雨宿りの救世主
テーマは『雨宿り』
『第7回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞』の対象となる超短編作品です。
いつもより少し遅めの電車、窓の外を流れる雨にため息をつく。
朝一番で病院に診てもらった足の怪我が疼く。雨の中、駅から学校へ歩くことを考えるとうんざりするほど憂鬱だ。
やがて電車は停まる。意外にも降りる人間がぱらぱらといたことに驚く。こんな田舎の駅にこんな時間に用のある人間もいるのだな、と。
もう一度白いため息をつき、冬の雨の中に消えていく傘を見送ると遅れてその後に続く。
そこでふと気付く。
誰もが素通りする無人駅の小さな待合室、ただ雨をしのぐだけの簡素な造りの中、一人の少女がぼうっと空を見上げている姿が目に入った。
「―――行かないの?」
声を掛けた理由はいくつかある。ほとんど話もしたことのなく、何の関わりもないとはいえそれでもクラスメイトだ。別に不自然というほどでもない。
だけどきっと違う。なんとなくこの非日常の空気に浸ってしまったのだろう。
彼女は一瞬、自分のことだとはわからなかったのか、ゆっくりと視線を揺らし、やがて理解するとしばし見つめ合う。そして、あちらも自分が誰か気付いたのだろう。
「ちょっと、疲れてて……」
「そっか」
不思議な感覚。きっとその言葉は嘘じゃない。彼女の声も顔色も、それが真実だと物語っていた。だけど、その眼だけは強く輝いているように見えた。
立ち止まったままの自分、ベンチに腰掛けた彼女、静かで冷たい雨の中しばしの沈黙が流れた。
「……世界を、救ってきたの」
「は?」
彼女の突拍子もない言葉、まるで少年の妄想のようなその内容に、咄嗟に何も返すことができなかった。だけど、彼女の口元に浮かぶどこか諦めたような笑みに、何か言わなければならないと思った。
「ありがとう」
「えっ……?」
彼女が驚きを見せる。
自分にだってわからない。どうしてそんな言葉が出たのか。彼女の言葉を信じたわけではないはずだ、でも、なぜか、そんな言葉がふさわしいように思えた。
「だって、助けてくれたんだろ?」
「それは……」
言い淀む彼女を見ると、あるいは本当にそうだったのだろうと感じた。この非日常の空気のせいかもしれない。
きっとそのせいだろう、と自分も待合室に入り、彼女から少し離れたところに腰を下ろす。
そして、空を見上げる。先程彼女がそうしていたように。
「止んだら、一緒に行こう」
隣で、小さく頷くのが見えた。




