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A Day in the Life

〈底冷えに辛抱一日延ばし哉 涙次〉



【ⅰ】大原虎鉄


大原は二度めの魔界墜ち。當該シリーズ第28話で、* カンテラが畸しくも、白兵戰の基本は體術にある、と喝破した通り、「ニュー・タイプ【魔】」配下の魔界軍に欠けた武道の心得を指導すべき者がゐない。その穴を埋める為、大原は魔界の軍顧問となつた譯である。



* 當該シリーズ第28話參照。



【ⅱ】伴田猛器


伴田猛器(前回參照)は憂士閣大合氣道部コーチを辞任すると云ふ。髙齡がその理由だ。彼はじろさんの一年先輩。今年70歳になる。彼が云ふに「私は今年、古稀を迎へる。まあ、『古來稀に見る』程生きたつて譯だ。塩田剛三先生も74歳で亡くなつてをられる。私はもう老齡で躰のキレが惡く、部員諸君らに教へる事も盡きた。其処で私の後釜に、大學に殘つてコーチ業をしてみたい、と云ふ人材を求めてゐる。我こそは、と云ふ者がゐたら、名乘り出て慾しい」尻込みしてゐる學生逹。伴田は深く溜め息を吐いた。



【ⅲ】四条克梓(しでう・かつし)


テオ=谷澤、じろさん、永田の文藝同人誌、*『季刊 新思潮』は、新人詩人を一人發掘した。彼の名は四条克梓。これはペンネームで、「私情勝つし」のもぢりだと云ふ。彼はかう云ふ詩を、『新思潮』に投稿して來たのである。



〈私自身の宗旨〉四条克梓


熱には熱を以て對處せよ

谷澤さんには惡いが

これはイエスの教へではない

私自身の教へ(?)である。

躰がオーヴァーヒートした時

焼き盡きさうな時

心の熱を放射せよ

さすれば貴方は救はれる

全身的な死の豫兆を

回避出來るのだ。

イエスにはこの智慧は備はつてゐなかつた

だがむべなる哉

自分の肉體の事は、十字架以降には

彼 眼中になかつたやうだ...

(後略)



これはテオ=谷澤の* 受洗を皮肉つてゐるのか? 新人としてはいゝ度胸である。その度胸を皆は買つて、仲間に曳き入れる事にした。四条自身としては、「生活派」の一端を覗かせた積もりに過ぎなかつたのだが。



* 當該シリーズ第29話參照。



※※※※


〈風が吹く我が虛無につける藥なく藥探せど出てきやしない 平手みき〉



【ⅳ】もう一度、伴田猛器


じろさんは思はぬ誘ひを伴田から受けた。「此井くん、僕の引退試合の相手役は、貴方しかゐなさゝうだ」-「先輩のお申し付けなら」-「有難う」。じろさんとしては、この老兵の、人生賭けた仕事の幕引きを自分がするのか、と云ふ、何やら不思議な巡り合はせのやうな感じで、この話を受けたのである。體育會では例へ一年上に過ぎなくても、絶對に先輩の命には從はなければならない。が、勿論、試合へばじろさんの圧勝は必定だ。それでも敢へてやる、と云ふ伴田は、負けて終はりにしたいのだな、ともじろさん、思ふ。試合の模様は、活冩するのは避けやう。其処での伴田は余りにも不様だつた。それが古強者の武道家の、一つの「全身的な死の豫兆」を反映してゐた...(心の熱の放射は、既にもう、涸れ掛けてゐるのだ。)



【ⅴ】もう一度、大原虎鉄


じろさんが伴田の相手をしてゐる、まさにその時、カンテラは大原退治の為、魔界に降りてゐた。* 一度魔道に墜ちた大原は、テオに退治されたのである。テオには失禮かも知れないが、彼如きに負けるやうでは、大原に、對カンテラ戰の勝ち目はない。こちらも活冩はしないで置く。今回は、いつものチヤンバラ小説ではないのだ。心の襞、それさへ描ければ良い。カンテラも圧勝した。「しええええええいつ!!」-大原は何度めかの死を、死んだ。



* 当該シリーズ第30話參照。



【ⅵ】仲本堯佳(「魔界健全育成プロジェクト」担当官)


「魔界健全育成プロジェクト」は、このカンテラの仕事に報奨金を出した。かなりの金額である。結果として、魔界軍に拠る被害の増大を、未然に防いだ譯であつて、「プロジェクト」の目論みに合致してゐる。カンテラは溜飲を下げた。じろさんの寂しげな顔を他處に。お仕舞ひ。



※※※※


〈書き物や明日には明日の冬の風 涙次〉



 PS: 伴田は、最期の試合の後、じろさんに相まみえる事は決してなかつた、と云ふ。まるで、老いた猫、若猫に力で及ばぬ- が、勝者に道を譲るやうに。


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