悪役令嬢、領主の息子から婚約破棄を切り出された→結果
「グロリオーサ、君との婚約は今日をもって破棄させてもらう」
領主の息子、ギプソフィラの開いたパーティにて、突然彼にそんなことを言われた。ここにはギプソフィラ家領地どころか、他領地からの貴族や有力者も、多数参加している。
そんな場所で、婚約破棄を言い渡されたのだ。
「ローズマリーに聞いたが、お前は相当な悪さをしてきたそうだな」
ギプソフィラに寄り添い、私と目を合わせないローズマリー。領主の息子との婚約者という地位、それが欲しくなったのか。
「恐れながら、私には全く覚えがないのですが。あなたはその娘に騙されているのでは?」
まさかギプソフィラとの婚約発表パーティで、こんなことになるとは思わなかった。パーティである。たくさんの着飾った貴族のお客様が来場なされている中での、この顛末。
「今、改めてこの場でお前の罪状を宣言しよう。お前の恐るべき罪の数々を!」
この場にいた参加者はみんな、『あんなお嬢さんが、なんの罪を犯したというのか』『殿下にあそこまで言わせるなんて、きっと恐ろしいことに違いないわ』という表情だ。
みな、私と殿下のことを交互に見ながら、ひそひそ話をしている。当然だ。こんな場所で、自分とは関係ない騒動が起こったら、心配そうに遠巻きに見ながら内心楽しむ。
紳士淑女平民奴隷、人類共通の嗜みだ。
「皆のものもよく聞いてほしい! グロリオーサは、ローズマリーをいじめていたんだ!」
「は?」
場の空気が凍る。なんだその下らない『罪』とやらは?
「服を汚す。取り巻きを使って悪い噂を流す。因縁をつけて口撃をする。頼まれたら断れないローズマリーに無理難題をふっかけて困らせる。数々の悪いことを、この女は彼女にしてきたのだ!」
パーティの参加者が明らかに引いている。それはそうだ。どんな悪事を働いてきたのかと期待されていながら、蓋を開けてみたら単なる嫌がらせ程度のことだったのだ。
いや、それはそれで、やられた本人にとっては『とんでもない悪事』なのだが、残念ながら、私はそんなことはしていない。
「なるほど。ギプソフィラ様は、そのローズマリー様の言い分を、信じたのですね」
「当然だ。最初、彼女は私に助けを求めに来た。ローズマリーの眼は、真剣なものだった。私は彼女の全てを信じる。だからこそ、お前との婚約を破棄し、お前をこの街から追放しようと決めたのだ」
「それは、ギプソフィラ家として? それとも、貴方の意思?」
「家のものたちとは話し合った。つまりこれは、ギプソフィラ家の総意だ」
「わかりました。その婚約破棄を受け入れましょう」
「当然だ。貴様が受け入れなくても、これは決定事項だ」
「そうですか」
私は、右手を高く挙げ、指を鳴らした。
「お前たち、計画変更だ。全員拘束しろ」
その瞬間、ボーイやスタッフ、ウェイトレスが隠していたナイフやクロスボウ、剣で武装しだした。あまりにも動きが速く、ただの参加者は理解が遅れたようだ。
その場にいた貴族や有力者、もちろん領主の息子も全てを拘束した。
「さて、ローズマリー。これはどういうことかな。もしかして、私を排除し、この国を手に入れようと?」
「姉御。あんたのやり方は乱暴すぎるんですよ。だから私は」
「違うよね。私を陥れて、この『暁の薔薇団』を壊滅させようとしたよね」
ローズマリーの表情がこわばる。
『暁の薔薇団』。莫大な団員から成る、ならず者集団。傭兵も請け負うし、得となれば依頼主を殺害し、敵側にわたすことも厭わない。小国を転覆し、占領したことすらある。
その団長が、グロリオーサなのである。
大きな集団なので、たまにこういう裏切り者が出てくる。団を乗っ取ろうとするもの、儲けを横取りしようとするもの、団をダシにして特定の国に取り入ろうとするもの。もちろん、全て『排除』してきた。
「貴方の行動は、前々から気付いていたよ。このタイミングで裏切るのも想定済み。残念だったね。裏切り者には死あるのみ。さようなら」
背後に控えていた私の部下が、ローズマリーの首を切り落とす。それを見て恐れ慄く領主の息子と、貴族たち。
普段、なんの覚悟もないくせに、権威に寄り添い強がり、弱いものを蔑み搾取する、人間のクズども。まぁ、私たちも弱いものを蔑み搾取する側なのだけど。
「さて。貴方たちには人質になってもらう。老若男女、関係なく逆らったら殺す。一族郎党殺す。領民も全て殺す。家畜もペットも余す所なく殺す。その領土を地図から消す。わかったら、観念するんだね。我々には、そのチカラがある」
私は満面の笑みで、ギプソフィラに言う。
「本当はもっと、穏便なかたちでゆっくりと、貴方の領土を乗っ取るつもりだったんだけどね。出来の悪い部下が迷惑をかけちまった。反省して、もっと直接的な方法をとることにしたよ」
「直接的な方法?」
「そう。貴方の首を領主に送り付けて、動揺している間に侵略、とかね」
「こ、この悪役令嬢が!」
ギプソフィラが叫ぶ。
「悪役令嬢? 上等だ。せいぜい自分の浮気性を後悔するんだね」
私はギプソフィラの首をはねた。




