元暴走族総長の夫と、超絶真面目な私の話
この話は、私・紗羽とその夫の出会いの話である。
まず、簡単に私の自己紹介から。
超絶真面目。その一言に尽きる。
高校生の頃、担任の先生から、
「貴女は真面目過ぎるから、たまには悪いことしていいのよ?学生の間だけなんだから、悪いことできるのは・・・」
と言われてしまうくらいの真面目。
だからといってクラスメートに「真面目にやって」などというリーダーシップさなどはなく、休み時間はひたすら読書をしたり、数少ない友人とアニメの話をしたりして学生時代を平和に過ごしてきた。
まさしく不良とは無縁の世界で育った。
そんな私は、高校の夏休みの課題の一つであった、"ボランティア活動をする"ために某商業施設内で募金活動をすることになった。
今でも覚えている。
「目の見えない人たちのために音の鳴る横断歩道の設置」のための募金活動。
某24時間放送するテレビが放送されている間、決められた時間で行われるその活動。
私は一緒に参加した友人と共に高校の制服に身を包んで募金を呼び掛けた。
「よろしくお願いしま~す」
素通りする人がほとんどの中、少しでもお金を入れてくれる人にウルッと泣きそうになるぐらいに頑張って声を出していた。
そんな時に、ひとりの男の人が歩いてきた。
皆さんは「戦国BASARA」というゲームはご存じだろうか。
アニメ化もしているため、ぜひ検索してみてほしい。
それに出てくるキャラクターの一人。
片倉小十郎。
まさにそれだった。
彼と同じばっちりセットされたオールバック。
全身黒一色の服に黒色のサングラス。
圧。
ヤバし。
こいつはヤバい。
本能でそう思ったが、その男は黒いブーツの音を立ててコツコツと私の前に来た。
「募金をお願いします」
目の前の片倉小十郎張りの強面の男に対してよく言えたな、と自分でも思う。
しかし、私は何度も言うが超絶真面目。
言わない選択肢などなかった。
男はポケットから財布を取り出して小銭入れの部分を開けた。
「手、出して」
「え?」
「手。」
私は募金箱を小脇に抱えて右手をお椀状にして出した。
すると、男は私の掌の上に小銭を全部乗せた。
小銭はすべて百円玉と五百円玉。全部で四~五千円くらいになるのでは、というくらいの量だった。
小銭と一緒にコロン、と出てきた青い天然石。
よくあるお守りの中に入っているとても小さな石だった。
「あ、これ違う」
男はそう言って天然石を空になった小銭入れに戻した。
「財布閉まんなかったから丁度良かった」
男はそのお金を全て私の募金箱の中に入れてくれた。
「がんばれ、高校生」
そう言って小さく笑って去って行った。
これが、私と夫の最初の出会いだった。
それから私は、一人のマザコン反抗期男と付き合ったが、まぁその話はいったん置いておく。
募金活動から七年が経ち、私は社会人として働いていた。
七年も経っているのに、大量の小銭を募金箱に入れてくれたあの男の人のことをずっと覚えていた。
事あるごとに飲み会の席や世間話でその時のことを笑い話として話していた。
「人は見かけによらないね」といった感じで。
そんなある日、姉から
「一緒に婚活サイト登録しない?」と誘われた。
※その当時は婚活サイトが普及し始めたばかりで、知名度も低く登録者もそこまで多くなかった時代の話のため、今の婚活サイトがどんなものかは分からないですが、安全とは言えないサイトもあるので決して推奨するものではないことをこの時点でお伝えいたします。
超絶真面目な私の初彼氏がクズ過ぎて心配になった姉から、興味本位で話を振られたのだった。
私自身も元カレとの過去を払拭したかったし、興味もあったため、姉と一緒に登録した。
簡単にプロフィールを作成し、顔が真正面から見えないような写真を選んで掲載した。
いろんな男の人と連絡を取り合った。
「自家用ジェット機で〇〇空港まで迎えに行ってあげようか?」というジェット機おじさん。
「会えないなら連絡返さないで」という目的がしっかり定まっている若い男。
「将来ビッグになるから支えてほしい」という危険な匂いのする男性。
いろんな人と連絡を取って、世の中いろんな人がいるな・・・と思いながら、特に誰とも会うことなく一ヵ月が経った。
そんなある日、一通のメールが届いた。
「ショウです。はじめまして。良かったらお話しませんか?」
というなんの変哲もない定型文。
それなのに妙にそのメールを送ってきた人のことが気になった。
プロフィール写真は、お城の前で撮ったらしいピースサインをしているもの。
連絡を返そうか五日は悩んだ。
よくある定型文過ぎて判断がつかなかったからだ。
でも、ずっと気になっていて、とうとう五日目に連絡を返した。
すぐに返事が来た。
「ショウです、よろしくお願いします。」
やっぱりシンプルザベストなメール。
婚活サイトでやりとりする多くの男性は長文が多かった。
きっとこちらの不信感を払拭しようと思っての行動だったのかもしれないが、いきなり自分語りをしてくる男性が私の場合は多かった。
「紗羽です。よろしくお願いします」
私も同じくシンプルザベストなメールを送った。
何度か短文でやり取りし、長文で返さなくていい気楽さに自然とショウさんとのやり取りが楽しくなっていった。
そんな中、
「良かったら、デートに行きませんか?」
とショウさんからメッセージが届いた。
婚活サイトに登録していながらも誰かと会うという一線を越えられないでいた私はすごく悩んだ。
悩んだ末、その一線を越えることにした。
どこかで真面目を脱したいと思っていたのかもしれない。
いざとなればその当時お気に入りで頭に付けていた簪で相手を刺してやればいいと思っていた。
だから、そのお誘いに答えることにした。
彼は私の家近くの駅まで車で迎えに来てくれた。
「ショウです。・・・紗羽さんですか?」
「はい、そうです。はじめまして」
私は頭に差していた簪を触りながら挨拶をした。
いつでも相手を刺せる状態にしておきたかった。
ショウさんは白いジーンズにグレーの上着を着ていた。
髪もナチュラルにセットしていて、爽やか風な感じ。
しかし、彼が強面であることと、端々に「この人不良だったのかな?」という独特のオーラ?のようなものを感じて私は警戒を怠らなかった。
常に戦闘態勢をとり脳内では簪で刺すシミュレーションを何度も繰り返していた。
しかし、ショウさんはそんな私を他所に普通にランチデートに連れて行ってくれた。
「(普通にいい人だった。)」
そう思いながらショウさんの運転する車の助手席に揺られた。
帰りはリラックスしてショウさんと色んな話をした。
婚活サイトでどんな人とやり取りをしたのか。
最近行った旅行先はどこかなど、他愛もない世間話。
そして、私はいつもの話をした。
「高校生の時に、募金活動をしたことがあって、こんな人がいたんですよねぇ」
ずっと覚えていた強面の男の人の話。
ショウさんは頷きながら聞いてくれた。
私が一通り話し終えると、彼は言った。
「ねぇ、それって何年前の話?」
「えっと・・・もう七年前になりますね」
「・・・〇〇市の〇〇モール?」
「え?」
場所は言っていない筈なのに、ショウさんは私が募金活動を行っていた商業施設の名前を言った。
「某24時間放送するテレビが来てた時じゃない?」
「!・・・なんで・・・」
ショウさんは赤信号で止まったタイミングで私を見た。
「それ、俺かも」
ショウさんはニッと笑った。
ショウさんは広い公園の駐車場に車を停めて財布を取り出すと、小銭入れを開けた。
コロン、と出てきた青い天然石。
七年前より少し黒ずんでいるけど、まさしくそれだった。
「あんときさ、同期の奴らと一緒にバッティングセンターとボーリング場行って賭け勝負してたんだ。俺ずっと勝ち続けてさ、賭け金百円と五百円だったから財布パンパンで閉まんなかったんだよ」
ショウさんは笑いながらその時のことを話した。
賭けをしようと言ってやったはいいが、まさかこんなに勝ち続けるとは自分でも思っていなかったらしく、財布が閉まらなくなったらしい。
その当時全くお金に困ってなかったし、同期に「お金を返す」と言っても受け取ってくれなかった。
さて、どうしたものか・・・と商業施設内をぶらぶら歩いていたら募金活動をしている高校生を見つけた。
「(丁度いいところで高校生が募金活動してるじゃん。)」
どうせなら同期たちのお金を有効に使ってもらおうと思ってあの行動をとったのだという。
私は、あの大量の百円玉と五百円玉の謎を七年越しに知った。
「その時のサングラスこれでしょ?」
車の収納ケースから取り出されたサングラスは、あの時の黒いサングラス。
そして、両手で簡単に前髪をたくし上げて出来上がった片倉小十郎。
「あの時の危ない人だった。」
私はそう思った。
のちにこの時言っていた「同期」が同期ではなく「元暴走族仲間」だったことを知る。
運命的な出会いをしたと私は舞い上がっていた。
ショウさんもそう思ってくれたようで、すぐに交際を始め、とても大事にしてくれた。
半年ほどが経って、二人で同棲することになった。
マンションを借りて、家具家電を揃えた。
とてもウキウキして楽しかった。
――そんなある日、事件は起きた。
同棲始めて約二週間。
引っ越しの荷解きも終わり、マンションでショウさんと二人で平和に過ごしていた休日。
外でバイクの音が聞こえる。
一台じゃない、複数台。
そっと窓の外を見ると、マンションの駐車場に三十台くらいの大型バイクが停められていた。
ツーリングチームかな?と思って、何気なくショウさんに声をかけた。
「外にたくさんバイクが停まってるよ。ツーリングかな?」
「!!!」
ショウさんは飛び起きた。
そのままの言葉通り飛び起きた。
バタバタと走ってベランダから下を見る。
「アイツら・・・!!」
下にいた人たちがショウさんを見つけて手を振った。
「総長~!!引っ越し祝いに来たっす!!」
明らかにこちらに手を振っている。
「横にいらっしゃるのが総長のこれっすか?」
小指をぴょこんと立てた。
三十歳前後の男が可愛く小指を立てても全くもって可愛くない。
私はそっと隣に立つショウさんを見た。
「・・・総長?」
「・・・・・・。」
ショウさんは顔をサッと逸らした。
私は目を細めた。
「総長って、何?」
「いや、その・・・」
「総長!!降りてきてくださいよ~!」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「後で説明してくれる?」
「・・・・・・はい。」
ショウさんは急いで駐車場に行った。
「お前ら来んなって言っただろうが!!」
「いやぁ、あの女っ気のない硬派な総長が選んだ女性がどんな人か見たくてつい」
「ついじゃねぇ!!」
「・・・・・・。」
ショウさんは後でちゃんと説明してくれた。
学生の頃、暴走族チームを作り、初代総長となったショウさん。
近隣で暴走する奴らと喧嘩しまくり、どんどん吸収してとても大きな暴走族チームになったらしい。
チーム内のルールは交通マナーを守ること。
誰彼構わず喧嘩しないこと。
など、当時の暴走族が破ってきたルールをきちんと守らせるために統制された超絶硬派なチームだった。
"喧嘩が強く、義理堅い、硬派な男"。
暴走族の中でショウさんはそれはもう慕われていたらしい。
マンションの下に集まった三十人くらいの男の人たちは、ショウさんが総長をやっていた当時の幹部たちだった。
「黙っていてすみません。」
総長は幹部たちの前で私に土下座して謝った。
のちに私は鬼嫁として元暴走族の幹部たちの間で語り継がれる。
そんな、元暴走族総長の夫と、超絶真面目な私の出会いの話。
人生どう変わるか分からない。
ただそれだけは言える。
※実体験に少しフィクションを混ぜています。
何度も言いますが、暴走族を推奨するものでも、婚活サイトを推奨するものでもありません!
ご注意ください。
今回も私の拙い小説をお読みいただきありがとうございました。




