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第一話

「……やっぱり分体しっぽきりかよ? めんどくせえな」


 夜の闇のなか、大通りから外れ人通りが少ない裏道。

街灯に照らされる場所で少年は気だるそうにため息を吐いた。彼の目の前には黒く蠢く肉塊が落ちており、その肉塊は奇妙な動きをしていたのだが、突然、動きを止めると白い煙を上げ夜の闇に溶けて行ってしまう。

その様子に少年は一言つぶやくと失敗と判断したようで苛立ちを抑えるためか懐からタバコの箱を取り出す。


「空かよ。イヤになるな」


 しかし、タバコの箱には一本もタバコはなく、少年はタバコの空き箱を潰すと道の隅に投げ捨て、これ以上、この場所にいても仕方ないと思ったようで大通りに向かって歩き出す。


「ノラ猫くん、どうだった?」

「……見失った」

「ノラ猫くんがかい? それはずいぶんと大変な相手みたいだね」


 大通りに出ると少年を見つけて、スーツ姿の男性が声をかけると少年に声をかけるのだが、彼の愛称なのか少年の事を『ノラ猫』と呼ぶ。

 少年は追いかけていた物が本命ではなかった事を説明するのを面倒だと思ったようで、一言で答えると男性は首を信じられないようで大げさに両手を広げるがその姿はわざとらしくも見え、少年は小さく舌打ちをする。


「大変な相手も何も、いきなり呼び出して、正体もわからない状態で捕まえてこいって言うのが間違ってるんだよ。他人に仕事を押し付ける前に自分達の仕事くらいきっちりと済ませろよ。税金泥棒。こっちは別件でしかも稼ぎの良い相手だったんだからな。赤が出たらそっちで補ってくれるんだろうな?」

「あんまり、買春うりは認めたくないんだけどね。だけど、そっちを見逃す代わりにはこっちの問題は手伝って貰わないと困るよ。こっちだって、予算は増えないくせに今回は厄介な娘が巻き込まれたみたいで上が血眼になって歪みの正体を見つけろの一言だからね。こっちも優秀な術者に手当たり次第に声をかけてるって感じだから、人手が欲しいんだよ」


 少年は今回、引っ張りだされた事に納得ができていないようで、もう一度、舌打ちをすると男性の前に手を出した。

 男性は少年が何を求めているか察したようで懐からタバコの箱を取り出し、少年の手の上に置く。

 少年はタバコを一本取り出し、口にくわえると懐から銀色に鈍く光るオイルライターを取り出し、火をつけ、その煙を肺一杯に吸い込むとゆっくりと肺まで吸い込んだ煙と一緒に長く息を吐いた。

 男性はその様子に苦笑いを浮かべると彼の前にA4サイズの茶封筒を差し出す。


「……手当たりしだいね。今、この辺で名前が知れてる奴らなんて、偽物ばかりだろ。後は欲にまみれて自分達が直ぐに歪みに落ちかけているのに気が付いていない無能ばかりだ。そんな奴らに捜査協力費を払うなら、全部、こっちに回せよ」

「その意見には賛成だね。だから、歪みをも食い破ったノラ猫くんにはボクは期待しているんだよ。僕の出世のためにもこの事件、解決してくれるよね?」

「とりあえず、足を突っ込んだからには請け負う。ノラ猫(オレ)の住処を荒らすバカには立場ってヤツを教え込んでやらないといけないからな。それがノラ猫のルールだからな」


 少年は茶封筒を手に取るが中身を確認する事無く、男性の言葉に少年は呆れたようにため息を吐いた後にオイルライターとタバコを懐の中にしまい込み、人ごみの中に向かって歩き出す。

 男性は彼の行動をとがめる事もなく、改めて、少年に頼み事について継続意思の確認をする。

 少年は振り返る事無く、答えると彼の姿は人ごみの中に消えて行ってしまう。


「近江警部、今の少年は?」

「この事件の協力者かな? きみもこの部署に配属されたなら、この街にはノラ猫がいると言う事を覚えておいた方が良い」

「ノラ猫ですか?」

「そう。扱い難いけど、有能な『黒須伐くろすばつ』と言うノラ猫をね……戻るぞ。情報を集めなければいけないからな」


 男性は人ごみの中に消えて行った少年の背に小さくため息を吐いた時、2人の男性が声をかけてくる。

2人も少年の姿に気が付いていたようで男性に少年の素性について聞くと、男性は少年を『黒須伐』と呼ぶが彼の事は自分の手ゴマとしか思っていないようで興味がなさそうに言うと2人に声をかけ、歩きだす。


「……」


 翌日、伐は通っている『私立桜華学園高等部』の制服に身を包み、気だるそうにタバコを吹かしながら校舎への坂を上って行くが、すでに彼の周りには他の生徒の姿はない。

なぜなら、時間はすでに朝の十時を過ぎており、完全に遅刻と言っても良い時間である。

 しかし、伐が歩みを速めるような事はない。


「……帰るか?」

「珍しく登校してきたと思ったら、遅刻の上にその態度はなんだ?」


 伐はすでにしまった校門を見て、登校する気も完全に失せたようで小さくつぶやき、振り返った時、生徒指導の教師である『都築圭吾つづきけいご』は校舎周辺の見回りをしていたようで伐を見つけて彼の制服の襟をつかもうとする。


「……暑苦しい奴の顔が見えたから、体調が悪くなったんだよ」

「そう言うなら、タバコを止めろ。だいたい、お前は未成年なんだぞ。こんなものを吸って良いと思っているのか?」


 伐は振り返る事無く、圭吾の手をひらりと交わすと自分が帰るのは圭吾の責任だと悪びれる事無く言い切り、圭吾は伐の態度に眉間にしわを寄せると彼の口元からタバコを取りあげると地面に落して足でタバコの火を消す。


「もったいねえな。最近は高いんだぞ。自販機でも買えなくなってるし」

「買うな!! 何度も言っているが、お前は未成年なんだぞ!? と言うか、俺の話を聞いているのか?」

「登校してやったんだから、騒ぐなよ」

「……登校してきただけでも良しとするか」


 踏みつぶされたタバコを見て、伐は気だるそうに言うと軽く助走を取り校舎を取り囲んでいる塀を駆け登り、校舎の敷地内に着地する。

 その姿はすでに見るからに圭吾の相手をするよりは彼から逃げた方が面倒事は少ないと判断したようであり、校門を開けようとしている圭吾を置いて校舎に向かって歩き出す。

 圭吾は伐の歩の先に昇降口がある事を確認すると一先ずは登校してきた事で満足しようと思ったのか大きく肩を落とすと伐の背中を見送った。


「……やっぱり、カギがかかってるか? めんどくせえな」


 しかし、圭吾は伐が登校してきた事を嬉しく思っているのだが、伐自身は教室に行く気などないようでその足は屋上にと向けられて行く。

 屋上へと続く階段を昇り、伐は屋上と校舎を分けるドアへと手をかけるが、ドアにはカギがかかっており、ドアノブをひねるとガチャガチャと音をたてるだけで、ドアが開く事はない。

 その様子に気だるそうにため息を吐き、乱暴に頭をかいた後、伐は懐に手を入れるとなぜか伐はカギ束を手にしており、屋上と書かれたカギをドアノブに突き刺してカギを開ける。


「……厄介な事になる前に終わらせないとな」


 屋上に出るとカギをかけ直し、伐は普段は閉鎖されているのになぜか置いてあるベンチに腰をかけると懐からタバコを取り出して口にくわえた。

 オイルライターで火を点け、肺一杯に煙を吸い込んだ後に煙を吐きだしながら、一言つぶやく、その言葉は昨日の夜に追いかけていたものの事を考えているようで苛立ちが混じっている。


「……」


 伐は一度、空を見上げると太陽の光に目を細めると持ってきていたカバンから、昨晩の男性から渡された茶封筒を取り出す。

 茶封筒はしっかりとのり付けされており、伐は乱暴に封筒の上部を破り、中に入ってある資料に目を通して行く。

 その中には昨晩、伐が追いかけ回していた物に関係しているのか、ここ一ヵ月くらいで噂され始めた女子高生の失踪騒ぎの詳細が事細かく書かれている。


「……原因不明の失踪騒ぎね。バカなヤツがバカなことをやって、喰われただけだろ。そんなものほっとけって言いたいところだけどな。くだらねぇ……まぁ、それなりに良い金額だし、受けてやるか?」


 ざっと、資料に目を通した後に報酬で目を止めるとあまりやる気がしないようで気だるそうにつぶやいた。

 しかし、依頼条件へと目を移すとその金額は彼が思っていた以上の好条件であり、表情は小さく緩んでいる。


「えーと、失踪者は蓮沼由貴はすぬまゆき? この顔は街で見たな……確か、桜華学園ここに男がいたはずだな。あの男は……そう言えば、この間、ぶちのめせって依頼があったか? とりあえずは聞き込みついでにあばらでも二、三本折っておくか? 警察には言えない情報も桜華学園ここにはあるだろうからな。男が有益な情報を持ってたら、一本にまけておけば良いしな」


 伐の読んでいた資料の中には一人の女子生徒の写真が同封されている。その女子生徒は伐と同じく桜華学園高等部の制服を身にまとっている。

 伐は写真の女子生徒に心当たりがあるようであり、頭をかくと写真と資料を茶封筒のなかにしまうと短くなってきたタバコの煙を肺一杯に吸い込んだ後、タバコの火を踏み消すと欠伸をしながら屋上を後にする。


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