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第十四話

「俺は人間を超えたんだ!!」

「あ、あぁ」

「……人を超えたね。くだらねぇな。人はどれだけあがいたって、ちっぽけな存在だ」


 男性は力を手に入れた事で、ただの人間である伐になど負けるわけないと思っているようで叫ぶ。

 その声はすべてを威圧するような力強さがあり、優夢の口からは恐怖が漏れるが伐は男性を見下すようにため息を吐いた。


「だいたい、力で抑えつけて言う事を聞かせるだけじゃ、つまらねぇだろ。女を落とすには駆け引きって奴も重要なんだ。まぁ、簡単に股を開くような尻軽女に金を払ってたんだ。そんな事も知らねぇか。歪みに飲まれたわりにはちゃちな小者だな」


 伐は攻撃を交わし続けていた足を止めると、四つの黒い靄は鋭い槍のように姿を変え、伐の身体を貫こうと襲いかかる。

 

「……格の違いもわからないくらいの小者を食っても腹の足しになんかならねえんだよ」


 しかし、靄の攻撃が伐の身体を貫く事はなく、槍の穂先は伐の身体に突き刺さる前に何もないはずの空間に弾き返される。

 靄の槍は何が起きたかわからないようであり、再度、伐の身体を貫こうとするが、何度、襲いかかっても伐に触れる事はできない。


「今度はこっちから行くぞ……さっきまで、サービスで攻撃させてやったんだ。今度はこっちの攻撃だろ?」


 靄の攻撃に飽きたと言いたげにため息を吐くと視線を鋭くし、ゆっくりと歩き始める。

 物おじしない伐の様子に黒い靄はいったん、彼と距離を取ろうとするが伐は4つに分かれた靄の槍の一本をつかみ、小さく口元を緩ませた。

 その表情は十代半ばの少年が見せるようなものではなく、見た者すべての背筋を凍らせるような冷たさがある。


「……まぁ、色欲ラストが強く出たせいか、さらった女どもが無事なのがまだ救いようがあるか? 取りあえず、ターゲットの無事が確認できたからこのまま帰るか?」

「ちょ、ちょっと、どこに行くんですか!? 私との約束、た、助けてください!?」


 捕まえた靄の槍へとまるでその中の物を物色するような視線を向けた伐は槍の中に何かがいる事に気が付いたようであり、靄の槍を手にしたまま目的は達したと言うとすでに優夢をさらった男性へと興味がなくなったようで欠伸をしながら帰ろうとする。

 その姿に優夢は驚きの声を上げて助けを呼ぶ。


「あ? 忘れてたな。肉奴隷にされるだけに死ぬ事はないみたいだしな。そのまま、ここにいたらどうだ? ここなら、くだらないしがらみなんて気にせずに生きていけるぞ」

「イヤです。何を言ってるんですか!?」

「先輩もなかなか言うね。本人を目の前に振られ男の傷口に塩をすりこむなんてな」


 優夢の声に伐はすっかり忘れていたようで頭をかくと男性の相手をしてやれと言う。

 優夢は全力でそんなのゴメンだと叫び、伐は自分と優夢の間に浮かんでいる黒い靄がかわいそうだとため息を吐いた。


「そ、そう言う意味じゃありません!? だいたい、に、肉奴隷とかじゃなく、そう言うのはお互い好きになった相手とする事であって」

「あの男はファミレスのバイト仲間であって、趣味じゃないと」

「そう言う事です!!」

「……正直な分、逆にエゲツねえな」


 優夢は顔を真っ赤にして声を上げるが、男性は既に人を捨ててはいるものの確実に精神的ダメージを受けており、黒い靄は人型になり、膝を付いている。

 その様子に伐は少しだけ、男性が哀れに思えてきたようであり、眉間にしわを寄せた。


「まぁ、あれだ。女を見る目が足りなかったって事だ。女はお前の持ってる理想通りにはいかねえよ」

「そ、そんなものなのか?」

「あ、あの、これってどう言う状況なんでしょうか?」


 伐はため息を吐くと人型に戻った男性の肩を叩き、男性は年下であるはずの伐の言葉に耳を傾け始めている。

 2人の様子に優夢は置いてけぼりを喰らっているような気がしているのか首をかしげた。


「先輩がこの男の純情を踏みにじったって事だ。そのお詫びを込めて一度、相手をしてやったらどうだ?」

「踏みにじったも何もこんな強引なやり方で女の子が好きって言ってくれるわけないじゃないですか」

「何、言ってるんだ? 先輩のせいでこんな人数が被害に遭ってるんだぞ」


 伐は優夢が男性を傷つけたせいでこんな面倒な事になっていると言うが、優夢にとっては身に覚えもない事であり、自分のせいではないと大きく首を横に振る。

 もう少し優夢に反省したらどうだと言いたげにため息を吐いた伐は、いきなり右手を男性の背中に置くとその腕は男性の背中の中に入って行く。

 伐の突然の行動に男性は何が起きたかわからないような表情をするが、その身体の命令権はすでに伐の元に移っているようで身体は動かない。


「……これで全員か?」

「貴様、俺をだましたな? 女共それは俺のものだ!!」

「だましたも何も元々、あんたと俺は何ともねえだろ。俺はあんたがさらったバカ女どもの回収を請け負っただけだからな。それに変な執着をするからうぜえだ。なんだって言って煙たがれるんだよ」


 伐が男性の背中から右腕を引き抜くとその手の中には光の球が握られている。

男性は伐が自分の身体の中から取り出した光の球を見て激昂するが、伐は気だるそうに欠伸をすると男性の性格に問題があるとため息を吐く。


「どうする? 俺はあんたが消滅しようがどうでも良いんだ。先輩、帰るか? 残るか?」

「帰ります。だから、これを外してください!!」

「はいはい。わかりましたよ……鈍いな」


 光の球の中にはさらわれた女性達がいるようであり、男性の怒りなど知った事じゃないと言いたげに優夢の元に歩き、この後の事を聞く。

 優夢はこんな場所にいるわけにはいかないと自分の両手足を縛っている黒い靄を外すように言い、伐は気だるそうに指で靄をなぞると彼女を縛りつけていた靄は霧散する。


「そう思うんなら、受け止めてくださいよ!? く、黒須くん、う、後ろ」

「あ? なんだよ。見逃してやるって言ってるんだ……って、言っても聞く気はなさそうだな。先輩、ちょっと預かっててくれ」

「い、いきなり何ですか!? と言うか、これはなんですか!?」

「……失踪者だ。面倒だけど相手をしてやるか」


 優夢が捕えられていた場所は少しだけ高い位置にあり、優夢は落下して腰を打ちつけたようで伐を恨めしそうな目で見るが、伐の背後に男性が敵意をこめた視線を向けて近づいてきている事に気づき、声を上げた。

 伐はすでに目的は達しているためか、男性の相手をするのも面倒だと言いたげにため息を吐くと手にしていた光の球を優夢に向かって軽く投げると振り返ると視線を鋭くする。


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