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第十話

「本当に開いてる?」


 放課後になり、優夢は伐がいると言っていた屋上へと行くために校舎と屋上を仕切るドアのノブを回す。

 ドアノブを回すとゆっくりとドアが開き、優夢の周りには風がまとわり付き、彼女の髪をなびかせる。


「初めてきた。けっこう、気持ち良いかも、えーと、黒須くんはどこだろう?」


 屋上は生徒には立入禁止の場所であり、丸一年、この校舎で過ごした優夢でも踏み入れた事のない場所である。

 頬をなぞる風に優夢は小さく表情を緩ませるも、直ぐに伐を探そうと思ったようでキョロキョロと辺りを見回す。


「いたけど……ベンチ? 生徒は立入禁止のはずなのにどうして?」


 優夢は屋上になぜかあるベンチに首を傾げるも、伐はそこで当然のようにタバコをふかしており、彼の学生らしからぬ態度に彼女は大きく肩を落とすと伐に駆け寄った。


「黒須くん、本当に授業に出てないんですか?」

「あ? 進級できるだけの必要な分、出てれば問題ねえだろ。元々、学校で学ぶ物に必要性を感じてねえんだよ」


 優夢はちょこんと伐の隣に腰を下ろすと本当に伐がずっと屋上にいたのか確認すると伐は欠伸をしながら空を見上げる。


「なら、どうして、登校しているんですか? 自主退学しても良いんじゃ?」

「……約束だからな」

「約束ですか?」


 高校生活などに興味のなさそうな伐の様子に首を傾げる優夢だが、伐は『約束だから』とつぶやくと視線を空へと移した。

 その表情は昨日、今日で見た伐の表情とは違い、どこか悲しげにも見えて優夢は聞き返すが、伐からの返事はない。


「あ、あの。黒須くん、そう言えば」

「何だ?」

「あの、お昼にくれたもの、助かりました。助かったんですけど……」


 いくら待っても伐からの返事はなく、沈黙に耐えきれなくなった優夢は何か話を振ろうと思ったようであるが、頭に浮かんだのは昼休みに伐が届けてくれた携帯食の事であった。

 その後、友人達やクラスメートからかなり冷やかされたようでうつむき、次の言葉を探そうとするが、寝坊したのは自分であり、伐に文句を言う事のも間違っていると思ったようで言葉が出てこない。


「何だ?」

「できれば、次の休み時間に廊下とかで渡して欲しかったです」

「……うるさく言われたから恥ずかしくなったか? 自分で寝坊して、腹が鳴りそうになった時の事を考えなかった人間が俺に文句を言うわけか?」

「う……で、でも、遅刻してたわけだし、コンビニによる時間もないと思ったし」


 優夢は小さな声で場所を考えて欲しかったと言うが、伐は文句を言う前に自分自身の行動を考え直せと言い、反論できない優夢はうつむいてしまう。


「……一応言って置くが、昼休みに教室に行ったのはわざとだ」

「わざと? な、何でですか? 嫌がらせですか?」


 優夢の様子に伐は空を見上げたまま、昼休みに優夢の教室に顔を出したのには何か考えがあったと言うと、伐のせいで恥ずかしい思いをしたと優夢は頬を膨らませる。


「……先輩、あんた、目的を忘れてないか? 俺はあんたに提案した事はなんだ?」

「何だ? って、囮ですけど、い、いふぁいです!?」


 優夢は伐の質問にバカにされていると思ったのか、頬を膨らませたまま言うと伐は気だるそうに欠伸をすると膨らんだ彼女の頬をつねった。

 頬に伝わる痛みに優夢は涙目になりながら、伐を見ると伐は呆れているのか大きく肩を落とした。


「な、何ですか?」

「先輩、さっきも言ったが、あんたは囮だ。囮には目立って貰わないと困るだろ?」

「そうかもしれないですけど」


 優夢は頬をさすりながら、伐の言葉に納得できないと言う視線を向けているが伐が気にするような事はなく、短くなってきたタバコの火を消すと新しいタバコを一本取り出し、口にくわえる。


「……現状で言えば失踪している奴らの共通点は消える前からおかしな夢を見ているという事だけ、それを見せている奴があんた達に接触している可能性はないか?」

「ちょっと待ってください。それは私の友達に犯人がいるって考えているって事ですか? そんなわけありません!!」


 伐は失踪事件の犯人がどこかで優夢と接触しているのではないかと言う。

 しかし、その言葉は優夢にとっては我慢できない言葉であり、友人達を疑うのは許せないと声を荒げた。


「なぜだ?」

「私は友達をみんなを信じます」

「信じますね。バカじゃねえの」


 優夢は根拠などないが友人達の中には今回の犯人はいないと主張するがその言葉に伐は優夢を鼻で笑う。


「どうしてですか? 友達を信じるのは当然の事です」

「当然ね。信じたいというなら、まずは疑え、信じたいとキレイ事を並べるのは考えると言う事を放棄する事だ。疑って、友人が本当に信頼できるか事実だけを見つめて、そこで初めて信じる事ができる。信じるに値する人間だって言えるんだよ」

「で、でも、そんなの納得できません!!」


 伐は誰かを疑う事が信じると言う行為の本質に最も近いと言う。

 優夢は一瞬、言葉を詰まらせるが直ぐに伐の言う事には納得できないと声を上げる。


「……納得する、しないは自分で考えな。ただ、先輩が考えるのを放棄した事で結果は先輩の望まない物になるかもな。失踪事件の犯人が先輩の近くにいる人間の中にいたら? 俺は先輩を守ると言う契約をした。だけど、他の人間の事は知らない。先輩を喰えないと判断したら、飢えを満たすためにすぐそばの奴らを食い散らかすかもな」

「そ、それは」


 伐は気だるそうに欠伸をすると彼女の周りで何かあった時は、優夢のせいだと彼女を突き放す。

 優夢は自分の考えを間違っていないと思いたいようだが、友人達に危険が迫ってしまった時の事を考えると何も言えないようで目を伏せてしまう。


「……身を守るのにもっとも重要なのは考える事を止めない事だ。そして、いつも最悪を想定して動く事、それが理解できれば大抵の事は対処できる」

「頭をなでないでください!? か、髪がぐしゃぐしゃになります!?」


 優夢の様子に流石に、これ以上、へこませて後に影響しても困ると思ったのか伐は優夢の頭を乱暴に撫でまわす。

 突然の伐の行動に優夢は驚きの声を上げて伐の手を頭から避けさせるとすでに彼女の髪は爆発している。


「……行くぞ」

「行くぞって、どこにですか!?」


 伐は優夢の様子に少し口元を緩ませた後に立ち上がると屋上と校舎を仕切っているドアに向かって歩き出す。 

その様子に優夢は慌てて立ち上がると伐の後を追いかけて行こうとするが、慌てていた事もあり、屋上の小さなくぼみに足を引っ掛け、前のめりに倒れ込みそうになる。


「……先輩、なんとなく鈍いとは思っていたが、色々と生活する上で問題ないのか?」

「あ、ありがとうございます。って、どこをつかんでるんですか!?」

「胸、なかなか良い揉み心地だな。若いだけあってハリもあるしな」


 伐は手を伸ばし、優夢の身体を支えるがその手は彼女の身体を支えるだけでなく、狙ったかのように胸に伸ばされており、掌に納まる優夢の胸の感触に伐は小さく口元を緩ませた。


「そ、そうじゃ、ありません!? と言うか、私には手を出さないって約束したじゃないですか!!」

「処女は奪わねえとは言ったが、何もしないとは言ってねえよ。それより、行くぞ。時間が不味いんじゃねえのか?」


 顔を真っ赤にして伐から距離を取り、約束が違うと主張する優夢だが、伐は気にする事はなく、時間を気にするように言う。


「時間?」

「……両親から最低限の生活費しか貰ってない勤労少女はこんなところで油を売っていても良いのか?」

「あ? い、急がないと……あ、あの、黒須くんはどうするんですか? 私がバイトをしている間はどこかに行っているんですか?」


 伐の言葉で優夢はこのままではバイトに遅れると気が付き、慌て始めるが、自分がバイトの間の伐の行動が気になったようで首を傾げた。


「気にするな。俺は俺で動くか」

「……どうしてだろう。何か不安しか感じない」


 伐は優夢がバイトの間にやる事があると小さく口元を緩ませるとそんな彼の表情に優夢は嫌な予感がしているようで大きく肩を落とした。


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