表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
テレビでやるだけでも大変だったのに今度は時代劇映画を作れと言われた俺はどうすればいいんだろうか?  作者: ふゆはる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/20

第6話/キャスティング会議が始まる

 会議室での激論から数日後、ようやくシナリオの方向性が決まった。

 テレビシリーズを踏襲しつつも、映画として迫力を出す――

 悪は最後まで悪として裁かれるが、物語の深みも残すという妥協案だ。


 その方向性をもとに、数本のシナリオ案が脚本部から上がってきた。

 俺は資料を抱え、自宅の書斎で山積みになったプリントを前に座る。

「……ふう、やっとここまで来たか」

 心の中で安堵しつつも、胃の奥はまだぎゅっと締めつけられている。

 藤堂亮の暴力描写の妄想と、田代の赤ペンの嵐が頭をよぎり、戦々恐々だ。


 最初の案は、テレビシリーズの延長線上で、悪人の心理描写を丁寧に描くタイプ。

 岸本春男の手によるもので、悪人が最期に少しだけ迷い、観客に同情させる演出が盛り込まれていた。

「……悪人にも人間味を残すか……」

 読みながら、俺はつい眉をひそめる。藤堂亮の好む迫力には少し物足りなさを感じた。


 次の案は、映画的派手さ重視で、悪人は最後まで悪として描かれ、クライマックスで一気に決着がつくシナリオ。

 血飛沫と斬り合いの連続、カット割りも大胆だ。

「……うわ……藤堂監督、やっぱり本気だ……」

 頭の中で赤ペンが舞う田代の顔が浮かぶ。

 これをそのまま通したら、絶対に会議室で炎上するだろう。


 さらに第三の案は、両案を折衷したもの。

 悪人の心理描写も残しつつ、クライマックスで迫力ある決着を用意する。

「……まあ、これなら田代もなんとか納得するか……」

 俺はページをめくりながら、少し安心した。

 ただ、この案でも藤堂亮の演出意図をどう抑えるか、まだ調整が必要だ。


 資料を前に、俺は頭を抱える。

「……うーん、どの案も一長一短か……」

 キャストの立場、監督の意向、倫理の制約――全てを考慮しながら、どれを通すか決めなければならない。

「……でも、決めなきゃ……次の段階に進めない……」


 深呼吸をひとつ、もう一度ページをめくる。

「……よし、まずは第三案を軸にして、藤堂監督と田代の折衷案を作るか……」

 俺はペンを取り、赤字を入れつつ、自分なりに調整案を書き込んでいく。


 未決定のシナリオが並ぶ机の上、キャストの顔が浮かび、会議室の怒声も遠くに響く。

 だが、ここから先は俺の手腕次第だ。

「……さて、どう料理するか……俺の腕の見せ所だな……」

 胃の痛みと戦いながらも、桐谷雅彦は次の段階への覚悟を胸に決めるのだった。


 会議室に入る前から、胸が締めつけられていた。

 藤堂亮の眼光は鋭く、机の上に置かれた資料を見ただけで、血飛沫の妄想が頭に浮かぶ。

 田代美咲はすでに眉をひそめ、赤ペンを手にして待ち構えている。

 俺は深呼吸をひとつして、両手に資料を抱え、口を開いた。


「藤堂監督、田代さん、今回のシナリオ案ですが、第三案を軸に折衷案を作ってみました」

 藤堂は腕組みしたまま、冷たい視線で俺を見下ろす。

「ふん、折衷? 妥協案か。どれだけ迫力を削ったんだ?」

「いや、削るというより、演出の自由度は残しつつ、倫理的配慮も加えました」

 俺は資料を机に広げ、ページをめくりながら説明を続ける。

「悪人の心理描写を残し、観客が共感できる部分も確保しました。その上でクライマックスの迫力も維持しています」


 田代は眉間にしわを寄せ、赤ペンを手にして資料を覗き込む。

「……なるほど……でも、血飛沫の量や斬撃の描写はまだ多すぎます。倫理的に問題がある表現は……」

「そこは調整可能です。藤堂監督の意図も尊重しつつ、田代さんのチェックを通す形で対応します」

 俺の声には、どこか必死さが混じっていた。

 会議室の空気は、瞬間的に張りつめる。


 藤堂亮は唇の端を引き、低く笑った。

「ふむ……なるほどな。だが、観客は迫力を求めている。俺の演出が制限されるのは許せんぞ」

 岸本春男も同意するように首をかしげる。

「迫力は必要だ。ただ、倫理面も無視できん。なるほど、折衷案か……」


 田代は赤ペンを振り上げ、資料に線を引きながら声を荒げる。

「でも、これはまだ妥協の余地があります! あくまで子どもや一般観客にも配慮すべきです!」

 俺の頭の中で、血飛沫と赤ペンのイメージが交錯し、胃がきりきりと痛む。


「……わかりました、田代さん。ここは具体的に数字で調整します。斬撃や血の描写はここまで、迫力はここで演出してもらう、という形で」

 俺はペンで線を引き、折衷案のポイントを示す。

「藤堂監督、ここはあなたの裁量で、演出として盛り上げてください。ただし、赤ペンの範囲は守る形でお願いします」


 藤堂亮は一瞬目を細め、俺を見つめる。

「……なるほど、俺に自由は残す、だな。いいだろう」

 田代はまだ眉をひそめるが、ため息混じりに頷いた。

「……仕方ない……ここまで譲歩するしかないですね」


 会議室には一瞬の静寂が流れた。

 だが、その静寂の奥には、火花が散り続けるような緊張が残っている。

 俺は資料を抱え直し、深呼吸をひとつ。

「……ふう、なんとか一歩前進か……」

 しかし、頭の中では血飛沫と赤ペンの嵐がまだ渦巻いている。

 映画化現場の地獄は、ここからが本番だ。


 俺は心の中で呟く。

「……さて、これでキャストと具体的な演出の調整に入らないと……まだ戦いは終わらない……」

 会議室のドアを開けた瞬間、空気がぎゅっと重くなる。

 今日は映画『闇の狩人』のキャスティング会議だ。

 机の周りには藤堂亮、岸本春男、田代美咲、そしてプロデューサーの俺、桐谷雅彦が揃って座っている。

 キャストの候補はまだ来ていないが、すでに緊張感で室内の空気は張りつめていた。


「さて……今日からキャスティングを本格的に決める」

 俺は資料を広げながら口を開く。

「主役から脇役まで、候補者リストはすでに上がっています。皆さんの意見を聞きながら、最終決定に向けて調整します」


 藤堂亮は腕を組み、無言で資料を睨む。

 岸本春男は古びたメガネの奥から目を光らせ、紙をくるくる回しながら呟く。

「うむ……やはり山田剛が主役か……テレビシリーズでの人気もあるし、彼に外れはないな」


 田代美咲は赤ペンを手に、資料を丁寧にチェックする。

「……でも、山上ローラのキャラは、映画でも安定感が必要です。天然キャラも面白いですが、演技の安定性も重視してください」

 俺は資料を手で押さえ、田代に頷く。

「もちろん、田代さんの意見は重要です。ただ、映画としてはキャラクターの個性も大事なので、天然さを完全には削らない方向で」


 藤堂は机を叩き、低く笑った。

「天然キャラ? 面白いじゃないか。観客は笑いも欲してる。山上ローラ、うちの映画にハマるだろう」

 岸本も微笑む。

「まあ、多少の天然は映画のスパイスとして有効だろう」


 俺は資料をめくりながら、鏑木一誠の名前に目を止める。

「そして、二人目の主人公には鏑木一誠を考えています。元悪代官役で一躍人気になった俳優です。迫力もあり、主役との相性も悪くない」


 田代は眉をひそめ、赤ペンで名前を丸で囲む。

「……迫力は認めますが、過激な演出に耐えられるか心配です。演技力はあるものの、倫理面での調整が必要です」

 俺は頭をかき、深呼吸する。

「そこは藤堂監督の演出次第で、抑制も加えてもらう予定です」


 会議室の外から、ローラの声が微かに聞こえた。

「桐谷さん、主役決めるなら、私も参加していいですか?」

 俺は微笑みを返す。

「もちろん、君の意見も参考にする」


 藤堂は再び資料を睨みながら、低く呟く。

「キャスト選びは重要だ……映画の質はここで決まる」

 俺は心の中で小さく溜息をつく。

 キャスティングひとつで、藤堂の過激演出と田代の赤ペン、そして俺の胃が再び危険水域に達することは間違いない。


「……よし、では順番にキャストを確認していこう」

 俺は資料を手に取り、会議を正式に開始する。

 未決定のシナリオと未だ揺れるキャラクター選定——

 桐谷雅彦の戦いは、まだ続く。

 キャスティング会議は、まだ熱気と緊張が混ざったまま続いていた。

 藤堂亮は資料に目を落としたまま、低い声でぽつりと呟く。

「……敵の親玉、大名役は矢田藤七だな」


 俺は思わず息を止める。

 矢田藤七――業界では知らぬ者のいない大御所中の大御所。年齢も七十を超え、存在感だけで画面を支配する俳優だ。

「……藤堂監督……矢田さんですか?」

 藤堂は目を細め、静かに頷く。

「そうだ。俺の人脈だ。スケジュールの調整も済んでいる。映画としての威圧感、貫禄、すべて揃っている」


 田代美咲は資料を見下ろし、眉をひそめる。

「……大御所……確かに迫力はありますけど、演技力は折り紙つきですが、倫理面や過激描写への耐性はどうですか?」

 藤堂は口角を少し上げ、笑みを含ませる。

「心配無用。矢田藤七、役者としてのプライドがある。演出には従うだろう。ただ、存在感は絶大だ。画面全体を引き締めてくれる」


 俺は深く息を吐き、資料を押さえる。

「……なるほど……さすが藤堂監督、人脈が強力ですね」

 岸本春男も、資料をめくりながら感嘆するように呟いた。

「なるほど……敵の大名役に大御所とは……確かにこれなら映画としての重みが増すな」


 ローラが机の端から顔を出し、興味津々で口を挟む。

「へえ、矢田さんですか! 画面に出るだけで迫力満点って感じですね」

 俺は微笑むしかなかった。

「そうだな……藤堂監督の意図がよく分かる。敵の親玉として画面に存在するだけで、物語の緊張感が増す」


 だが、心の奥では、胃の痛みと、赤ペンの嵐への恐怖が再びよぎる。

「……大御所が入れば、迫力は確実。でも……田代さんのチェックが入ったら……どうなることやら……」

 会議室の空気は一瞬重くなり、俺は資料を手で押さえたまま息を整える。


 藤堂亮は机を軽く叩き、低く笑った。

「これで敵味方のバランスは完璧だ。大名役が矢田藤七なら、主役の山田剛や鏑木一誠も映える。画面全体の重心が決まる」


 俺は頭をかきながら、思わず心の中で呟いた。

「……やれやれ……これで血飛沫と赤ペンの嵐がますます恐ろしいことになる……」


 会議室の空気は再び緊張感を帯び、桐谷雅彦の戦いは、新たな局面を迎えた。

 敵の親玉、大御所矢田藤七の配役――藤堂亮の強力な人脈により、映画の盤面は一気に決定的なものになったのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ