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キツツキ

作者: 古数母守

 リズミカルな音が森の中に響いていた。キツツキが休みなく木の幹をつついていた。朝露で湿った木々の香りがほんのりと漂う中、キツツキは途切れることなく乾いた音を辺りに響かせていた。

「すがすがしい一日だ」

森にやって来たK教授は思った。彼はずっと鳥の研究を続けている学者だった。鳥たちが交わし合う鳴き声には、どのような意図が含まれているのだろう? 長年、そうした研究を続けていた。そして鳴き声を録音するための機材を持って森にやって来ていた。

「ギャアギャア」

侵入者に驚いた鳥たちが飛び立って行った。あれは仲間に危険を知らせる合図だな、驚かせて申し訳ないと教授は思った。鳥たちをあまり刺激しないように注意しながら、教授は一日中、森の中で過ごした。そしていろいろな野鳥の声を録音した。


 森での一日を終えて、教授はいつものように自宅で鳥の鳴き声を分析していた。仲間に危険を知らせる声。餌を見つけた時の声。いろいろな意図が鳴き声には含まれていると教授は考えていた。そして鳥たちのさえずりと人間の言葉には何かしら共通点があるのではないかという仮説を立てていた。その日、鳴き声を聞きながら、教授はふとキツツキの立てる音が気になった。野鳥の鳴き声と共にそれはしっかりと録音されていた。それは単調な音の連続でしかないと初め教授は考えていたが、次第にそれが何かメッセージのように思えて来た。すべて木をつつく短い音だったが、短い音にも間隔の長いものと短いものがあった。もしかして短い音だけで符号化しているモールス信号かもしれない。そして信号を復号して言葉に直してみた。

<<アス、サッポロデ、シンドロクノ、ジシンガ、オキマス>>

教授は驚いた。意味の通る文章ができるとは思わなかった上に、それはとても不吉なことを予言した内容だった。

「そんなバカな・・・」

教授は思った。だが翌日、都市直下型の地震が札幌を襲った。震度6を記録し、木造家屋や古いビルがあちこちで倒壊し、広い範囲で停電が起きていた。中継された被災地の映像を見て、教授は唖然としていた。


 キツツキは地震を予言したのだろうか? あれからずっと教授は考えていた。録音されていた音が符号化された信号であり、それを言葉に直したら文章になり、それと同じことが実際に起こった。それは予言に思えた。気になった教授はそれから毎日、キツツキの立てる音を聞きに言っていた。だが、あれから特に意味のある文章になる音は聞けなかった。偶然の一致だったのだろうか? 教授は考えた。だがある日、またしても意味の通った音をキツツキが立てていた。

<<アス、ナガノケンニ、インセキガ、オチマス>>

そして翌日、その通りの事件が起こった。隕石が長野県の小さな村に落下した。その衝撃は凄まじく、村は跡形もなく消し飛んだ。二十名が命を落とした。教授は壊滅した村の映像を見て、呆然としていた。


 キツツキは予言をしている。そして予言は現実のものとなる。この先、もっと悲惨なことが起きるかもしれない。災害が発生する。事故が起こる。戦争が起きる。教授は嫌なことを連想していた。

<<アス、ジシンニヨルツナミデ、タクサンノヒトガ、シニマス>>

キツツキがもし、そんな音を立てたら私はどうすれば良いのだろうか? 教授は気が気でならなかった。災いが現実のものになる前に予言をやめさせなければならない。教授は考えた。翌日、教授は猟銃を持って森に出掛けた。そしてキツツキに銃を向けた。キツツキは相変わらず木をつついていた。

<<ワタシヲ、ウチコロシテモ、ミライハ、カワリマセン>>

その時、キツツキはそんな音を立てた。その通りだった。教授はキツツキを撃つのを止めた。


 数日後、教授は地域の人たちを集めて、災害に備えるため地域のつながりを強めて行きましょうと提言した。いざという時に助け合えるようにするため、これからは少しずつお互いの絆を深めていきましょうという趣旨だった。各地で起きている災害に関心を寄せていた人たちは、教授の提言を好意的に受け止めた。個人の力では対抗できない脅威に対して、協力が不可欠だということで意見が一致した。具体的な活動はこれからだった。定期的に会合を持ち、実現可能なプランを検討していきましょうということになった。やっと初めの一歩を踏み出すことができたと教授は思った。

 翌日、教授は久しぶりに森に出掛けた。リズミカルなあのキツツキの音は聞こえなかった。キツツキはどこかに飛んで行ってしまったようだった。きっとどこかの森で同じように木をつついているのだろう。そして少しずつ世界を良い方向に導いているのだろうと教授は思った。

「ギャアギャア」

鳥たちの声が聞こえた。木漏れ日が射し込み、柔らかな光の束が草木を照らしていた。


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