「白い結婚」を宣言した夫と愛人が家を叩き出されました。
「私には愛するマリーナがいる。だからお前とは白い結婚だ」
と、初夜の寝室でいきなり夫となるラディウス・レイデ公爵令息が宣言した。
フェレンシアは怒りに震えた。
「貴方の家に援助をすることを約束してわたくしは貴方の妻になりました。それなのに、白い結婚?わたくしを馬鹿にしているのですか?」
「ふん。それは父上が決めた事だ。私には関係ない。私は愛しのマリーナと一緒にこれまで通り別宅で暮らす」
屑のボンボンって聞いていたけれども、その通りね。
怒りで頭が真っ白になる。
でも、これは父アシェル伯爵が決めた結婚。
娘であるフェレンシアは従うしかない。
「解りましたわ。白い結婚。よろしくてよ。どうぞご勝手に。わたくしの部屋で眠りますので、おやすみなさいませ」
ラディウスが何か喚いていたが、無視して自分の寝室へ戻った。
そもそもこの結婚は、レイデ公爵領の鉱山で採れる良質の宝石を安く得る事を目的とし、父が進めた結婚である。
良質の美しい緑色の宝石がレイデ公爵領の鉱山で採れるのだ。
ただ、レイデ公爵家は借金だらけだった。
前公爵が散財好きで、莫大な借金を作ったのだ。
その借金返済でせっかくのレイデ公爵領の鉱山の宝石収入が消えていく。
フェレンシアの父、アシェル伯爵はそこにつけこんで、良質な宝石を少しでも安価で手に入れようと、フェレンシアとの結婚を決めてしまった。
アシェル伯爵が手掛けるアクセサリー商会で首飾りや指輪に加工して貴族に売れば、大きな儲けになる。
ラディウス・レイデ公爵令息25歳。平民の愛人マリーナと共に屋敷の別棟で過ごしているどうしようもない男だ。
金髪碧眼の凄い美男。良いところはそれ位で、その他は無能の役立たず。彼自身、レイデ公爵が借金返済と領地経営で苦労をしているというのに、手伝いもせず、マリーナとイチャイチャして過ごしている息子だ。
そんな息子と結婚する羽目になったフェレンシア。
やり手の父に逆らう事も出来ず、自分の人生を諦めていた。
諦めていたのだけれども。
屑の美男でどうしようもないラディウス。
顔を見ただけで、大嫌いになった。
公爵家に金がなく、結婚式も行わないと言う話だったが、父が金を出して、豪華な結婚式を挙げたのだ。
結婚式を挙げて、貴族達にお披露目をした。
だから、簡単に離縁出来ない。
フェレンシアは絶望した。
フェレンシアには遠い日の思い出があった。
一度だけ、ダンスを踊ったのだ。
レッドリーニ王弟殿下と。
黒髪碧眼のレッドリーニ王弟殿下はフェレンシアの初恋だった。
現在20歳のフェレンシア。10歳年上のレッドリーニ王弟殿下。
4年前、フェレンシアが16歳の時に、レッドリーニ王弟殿下が王宮の夜会で色々な令嬢達とダンスを踊る催しがあって、その一人として、相手をしてもらった。
彼は既に結婚していて美しい妻がいたけれども、その整った美しく男らしい顔から、貴族の令嬢達から人気があったレッドリーニ王弟殿下。
令嬢達からの要望で、夜会でダンスの相手を務める催しを行う事になったのだ。一人一曲ずつ。踊ってくれるとの事。
あの美しい王弟殿下とダンスを踊れる。
ドキドキした。
緊張して上手く踊れなかったらどうしよう。
この日の為に一生懸命練習した。
ドレスだって自分の金の髪に似合うように、薄桃色の華やかなドレスを新調した。
アクセサリーだって、父に頼んでアシェル伯爵領自慢の商会にキラキラした首飾りや耳飾りを作って貰った。
ああ、入念に準備したのに、下手に踊って王弟殿下の足を踏んだらどうしよう。
間近でその顔を見上げる。
レッドリーニ王弟殿下が優しく微笑んでくれた。
男らしくてなんて素敵なレッドリーニ王弟殿下。
曲が始まった。
レッドリーニ王弟殿下に手を添えられて、踊り始める。
曲に合わせて身体がスムーズに動いた。
ああ、なんて力強くて、そして気遣うような巧みなレッドリーニ王弟殿下のリード。
一通り踊った後に、レッドリーニ王弟殿下は微笑んで、
「君は歳の割にはダンスが上手だね。お相手有難う」
「いいえ、こちらこそ有難うございました」
自分は大勢の令嬢の中の一人。
それでも彼と踊った事は一生忘れない。
そう、フェレンシアの心の中に素敵な思い出として残った。
レッドリーニ王弟殿下の肖像画を首飾りのヘッドを二重底にして忍ばせて、悲しくなった時に眺めて心を奮い立たせる事にした。
肖像画を見て、涙を流して。
でも、この家で頑張っていくしかないと決意をした。
自分はただ、白い結婚を言い渡されただけのお飾りの妻。
屋敷でおとなしくしていればいいのだ。
どうせ、ラディウスは社交なんてしないだろうし。
この絶望しかない結婚を決めた父に対しての、せめてもの反抗だった。
何もしない。わたくしは何もしないわ。
この公爵家で、夫に見向きもされない妻は、冷たくされるのではないかと思っていたら、
レイデ公爵夫妻が、食堂にフェレンシアを呼んで、
「おっ。今日の食事は違うな」
「フェレンシアのお陰で食事が豪華になったわ。有難う」
フェレンシアの食事だけ、特に豪華な食事で。
ステーキもパンも付け合わせのサラダも、一段上の豪華な物が用意されていて驚いた。
レイデ公爵は、
「息子が白い結婚を言い渡したと聞いた。誠にすまない。だが、あれだけ立派な結婚式を挙げたので離縁は出来ないのだ。解って欲しい」
公爵夫人も、
「フェレンシアの食事は一段と豪華な食事にするように、コック長に命じましたわ。さぁ、召し上がって」
じいいいいっと視線を感じた。
この家にはラディウスの他に歳の離れた弟や妹が5人もいる。
上は12歳から下は5歳だ。男の子2人、女の子3人だ。
皆、口々に、
「有難うございます。フェレンシア様」
「お陰で美味しい食事が出来ます」
「わぁ、今日のお肉は柔らかいわ」
「美味しい」
「いつも硬いお肉だから」
家族が皆、嬉しそうに食事をしている。
ああ、そういえば、父が援助をしたのよね。嫁ぐ家が貧乏だと大変だろうからって。
ラディウスとその愛人だろうか?見知らぬ女性を連れて怒鳴り込んで来た。
「私達の朝食が来ないんだがっ」
「そうよ。お腹がすいて死にそうよ」
レイデ公爵夫人が、
「貴方達の朝食はありません」
ラディウスが夫人に向かって、
「どうしてだ?私は公爵家の次期当主だぞ」
女性はマリーナなのだろう。
マリーナも怒鳴って、
「そうよ。食事をよこしなさいよ」
レイデ公爵はゴミを見るような目つきで、
「フェレンシアのお陰でこうして朝食が食べられるのだ。お前達に食べさせる食事は今日からない」
公爵夫人が、
「仕事をしない貴方達の食事は今日からありません。今まで甘やかし過ぎたわ。
コック長に聞けば、硬いパンと薄いスープぐらいは出してくれます。さっさと出て行って頂戴」
弟妹達も、
「兄上、さっさと出て行って下さい」
「わぁ、今日はデザートの桃ケーキがあるのね」
「今までデザートなんて見たことがなかったから」
「嬉しいっ」
「早く早く」
ラディウスと、マリーナは悔しそうにこちらを睨みながら、出て行った。
レイデ公爵夫人が、
「騒がしくてごめんなさいね。貴方のお陰でこうして美味しい物が食べられるの。ラディウス達に食べさせるものなんてないわ」
いいのかしら……まぁうちの父の援助で美味しい物が食べられるのだから当然だわね。
子供達がじいいっとフェレンシアに用意されたデザートを見ている。
丸いショコラケーキは大きくて一人では食べきれないので、
「貴方達。食べていいわよ」
「有難うございます」
「わぁ嬉しい」
「美味しそう」
「頂きますっ」
「美味しいっーーー」
公爵夫妻は申し訳なさそうな顔でこちらを見ている。
どんな生活をしてきたのかしら。
借金だらけって言っていたから、大変だったのね。
メイドの数が少なかったので、父が援助した金で数を増やしたと言っていた。
メイド三人が、フェレンシアについて、色々と世話をしてくれる。
いい香りの湯を用意してくれて、磨き上げてくれて。
素敵なドレスを着せてくれて。
肌のマッサージや髪に香料を着けて梳かしてくれて。
実家にいた時と変わらない。
何不自由ない生活をフェレンシアは送る事が出来た。
レイデ公爵夫妻が気を使ってくれたのだろう。
それもまた父の援助のお陰だ。
ラディウスは別宅で愛人マリーナと相変わらず過ごしている。
食べ物は残飯の方がいいのではないかと言う位、貧しい物しかコック長は出していないようだ。
メイドが別宅に掃除洗濯しに行くのをやめさせたそうだ。
レイデ公爵夫人が、
「メイドの数を増やす事が出来ましたわ。それも、全部、フェレンシアのお陰よ。そのメイドを別宅に回すだなんて。今までは掃除洗濯には行かせたけれども、もうメイドを行かせる必要はないわね」
ご機嫌取りなのだろう。
ラディウスがマリーナと共に怒鳴り込んで来た。
「金を寄越せーー。外へ食いに行くっ」
レイデ公爵に向かって怒鳴り込めば、レイデ公爵は、
「お前に渡す金はない。全て、フェレンシアの実家、アシェル伯爵の援助のお陰で、我が公爵家は美味いものも食べられるようになったし、メイドの数も増やすことが出来た。フェレンシアをないがしろにするお前に渡す金はない」
ラディウスの歳の離れた弟妹達はとても可愛くて、フェレンシアに懐いてくれる。
その弟妹達がラディウス達を睨んで、
「フェレンシアのお陰で新しいペンを買って貰えたんだ。兄上は私達に何もしてくれないだろう」
「私も本を買って貰えた」
「フェレンシアのお陰で幸せだわ」
「嬉しい。綺麗なリボンも買って貰えた」
「私もリボンリボンっ。嬉しいっ」
皆、口々にフェレンシアに礼を言う。
ラディウス達は何も言う事が出来ず、その部屋から出て行った。
夫のラディウスは最低だけれども、この家の人達は最高だわとそう思った。
そしてお金の力は凄いわと思ったのだ。
窃盗未遂事件が起きた。
ラディウスがレイデ公爵の執務室の金庫にある金を盗もうとしたのだ。
それをメイドの一人が見つけて、レイデ公爵に通報した。
レイデ公爵は怒りまくり、
「出ていけ。家の金に手をつけようとは。お前などいらん。あの女を連れて出ていけ」
ラディウスは、フェレンシアに向かって、
「お前が来てから私はろくなものを食べていないっ。金も渡されなくなったっ。お前のせいだっ」
掴みかかって来たので、フェレンシアは足を引っかけて転ばせた。
端正な顔を床で打ったラディウスに向かって、
「わたくしの父が援助したお金を盗むなんてっ。」
マリーナがいつの間にか傍に来て、
「もう貧乏生活なんて嫌っ。私出ていきますっ」
ラディウスが床から身を起こして、
「そんな。マリーナ」
「贅沢させてやるって言ったから愛人になったのにっ。食べる物も残飯だし、もう嫌っ。さようならラディウス。私は金持ちの男を探すわ」
マリーナは怒りながら出て行った。
ラディウスはフェレンシアの足に縋って、
「申し訳なかった。心を入れ替えるから助けてくれっ」
するとラディウスの弟妹達が、
「兄上なんていらない」
「そうよそうよ。働かない兄上なんていらない」
「フェレンシアを悲しませる兄上なんていらない」
「でていけっ」
「でてけっ」
皆、口々にラディウスを罵った。
ラディウスは、慌てた様子で屋敷から出て行った。
あの人、外で生きていけるのかしら。ああ、わたくし、この家を出なくてはならないわね。
夫がいなくなったのだから。
ラディウスの弟で今、12歳のハリウスが、
「わ、私はまだ子供です。でも、フェレンシアっ。どうか私が大きくなったら結婚してくれませんか」
真っ赤になってそう言って来た。
フェレンシアは驚いた。
ハリウスはフェレンシアに、
「フェレンシアがその首飾りの中を開いて、泣いているのを知っています。私だったら泣かせはしないっ」
ハリウスの8歳の弟クラウスも、
「兄上のことが嫌なら僕が結婚しますっ。お願いですから家を見捨てないで」
妹達三人も、
「フェレンシアっ。傍にいて」
「出て行かないで」
「フェレンシアっーーー」
フェレンシアは困った。
レイデ公爵は、
「いやその、ハリウスやクラウスはまだ子供だから。正式にラディウスと離縁の手続きをしよう。さすがに息子がいなくなったのでは離縁が認められるだろう。援助してくれて助かった。有難う」
この家を見捨てられない。
フェレンシアは提案した。
「わたくし、決意致しましたの。この家を立て直すお手伝いを致します。ラディウス様の妻としてではなく。ですからこの家に置いて下さいませんか?」
見捨てられない。
フェレンシアは、ラディウスと離縁されても公爵家を立て直す為に奮闘する事を決意した。
ラディウスとの離縁は成立した。
本人がいなくなったのだから、当然だ。
離縁後も、レイデ公爵家に残って、フェレンシアは働いた。
子供達にしっかりとした家庭教師もつけた。
鉱山から採れる緑の宝石が少しでも高く売れるように、販売ルートを見直した。
借金を整理して元金をスムーズに返済できるように、交渉した。
アシェル伯爵領の商会で安く仕入れた宝石を加工してアクセサリーにする商売は順調で。
父は大儲けしているようだ。
さらなる援助を父に頼んで、その金で鉱山の採掘量を増やした。
レイデ公爵領の鉱山に眠る宝石を含む鉱脈はまだまだある。掘りつくす心配はない。
レイデ公爵領は山が多く広大なのだ。
必死で働いた。
レイデ公爵夫妻に感謝された。
レイデ公爵夫人はフェレンシアに対して、
「貴方のお陰で我が公爵領の立て直しの目途もついたわ。息子や娘達にも美味しい物を食べさせることが出来て教育も出来て、本当に有難う」
と言って抱き締めてくれた。
嬉しかった。結婚には失敗したけれども、こうして生きるのも悪くないと感じていた。
そんなとある日、馬車で用があって出かけた先で、待ち伏せされたのだ。
元夫、ラディウスに。
「お前のせいで私は追い出された。責任とって金を寄越せっ」
汚い恰好をしていたラディウス。
美しい顔は以前と変わらないが、やつれ果てていて。
近づいて来るラディウス。護衛が慌てて駆けつけてくる。
でも、近すぎる。
もう駄目だと思ったその時、
「ラディウス。何しているのよ」
太った女がラディウスの首根っこを掴んで。
「お貴族様に不敬を働いたら牢に入らなければならないでしょう。ほら、しっかりと働かないと」
女をよく見たらマリーナだった。あの美しかったマリーナがブクブクに太って。
マリーナはフェレンシアをちらりと見てから、ラディウスを引きずっていった。
マリーナに何があったの?
ラディウスは泣きながら、
「もう働くのは嫌だっーーー勘弁してくれーー」
「しっかり稼いで貰うよ。こんな汚い恰好をして。ほら、着飾ってお客さんが待っているからね」
何をして働いているのか?あの二人に何があったのか?深く考えないようにした。
レッドリーニ王弟殿下が、鉱山を視察したいと訪ねて来た。
あの頃と変わらず、黒髪碧眼の美しいレッドリーニ王弟殿下。
奥様を二年前に亡くして、小さなお嬢様を育てているって聞いたわ。
レイデ公爵夫妻と共に屋敷の客間で出迎えた。
「君が公爵領を立て直しているんだって?」
「はい。わたくし、フェレンシア・アシェルと申します」
「以前、ダンスを一度踊った事があったね」
「どうして覚えていらっしゃるのですか?」
「とてもダンスが上手かったから。もう一度、踊りたいと思っていた」
「有難うございます」
レッドリーニ王弟殿下に豪華な夕食を振舞って、食後に公爵家のテラスに二人きりになりたいと誘われた。
月が綺麗な夜で。
「テラスでダンスのお相手をお願いしたい」
手を差し出された。
遠い日の思い出。胸がドキドキしたあの頃はまだ、16歳だったわ。
今は21歳になってしまった。この公爵家に来てから1年過ぎてしまったのだ。
その手に手を添えて、
レッドリーニ王弟殿下と共にダンスを踊る。
一通り踊り終わったら、彼は微笑んで、
「有難う。最近、夜会に行くのもおっくうになってね。妻が亡くなったせいかな」
「大変でしたね」
「娘のアリーネも寂しがって。乳母を困らせている」
「そうですの」
「私は有能な妻が欲しい。それに……君ともう少し話をしてみたいと思っていた。どうかね?私の妻にならないか?」
胸がどきりとする。
ずっと好きだった王弟殿下。この人と一緒に歩めたら。
でも、今は受ける訳にはいかない。
決めたのだ。このレイデ公爵領を立て直すと。
「お言葉は嬉しいのですが、わたくしは決めたのです。このレイデ公爵領を立て直すと。ですから、どうか、この話は他の方に持って行って下さいませ」
ずっと好きだったレッドリーニ王弟殿下。
結婚したと聞いた時、胸が痛んだ。
でも、目途がついたといっても、まだまだ中途半端のまま、このレイデ公爵領の立て直しを放って、結婚を受けたくない。
自分の母のようなレイデ公爵夫人。
子供達もとても可愛くて可愛くて。
レッドリーニ王弟殿下はふうと息を吐き出して。
「私の都合だけを考えて、プロポーズしてすまなかった。娘にも母が必要だし、有能な女性が妻に欲しかった」
「素敵な方が見つかると良いですね」
胸が痛んだが、後悔はない。
現状のまま、このレイデ公爵家を去ることの方が後悔する。
そう思えた。
その夜、レイデ公爵夫人に部屋に呼ばれた。
「レイデ公爵領の事はもういいから、貴方自身の幸せをしっかりと考えなさい。レッドリーニ王弟殿下の妻になるということはとても素晴らしい事だわ。わたくしは娘みたいな貴方が幸せになって欲しいの」
「でも、まだまだレイデ公爵領にはやることが」
公爵夫人はフェレンシアに、
「貴方の幸せを優先しなさい。貴方が女性として幸せになれなかった方がわたくしは後悔するわ。わたくしの教育が間違っていたの。ラディウスをあんな子に育ててしまって。本当にごめんなさい。この公爵家を救ってくれて有難う」
フェレンシアを抱き締めて涙を流す公爵夫人。
ドアを開けて、レッドリーニ王弟殿下を連れて、レイデ公爵が部屋に入って来た。
レイデ公爵はフェレンシアに、
「フェレンシアが良ければ、王弟殿下の後添えに」
「公爵様がわたくしを紹介して下さったのですね」
「王弟殿下とは付き合いがあってね」
レッドリーニ王弟殿下はフェレンシアに手を差し出して、
「改めてフェレンシア。私との結婚を考えて欲しい。急ぎはしない。互いの事をもっと知る必要があるから」
「ええ、わたくしはずっとレッドリーニ王弟殿下と踊った日を忘れてはいませんでしたわ。ずっと殿下の事を思って生きてきました。本当はとても嬉しかったのです」
レッドリーニ王弟殿下に抱き締められた。
嬉しかった……女として幸せになれる。きっと……そう思えた。
1年間、レッドリーニ王弟殿下とお付き合いしながら、レイデ公爵領の立て直しを続けた。
知れば知る程、レッドリーニ王弟殿下の事が好きになる。
2歳の王弟殿下の娘アリーネにも会わせて貰った。
アリーネを抱き締めたら、小さな手でぎゅっとフェレンシアの手を握り締めてくれて。
この子を守ってあげたい。そう思えた。
今日も、レイデ公爵領の為に働く。この家に来て2年過ぎた。
今や14歳になったハリウスや、12歳のクラウス、3人の妹達が駆け寄って来て。
「フェレンシア、お茶しよう」
「ケーキと紅茶をメイドが用意してくれているよ」
「早く早く」
「食べましょう」
「美味しい苺ケーキよ」
皆で一緒に美味しいケーキとお茶をする。
ハリウスがフェレンシアに向かって、
「もうすぐお別れだね。私がもっと大人だったらフェレンシアに改めてプロポーズしたのにっ」
クラウスが、
「兄上、私だって。でも、フェレンシアが好きな人と結婚出来るんだから、首飾りの中身を見た甲斐があったね。兄上」
「それ言っちゃ駄目だろ。クラウス」
フェレンシアは慌てた。
「貴方達、首飾りの中身を見たの?」
ハリウスが頷いて、
「だって、フェレンシア、首飾りのヘッドを開けて、よく中を見ていたから。メイドに頼んで、中に入っているものを見て貰ったんだ。一目で王弟殿下だって解ったって。その事を一年前に父上に話したんだ」
だから、都合よく、レッドリーニ王弟殿下との結婚話が出たのね。
フェレンシアは微笑んで、
「メイドにそのような事を頼んではいけませんよ。でも、貴方達のお陰でわたくしは初恋の方と結婚出来るの。有難う。ハリウス、クラウス」
ハリウス達の三人の妹が見当たらなくなったと思ったら、庭の方から駆けて来て綺麗な花をフェレンシアに手渡した。
「これ、お庭で摘んでもらったの」
「幸せになってね」
「時々でいいの。会いにきてね」
嬉しくて嬉しくて、三人を抱き締める。
この家で働いてきてよかった。そう思えた。
この子達と別れるのはとても寂しいけれども、でも……
愛するレッドリーニ王弟殿下に嫁ぐ日を夢見て、子供達とお茶をする。
フェレンシアは幸せを感じているのであった。




