は今、無駄な時間を取らせられてイラついているんだ。その原因にしっかりと責任を取って貰わないといけねぇんだよ」

「ぼ、暴力はいけないと思うんです」

「暴力ね。なら……あんたの肢体からだでも俺は構わないぞ」


 すでに伐の目的は男子生徒を傷めつける事に変わっているようで小さく口元を緩ませており、優夢はその笑みに背中には冷たいものが伝うがそれでも伐を止めないといけないと思っているようで声を震わせながら言う。

 その姿に伐は興ざめだと言いたいのか、小さくため息を吐いた後にターゲットの男子生徒から優夢に変え、彼女の腰に手を回す。


「な、何を突然、言い始めるんですか!?」

「俺はこのイライラが治まれば方法はどうでも良いんだよ……それにあんたは美味そうだ」


 伐の突然の行動に慌てる優夢の姿に伐は小さく笑みを浮かべると彼女の耳元でささやくと、状況は理解できないもののすぐ目の前にある異性の顔は優夢にとっては非日常であり、彼女の顔は瞬く間に真っ赤に染まって行く。


「黒須、お前は廊下の真ん中で何をしているんだ?」

「あ? 暑苦しい顔を見せんなよ。俺は忙しいんだ」

「忙しいも何もあるか!!」


 伐は廊下の真ん中と言う事など気にする事無く優夢の制服のネクタイを抜き取ったその時、騒ぎを聞きつけた圭吾が伐を怒鳴りつける。

 しかし、伐は気にする事無く、優夢の制服に手をかけようとするが、その手をつかもうと圭吾が手を伸ばす。


「ったく、邪魔すんじゃねえよ」

「お前は珍しく登校してきたと思ったら、何をしているんだ?」

「ゴミ掃除だ」


 その手を伐は難なく交わすと瞬く間に圭吾と距離を取り、邪魔が入った事につまらなさそうにため息を吐いた。

 圭吾は眉間に深いしわを寄せて、伐の行動について聞くと伐は廊下で這いつくばっている男子生徒の腹を蹴りあげて男子生徒をゴミを言い切る。


「お前は自分が何をしているのかわかっているのか!!」

「わかってるさ。少なくともこいつはノラ猫(オレ)と同じ社会のゴミだ。ただ、自分を宝石か何かと勘違いしているな。自分をゴミだと理解していないゴミは性質たちが悪いぞ」


 圭吾は伐の突然の行動に彼の胸倉をつかむ。

 しかし、その行動に伐は両手を上げ、自分は悪くないと主張する。

そんな彼の表情はこの様子を見ている何も知らない観衆を小バカにするように芝居がかっているようにも見える。


「お前は何を言っているんだ?」

「それくらい自分で確かめろよ。『生徒指導』の都築センセ、制裁こっちに関しては別件だからな。ゴミはゴミらしくな。いや、ゴミだからか?」


 圭吾は伐の言いたい事が理解できないようだが、伐にゴミ扱いされている男子生徒は彼の全てを見透かしたような物言いに何か後ろめたいものがあるようで顔を青くし始めている。


「今回は別件も混ぜたから、警告止まりだ。ただ、この次はどうなるか、考えておけよ……ノラ猫にはノラ猫の流儀がある。筋を通していないゴミクズは踏み潰す」

「黒須、どこに行くつもりだ!!」

「帰るんだよ。ここじゃ、たいした情報もないみたいだからな」


 男子生徒の様子に伐はつまらなさそうに言うと自分の胸倉をつかんでいた圭吾の手からすり抜けるかのように脱出し、廊下を進んで行く。

 圭吾は伐の行動に一瞬、呆気に取られるが直ぐに伐の行動を注意するが、その行為は、無駄でしかなく、伐は振り返る事などない。


「優夢、大丈夫?」

「う、うん。だけど……ネクタイ」

「あー、諦めなよ。あれは返ってくる気がしない」

「でも、ないと困るよ」


 伐に押し倒されかけていた優夢は頭が状況を処理し切れていないようで廊下に腰をおろして呆けている。

 彼女の様子に気が付いた友人達は彼女に駆け寄り、声をかけると優夢は頷くが自分の制服のネクタイが伐に持っていかれたままだと気が付き、慌てて伐を追いかけようとするが友人達はその行動を止める。

 優夢はネクタイが抜き取られた制服に目を移し、大きく肩を落とした。


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