5月6日:味気ない返事をするとゲーム終了ということ。
5月6日(☀)
俺が頼まれた布を買い終え、再び乙侍の家に戻ってくる頃には、すでにほとんどの作業が終わっていた。・・・ありえん!神とかの領域じゃないよな・・・。
俺があまりの衝撃にうなだれていると、乙侍が俺の存在に気づいてくれたようだ。
「ぉお!ナツヒ殿!ごくろうごくろう!!がははは!!」
「お、おう・・・てかおまえまじですごいんだな」
俺がそういうと、乙侍はわずかに赤面し、「えへへ」などと柄でもないことを言った。・・・正直少し可愛かった!
「さあ、兄さまも戻られたようでありますので、ここらで休憩にいたしましょうぞ」
アキホはもう疲れモードのようだ。
「そうでございますな!よし、それがしについてこい!」
俺たちはそれから、作業部屋を抜けだし、長い廊下へと連行されていった。
さっきは急いでいて気がつかなかったが、この長い廊下の両側に、いくつもの部屋が並んでいる。俺たちはそのうちの極めて大きい一部屋に入れられた。
そこはなんというか――――――・・・すごい部屋だった。
「いやぁみなさん!今日も迷惑をかけた!ささ、くつろいでいたまえ」
「ありがとうございますですの♡・・・しかしこの部屋はいつ見てもものすごいですね♡」
そう―――――――この、男の娘と言うものすごいことをしちゃっている人に「ものすごい」と言われるほどの部屋・・・。
―――――そこは、何台もの透明棚に収納されたフィギュアが規則正しく立ち並ぶ、「ものすごい」部屋だった。
「こ、これは・・・っ」
「がははは!さすがのナツヒ殿も驚かれたようですな!なんなら棚から出してみてくれてもかまわんぞ。・・・ではそれがしは茶を入れてくる!」
俺の反応を見て満足したのか、乙侍はふふんっと鼻を鳴らしてから部屋を出て行った。
足音が遠くなっていくのを確認し、俺は透明棚へと足を進める。
「・・・おぉお・・・こりゃすげえな・・・。この棚だけでいくらかけてんだあいつは・・・!」
「まあ、あんなドレスを一瞬で作れるようなお人です♡ものすごくお金には余裕があるのでしょう♡」
俺の独り言のような感嘆の声に、名無しさんが対応した。驚く俺に、にこっとやわらかいほほ笑みを返してくる。・・・こいつ女に生まれてこればよかったのに。
しばらく透明棚に収納されたコレクションたちを眺めていると、いくらかの有名な武士?とおもわれるフィギュアのコーナーを発見した。その棚には、フィギュアのほかにレプリカの日本刀、鉄砲などが収納されていた。
アキホが好きそうなコーナーだな・・・そんなことを思いながら眺めていると、そんな俺の気持ちを察したのかアキホは座っていた座布団から腰を上げ、棚の近くに寄ってきた。
「・・・乙侍さんは、私の恩人のようなお人なのであります・・・私が苦しゅう思いをしているとき、”日本史”という素晴らしきものを教えてくださったのです。これは、乙侍さんの家に初めてお邪魔した際にお見せしてくれたもの」
透明感のある、どこか消え入りそうな美声。しかし芯のあるはっきりとした声色で突然話し始めた実の妹を前に、口をぱくぱくさせてしまった。
「・・・そ そうか」
なにも味気のない、そっけない返事をしてしまった。・・・あぁっエロゲなら俺はすでにゲームオーバーである・・・・!!
「おうおう、みなさんお待たせした!!!」
と、そこへお盆に茶を乗せた乙侍が部屋に入ってきた。「いやあ、それがしのコレクション、なかなかのものであろう」
「うん、おまえ金持ちだな」
「がははははは!これはものすごい長い時間をかけて集めたものでな!」
「しかしおまえみたいなのがひきこもりって信じられないな~茶を出すなんて社交的」
明るい雰囲気なので、俺はこの家に来たときから気になっていたことをそっと言ってみる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
返事がない・・・!?もしや地雷踏んだか・・・
「なにを言っているかナツヒ殿?それがしはひきこもりとかではなく、あのお仕事が本業なのでどうしても修羅場などのときには外に出れないだけでござるぞ?」
机の上に茶を置きながら、乙侍は淡々と言い放った。
・・・・・・・・は・・・・・・・・?
いやいや、だって・・・え?アキホも乙侍ひきこもりって言ってたよな?あれ、言ってない・・・?
「兄さま・・・ひきこもりとは、なにも社交性がない人ばかりとは限りませぬ・・・。それから学校や職場に行けない理由があってひきこもっている人以外にも、仕事上の関係などで家に引きこもりっきりの人もまとめて”ひきこもり”と称すでありましょう・・・」
ああ、そういうこと。
分かりやすい説明ベリーグッドだぜかわいこちゃん☆!!!
アキホはあきれた様子で座布団に座りなおし、お茶をすすった。
と、ここで名無しさんが口を開いた。
「アキホさま♡・・・さっきの、乙侍さんは日本史について教えてくれたから恩人だっていう話、もっときかせてほしいのですが・・・♡」
名無しさんは気まずい様子で、「よかったらでいいですの♡」と付け足した。
実は俺も気になっていたのだが、まさか名無しさんも知らないとは思わなかった。アキホも、親しい中だからこそ隠したいと思って話さなかったことなのだろう・・・と、俺は勝手に解釈しておいた。
アキホは、黙ってうつむいた。乙侍もいつになく真剣な表情をしていたから、きっと話したくもなくなるようなことだと思う。
「・・・いつかは話さねばならぬということは分かっておりまする・・・。しかし、今の私にはそれを耐え抜く根性がありませぬ・・・またの機会にしてほしい、と・・・」
たっぷりと時間を使って、妹はそれだけ言った。
「・・・さようですか♡」
名無しさんは優しい口調でささやいた。こんな綺麗な純粋な声を聞いたことはなかった。
「・・・ですが、日本史・・・日本の武士たちの生きざまを知り、私の人生や生き方が変わったことは事実・・・それだけはわたしの誇りなのであります」
最後のセリフだけ、アキホは力強く、叫びにも聞こえる声で言った。
一泊おき、さて、といった感じで乙侍はニカッと笑った。
「さあ、残りあと少しの作業も今日中に終わらせるでござるぞ!!!!!!!」
俺は静かに座布団から腰を浮かせた。
生きてました。
すいません、データ吹っ飛んでしばらくやる気のきなかった著者の矢姫です。
久しぶりすぎて泣いた・・・!
しばらく書いてなかったうちに、すこーーーしだけ小説の書き方も変わってきました。
今後の展開にどうかご期待くださいませ。