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リィンカーネーションの花束

作者: 右京寺
掲載日:2026/05/11

ある王国で、大聖女が死んだ。

『次は北で…』という言葉を遺して。


この王国は、大聖女を崇め、祀っている。

政治には非常時以外かかわる事はない、王国の豊穣と安寧の象徴である。

実際、この王国は紛争や疫病、貧困から遠ざかって長い。


大聖女が亡くなる時、必ず次代の大聖女の居場所を遺す。その遺言を頼りに、次代の大聖女を見つけ出しているのだ。

そして、その役目を負うのは、大聖女の傍らに必ず存在し、死すまで守り慈しむ聖騎士だ。

聖騎士のみが大聖女を認識することができる。


今代の聖騎士レインハルトは幼い頃、先代の聖騎士ジルベールによって引き取られ、育てられてきた。大聖女を守り抜けるように。


大聖女の葬儀の日、国全体が悲しみに暮れた。

火がくべられた棺を前に、ジルベールは人形のようであった。魂がここにはなく、目に光がない。


「…レインハルト、お前の大聖女を早急に探し出せ。…私は、大聖女様、アンネローゼと共に行く」


そう言い残し、姿を消した。


棺から上がる煙は、北へ流れていた。



葬儀後、レインハルトは早急に北を捜索するように王や教皇に求めた。

大聖女が存在する所では、この国の国花であるカーネーションが大量に咲いたり、不思議な力が宿ったりすると言われている。

そのような異変が北で起こっていないかをしらみ潰しに探すように。


大聖女の不在は国の安定に関わることだ。その期間は短い方が良い。

国を上げての捜索が始まった。

北の街、村を騎士を連れて訪れていく。今後出産予定の妊婦、赤子、幼子…住人一人一人と会い、確認していくが、大聖女は見つからない。

不思議なカーネーションが咲いたと聞けば、その村へ訪れる。


そんな生活を送って、5年の歳月が過ぎた。

国民もまだ見つからないのかと、呆れたような空気が流れ始めていた。


レオンハルトの心はぽっかりと穴が空いたままだ。半身、大聖女でなければ埋められない穴。

焦りを抱えたまま、大聖女の捜索を続けていたある日、王から呼び出しを受けた。


「レインハルトよ、大聖女が見つかったぞ!」


その言葉に、私は歓喜した。

ようやく、私の守るべき大聖女、我が半身が見つかったのだと。


教皇に連れられてやって来た少女。


「マリアベル伯爵令嬢だ。北にある領地を納めている伯爵家の者だ」


そう紹介されて、マリアベルはうっすら頬を染め、微笑んでいる。


「…その方が大聖女様…?」


レインハルトは呆然となった。

自身の心に、身体に何も感じられない。

この女は大聖女ではないと、拒否反応すら出ている。


「王よ、この方は大聖女様ではありません。…何を持って大聖女と判断されたのでしょう」


レインハルトの底冷えするような声に、マリアベルは顔を青くする。


「レインハルトよ、そのように怖がらせるのではない。教皇よ、あれを出してくだされ」


マリアベルの隣に立っていた教皇は、懐から一輪のカーネーションを取り出した。

その花を見た時、レインハルトは衝撃を受けた。


「青いカーネーション。これこそ、大聖女の証」


青いカーネーション。それは新しい大聖女と聖騎士が出会った時のみに咲く特別なカーネーション。


「なぜ、その花が…伯爵領を訪れた時には咲かなかったはずです」


「そなたが伯爵領を訪れた後に咲いたそうだ」


「そんな馬鹿な。その時に咲かなければ、大聖女ではない。…それに、『聖騎士』である私はその令嬢を大聖女とは認めていない」


私の言葉に、王と教皇は悲しそうな顔で首を振る。


「長く大聖女を探し、心をすり減らしたのだろう。大聖女がわからないなど」


「何と悲しいことよ。生涯をかけて守るべき大聖女が目の前にいるのに」


2人の言葉に私は怒りでどうにかなりそうだった。しかし、ここで剣をぬけば極刑。大聖女を探し続けることはできなくなってしまう。


「…私はその方を大聖女と認めるわけにはいきません。失礼致します」


マリアベル達が飛び止める声を無視して、謁見の間を後にした。

その後すぐに、「新しい大聖女が見つかった」「聖騎士は心を病み大聖女がわからなくなった」

と噂で持ちきりなった。

レインハルトは、自分は嵌められたのだと理解した。


王や教皇は今以上の権力が欲しかったのだ。そこで自分達の意のままにできる者を大聖女として擁立しようとしている。

大聖女のお披露目の日取りが一月後に決まった。


彼女は大聖女ではないと言っても噂を信じた者達から、諌められるような声をかけられ、私は疲弊していった。

しかし、長年の付き合いのある騎士達は、私の話を信じてくれる者もいた。


「聖騎士のお前がそうじゃないと感じるなら、大聖女様ではないんだろう。でも、本物を見つけなければ、あれが本物になってしまう」


私は、もう一度北の街や村を巡った。仲間の騎士達や商人からも情報を聞き、探し回った。

しかし、見つけることはできなかった。


お披露目の日取りが迫っている。

このままでは、偽物が大聖女として咸臨することになる。そんな者に聖騎士として使えなければならないのか、そんなことは無理だ。


心と頭がぐちゃぐちゃな状態で、私は今日も大聖女をさがしに出た。

北の領地の中でも大きな街、その中に露店が並ぶ一角がある。そこを歩いている時、ある花に目が止まった。

この国の国花であり、国中どこにでもあるカーネーション。しかし、そのカーネーションは何か違う気がした。


レインハルトは店主に声を掛けた。


「このカーネーションはどこのやつだ?」


「お、騎士様。お目が高いね、このカーネーションは北の果てにある村が最近流通させ始めた花なんだ。日持ちが良くて、香りもいい」


「北の…果て」


私は店主にお礼を言い、駆け出した。

私の半身がそこにいる気がした。


馬を休みなくかけ、山を抜けた先に、小さな村があった。

物珍しいのだろう、村人達の視線が突き刺さる。

しかし、そんなことは気にならなかった。心がざわついているのだ。ここに、私の半身がいる。

私は心の感じるまま、進んだ。

開けた丘の上、赤で一面覆われたカーネーション畑。その中に佇む1人の少女。美しく長い髪を風に靡かせている。


私の心は悲鳴をあげている。彼女が大聖女だと。私の半身だと。


私は一歩踏み出した。

その時、彼女も振り向いた。目があった瞬間、視界が青に染まった。


「……見つけた、私の大聖女」


レインハルトはその場に膝を突いた。魂の欠片が完璧に噛み合い、熱い涙が頬を伝う。

彼女は驚いたように目を見開き、しかしどこか懐かしそうに微笑んだ。


「……ずっと、待っていた気がします。私の聖騎士」



王都の大教会。国民へのお披露目を前に、マリアベルが大聖女として洗礼を受けようとしていた。教皇が聖水を掲げ、王が満足げに頷く。

その静寂を、重い扉を開く音が鳴り響いた。


「その者は大聖女ではありません」


現れたのは、聖騎士の正装を身に纏い、瞳に凄まじい輝きを宿したレインハルトだった。その隣には、村娘の服を着た少女立っている。


「レインハルト、乱心したか! 衛兵、その狂人を捕らえよ!」


王の怒号が響く。騎士たちが剣を抜き、二人を囲んだ。

しかし、アルヴィンは静かに、懐から一輪の花を取り出した。

それは、深い青色のカーネーション。


「大聖女と聖騎士、その魂が共鳴したときにしか咲かぬ花。これを見てもなお、私を狂っていると言うか」


場内が騒然となる。騎士たちは、その花から放たれる神聖な気圧に圧倒され、一人、また一人と剣を下ろす。


「馬鹿な!…青いカーネーションはマリアベルもさかせている!」

そう叫びながら掲げる青いカーネーション。しかし、その差は歴然だった。

何かで染められたような不自然な青と内から発光するような、深い青。


震える教皇に向かって、彼女が一歩踏み出した。その佇まいは、もはや村娘ではなく、数多の歴史を背負う「女王」のそれだった。

彼女は、壇上の王を真っ直ぐに見据え、静かに、しかし凛とした声で呼んだ。


「――エドワード。そしてヨハネス」


王と教皇が、弾かれたように顔を上げた。それは、幼き頃受けた洗礼名。今は亡き先代の大聖女や親族しか知り得ぬ「隠し名」だった。


「な、なぜ……その名を……」


「どうしてって? 私が貴方たちの洗礼式を行ったからでしょう? あの時、泣き虫だった貴方は、立派な王になると私に誓いましたね」


彼女は悲しげに、しかし慈愛を込めて微笑んだ。

大聖女とは、個にして全。歴代の記憶を束ね、朧げに受け継ぐ者。彼女は今、内なる「リィンカーネーションの花束」の中から、彼らとの記憶の一本を取り出したのだ。

その圧倒的な事実に、王は力なく崩れ落ちた。


それを見ていた皇太子が、静かに前へ出た。彼は父である王の不敬と強欲を悟り、騎士たちに命じた。


「父上と教皇、伯爵令嬢を別室へ。……大聖女様、この国の無礼をお許しください」


こうして、真の大聖女は帰還した。


「レインハルト、ありがとう。私を探してくれて」


改めて開催されたお披露目の日、バルコニーから民衆へ手を振るルルティア。


その言葉にレインハルトは微笑みを返した。



その後、王都のカーネーションには、時折「青い花」が混じるようになったという。それは、大聖女が聖騎士と共に笑い合っている、幸福の証。

二人の奇跡は、青い花の香りと共に、この国で永遠に語り継がれることとなった。




思い浮かんだ話を書いてしまいました。

もう少し詰めれたなと思うのですが、表現できる限界でした。

もしよろしければ、感想などいただけると幸いです。

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