駒と言う名の『ネズミ』
『戦争のあとしまつ』
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の続編にあたります。
「お……俺は、何でこんな事を……!」
悲劇を見た俺は、そう呟いた。
▪▪▪
「サウラ中尉、少しよろしいですか」
空軍上官の1人、アビラが話しかける。
「何かありましたか、大尉」
「ビクリー少佐がお呼びです」
空軍の部隊トップのビクリーがわざわざ俺を呼び出すのは珍しい。
「……分かりました、向かいます」
俺はアビラに会釈をし、軍部棟へと向かう。
何か嫌な感じがするのだが、この時は分かりもしなかった。
数分後、俺はビクリーの部屋に着き扉を叩く。
「サウラ中尉です。お呼びと聞きました」
数秒待ち、声が聞こえる。
『ああ、入りなさい』
俺は部屋の中に入る。
そこには、資料を読んでいるビクリーの姿があった。
「急に呼んで悪かったな」
「いいえ、大丈夫でございます。しかし、私に何の御用でありますか」
ビクリーは1枚の紙を差し出す。
そこには、『新型弾薬の投下について』と書かれている。
「新型の弾薬、ですか。確かに形勢は我々の方が不利になりつつあります……それで、これを私にと?」
ビクリーは頷く。
「流石だな、物分かりが良くて助かるよ」
資料に目を通すと、気になる事項を見つけた。
「少佐、これは私1人でやるのですか」
「ああ、これはまだ試作段階だからな。その為には1人で作戦を行い、データを集めて欲しい。『空の鬼』と呼ばれた方にふさわしい仕事だと思っていてね」
余りにも淡々と話す少佐にも違和感を持ちつつも、今は反対を通すわけにもいかない。
「……承知いたしました、お受けします」
その言葉に、ビクリーは少し笑みを含みながら頷く。
「では明日、頼むぞ」
俺は深々と頭を下げると、部屋を出た。
その姿を見届けたビクリーは、「所詮はヒトもモノも使い捨てよ」と呟いた。
俺は資料を自部屋に置くと、そのまま昼食を食べようと食堂へ入る。
食堂の中へ入ると、ピーナッツの匂いが鼻についた。
(そう言えば)
同僚達の噂では、新型の生物兵器を極秘で造っていると聞いたことがある。
匂いはどうやら『ピーナッツの匂い』に近いとの事だった。
(いやいや、まさかな)
たまたま任務の内容と近しいものがあるとはいえ、自分の担うものだとは考えにくい。
「ひとまずは腹ごしらえだ」
そう俺は呟き、バイキング形式の皿を取った。
▪▪▪
翌日、俺は軍の飛行場へと出向く。
「中尉、お疲れ様です」
整備員の1人が話しかける。
「ああ、ご苦労さん」
「中尉の乗る戦闘機は準備完了です。いつでも出撃可能です」
「ありがとう」
俺はそのまま、戦闘機へ乗り込む。
作戦の紙を今一度読み、確認を終えると俺は空へと飛び立った。
▫▫▫
今回は、敵国であるトムツァ国のゲリラ部隊に新型の弾薬を投下するという作戦だ。
(あそこはボーロル共和国と隣国だったな)
向かう途中、ふとそう思う。
今現在、味方の同盟国はボーロル共和国のみになった。
それで軍の上の人間も焦っているのだろう。
ゲリラ部隊が居るという、森林地帯が見えてきた。
そこに俺は弾薬を投下する。
相手の動向を見る為、俺はギリギリ飛行できる高さまで降下し見届ける。
数分後、中に居たであろうゲリラ部隊の人達が森林地帯出てきた。
……が、何か様子がおかしい。
「泡を吹いてもがき苦しんでいる……まさか」
俺はすぐさま投下したよりも風上の方に戦闘機を降下させる。
戦闘機から飛び降りると、微かに『焦げたピーナッツの匂い』がしてきた。
「お……俺は、何て事を……!」
これですべて察した。俺は新型の生物兵器を使うために行かされたのだ。
すぐさま軍へ連絡をしようと、無線を取り掛けようとした。
その時、雑音の中微かにビクリーの声がしてきた。
『……今頃、中尉は弾薬の中は新型生物兵器とは知らず、使ったであろう。大丈夫かって?なぁに、アイツは「実験台から逃げたネズミ」にする為に……』
『実験台から逃げたネズミ』、その言葉で疑惑が確信に変わった。
俺を勝手に生物兵器を使ったヤツに仕立てようとしたんだ。
その時、遅れて入ったであろうゲリラ部隊の残党の1人が俺に声をかけた。
「ガラマの戦闘機……オメェか!ウラ達の仲間を哀れな姿にさせたのは!!」
そう言って、銃口を俺に向けてきた。
「い、いや違う!……だが、こうなったのは仕方ない。俺を、俺を撃て!」
相手はじっと俺を見つめた後、銃口を少し下げる。
「オマエ、何かあったのか。ウラと同じニオイがする」
ニオイ……?それは共通点があるということだろうか。
潔く死のうと思ったが、その言葉で俺は我に返る。
「ヴェルモンさん、相手は敵国の野郎ですよ!?」
「黙ってろ!!」
その会話を聞きつつ、先程の無線の音声を抜き出す。
万が一の為に、自動録音にしておいて良かったと感じている。
「なあ、これなんだが」
微かに聞こえた音声を少し大きくし、ヴェルモンと呼ばれた彼に聞かせる。
それを聞いた彼こちらに顔を向ける。
「ネズミは実験の象徴、つまりは知らぬうちに加担されていたって事か」
「ああ」
ヴェルモンの目の奥が怒りに感じているのがわかる。
「……敵のヤツにこう言うのは癪だが、味方になってくれ。ウラ達の敵はこんな戦争を続ける軍人じゃ。どうだろう」
その言葉で、俺の気持ちは固まった。
「分かった、その話に乗ろう」
▪▪▪
万が一の為、乗ってきた戦闘機はヴェルモンの知り合いのジャンク屋に頼んで色々と修繕を頼んだ。
現状を軽く把握し、俺はヴェルモンの本拠地であるサンガル保護区へ来た。
「ここは低所得の人の為の保護区だ。ゲリラ部隊の奴らはここ出身でな。まあ……スラム街に近い雰囲気じゃ、誰も近寄らんから匿ってもらっとる」
そうヴェルモンが言う。
「しかし、これからどうされるんです。こちらの戦力は著しく低下しましたが……」
部下のキッチャーが言う。
「それなら、もうそろそろアイツが来る筈だが」
「ヴェルモンさん」
その時、後ろから女性の声がする。
振り向くと、白いスーツを身にまとった女性が居た。
「貴女、もしかしてボーロル共和国の新聞屋か」
俺が言うと、彼女は頷く。
「流石、『空の鬼』ですね。なんでも分かっていらっしゃる」
そう言って、姿勢を正す。
「わたくしはボーロル共和国の、政治や軍を取材する新聞屋のシアと申します。今は訳あってヴェルモンさんと情報を共有させていただいています」
「どうして彼女が?」
と俺はヴェルモンに聞く。
「ここへ帰る途中、彼女に連絡をしてな。情報が集まるだけ集めて欲しい、と頼んだんだ」
なるほど、と俺は頷く。
シアは俺達に向かって、耳打ちをする。
「流石にここだと言えない情報があります。なるべく見られない所で話したいのですが」
ヴェルモンは「なら着いてこい」と手招きをし、俺とシアは着いていった。
▫▫▫
ヴェルモンは、保護区の中でも地下のある部屋へ招き入れた。
ここなら、電波も遮断しているから安心らしい。
「それでは、お話しますね」
席に着き、シアは話し始める
ガラマの空軍の偵察機が現場を確認したところ、サウラの姿・もしくは死体をみなかったという報告を得て生きていると判断し、彼を抹殺する旨を独断で決めた。
また、今回使われた生物兵器をトムツァ国の首都に投下をすることも決定されたとの事です―――
「……これは、空軍トップと繋がっているボーロル陸軍の幹部との無線を傍受して分かった事です」
と、最後にそう付け加える。
「理由は不明だが、オマエを消したいと言うことだけは分かったな」
「ああ、そうだな……だがどうする。できれば2カ所同時に叩きたいのだが」
話を聞いていたキッチャーが口を開く。
「それなら、僕に貴方の身代わりをさせてください。相手をうちらで対応しているそのうちに貴方が戦闘機を止める、これでどうでしょう」
「……それなら、いいが。1つだけ約束してくれ。絶対に生き抜けよ」
キッチャーは頷く。
「それで、シアさんに1つ頼みがある。それは……」
▪▪▪
翌日、サウラはジャンク屋のところへ出向く。
「お疲れ様だ、戦闘機はどうなっている?」
ジャンク屋は戦闘機のところへ案内し、
「一応、色は白に塗りつぶしてあるし戦闘機の認識線 (レーダーに映すための線) は抜いている。これならなんとかなるわい」
「ありがとう」
「いんや、これくれぇならお手の内さ。それと」
ジャンク屋は俺の方を見つめる。
「ヴェルモンから、お前さんに伝言じゃ。『ネズミの下剋上はここからだ』ってな」
▫▫▫
俺は戦闘機でトムツァ国の首都に向かう。
(ジャンク屋は、多分戦闘機の改修をやっていただろうな)
元の性能よりも格段と上がっている。これなら早めに着きそうだ。
30分もしないうちに、首都の上空域に着いた。
2回ほど周った瞬間、南南東の方から見覚えのあるカラーの戦闘機を見つける。
「間違いない、ここに落とす気だな……」
警戒しつつ、尾翼のナンバーを見る。
誰が乗っているか気になったからだ。
「No.0091……あれば俺の!?」
一番可愛がっていた後輩スリアの機体だ。
俺の右腕的存在だったから、こいつも消そうと考えているのだろう。
(……俺と一緒の『ネズミ』になってたまるか!)
俺は目標を機体撃破ではなく、部分破壊をして事実を伝えようと考えた。
その時、相手も気が付き攻撃を仕向けた。
俺はすぐさま急転回をすると、機体左側のエンジンに弾を当てる。
当たったと同時に、機体は傾きながら降下していく。
街中に墜落だけはしたくないため、うまく誘導しながら一緒に降下していく。
そして外れの草原地帯に着陸すると共に、俺はすぐさまコックピットの窓を開け、相手の方に走り出す。
丁度向こうも脱出し、鉢合わせとなった。
―――やはり、乗っていたのはスリアだった。
「……せ、先輩!やっぱり、相手側に」
そう言うスリアに、俺は拳銃の銃口を頭に突きつける。
「せ、先輩?」
「俺の話を聞け、スリア。お前は前線に居る兵士よりも、『使い捨ての駒』にされるんだぞ?……―――」
▫▫▫
その頃、シアはボーロル共和国の首都を自走二輪車で走っていた。
ある証拠を元に『降伏をする事』を伝えに行く為だ。
「そこまでですよ、シア殿!」
と声をかけられ、周りをボーロル共和国の警備隊に囲まれた。
「く、そ。もう少しだったのに」
そう、シアは呟く。
「シア殿には、『国家転覆罪』の罪が出ています」
そう言って、紙を突き出す。
それを見たシアは冷や汗をかいていた。
(まさか握られていたとはね……)
もしかしたら、傍受の事が軍の人間に悟られてこのタイミングを待っていたのであろう。
「ここまで、か」
そうシアはいい、目を瞑る。
その時、後ろから銃撃の音が聞こえてきた。
そこには、ゲリラ部隊の人達が警備隊に向かって撃っていたのだ。
「シアさん、ご無事で!?」
ヴェルモンが聞く。
「大丈夫ですけ……ど……、貴方達も大丈夫なの?」
「なーに、ウラ達はへっちゃらさ!」
それ見た警備隊のトップが、怒りに滲ませたように声を荒らげる。
「「コイツラをたたっ斬れ!!!」」
「隊長!ここはうちらに任せて、シアさんと共に!早く!!」
部下の1人が言う。
「おうさ!早く行くぜ、シアさんよォ!」
「は、はいっ!」
▪▪▪
その後、生物兵器の件とそれがボーロル共和国にとって『完全不利・即時降伏』の情報をシアが届けに行き、ボーロル共和国は降伏を決める。
同時に新型の危険な生物兵器を使った事、それを一般兵に押し付けた事が本国にも伝わり、ビクリーは完全失脚。絶望と統制を出来なかった後悔で大統領が自死をし、それが引き金となって負けが確定した。
そして……その後の俺だ。
国家裁判で有罪の判決が出たのだが、シアやヴェルモンの証言と証拠、空軍トップで大佐のシウバが、自身の責任と引き換えに俺の人権回復を提示されたお陰で、刑期は短く済むことになった。
―――12月25日。俺は釈放され、戦争被害の『あとしまつ』をしに旅立った。




