7ー4.飛行船とソマル男爵
「SLは蒸気でタービンを回すから仕組みは難しくはないと思うけど、燃料はどうするの?」
美緒が悠介に聞いた。
「自動車ならガソリンとか軽油はエンジンの燃料になるが、タービンを回す蒸気は水だから豊富にあるだろう」
「その水を蒸気にどうやってするの?」
美緒が悠介が描いている設計図に目を通しながら疑問に思って聞いた。
「あ・・忘れていた。タービンと車両のことにばかり集中していた」
と悠介が気づいた。
「水を蒸気にするための燃料か・・あるかな?」
水を蒸気にするには熱を加えればいい。その沸騰した蒸気でタービンを回し、動力にする仕組みだ。
悠介は、ふと飛行船が頭に浮かんだ。そして
「飛行船はどうやって浮かしたんだ?」
と雅則に聞いた。雅則は
「聞いてない」
とこたえた。
「魔法で浮かしたとか?」
「上位魔法になるぞ。違うだろう」
翌日、雅則と悠介は宮殿に行った。
「ハンスでいい。聞きたいことがある」
雅則が会いに行くと、ハンス侯爵が率先して対応する。直接ランケル国王に会わせない意向のようだ。それはランケルが国王として心もとない部分があるので、傍に務めるハンスが大抵のことは処理している。
「何でしょう」
「飛行船は、どうやって宙に浮かした?」
「空気を温めて風船のように浮かしました」
「気球のような飛ばし方だな」
悠介が子供の頃、気球に乗って空高く上がったことのあったのを思い出した。
「なるほど。・・で、どうやって空気を温めた?」
「機関室のバーナーで空気を温めます」
「バーナーで熱を発生させて、それで空気を温めるのか。どうやって熱を発生させる?」
「詳しい仕組みは私は知りません。貴族の中に博学が居て、彼が編み出したのです」
「その彼に会いたい。名前は?」
「ソマル男爵といいます」
「ソマル? チーズを買いに来て、ひと騒動起こして館にも来た男か」
悠介が思い出したように言った。
ソマルが呼び出されてやってきた。
「あなたは・・」
ソマルも悠介を見て驚いた顔をした。
「改めて紹介する。彼がハーロック伯爵。そして俺が友人の悠介だ」
ソマルを知っている悠介が名乗った。
「それで私に・・」
「きみが飛行船のバーナーを考案したと聞いて、聞きたいと思って」
「飛行船はバーナーを含め私が考案、設計しました」
「実は館に来た時にSLの図面を見せたと思うが、俺もうっかりしていたことがあった。蒸気でタービンを回すんだが、その蒸気をつくる部分を欠落していた。そこで飛行船がどうやって飛ばせるのかを知れば参考になると思ってやってきた」
悠介の話に
「蒸気でタービンを? 私には理解できませんが。それでバーナーのことを聞いたんですか。空気を温めて軽くするために使用しています」
ソマルはそうこたえて
「私もSLの設計図を見せられて、興味が沸いていたのです。私もそのSLの製作に携わらせてもらえないでしょうか」
と悠介に頼んだ。
「もちろん。それはかまわないけど」
ハンスが
「彼は飛行船の開発にも、設計のほうで携わって製造には携わっていません」
と付け加えた。
「工業団地は主に軍にかかわるものを開発、製造していたので、軍の組織が無くなってから、することが無くなっていたんです。ユースケ様にSLとかいうものの図面を見せられて、何だかわからなかったんですが、興味が湧いてきたんです」
ソマルは熱い思いで語った。
「バーナーで火を起こすには石炭が必要です。ワリキュールの西北の山で石炭が採れます。しかし今は無理です」
「どうして?」
「今まで居なかった魔族が現れて、あの地区付近の山々を占領してしまいました」
「それは俺がスラーレンでひと悶着起こしたからかな。しょうがない、魔族と交渉してくるか」
雅則が言うと
「交渉って魔族とか?」
と悠介が、どういうことだ? と聞いた。
「魔族ともうまく付き合っていくということ。ゴラン谷の竜魔族とも仲良くなった。争うより住みやすい世界になる」
雅則と悠介の話に
「本気で言っているんですか? 竜魔族と仲良くなったって・・」
ソマルは信じられないように言った。
「ランケル国王やハンス侯爵は承知しているが、俺はワリキュールに来て魔王ハーロックを名乗らせてもらっている。そしてスラーレン法国に行って、マルケドーラ帝国から救ってきた。その帰りに竜魔族とも仲良くなった。俺はそれだけの力があるということだ」
雅則が言うと、ソマルは最初、信じられない顔をしていたが
「あなた方がチーズを生み出したり、電気の灯りも作り出した噂も耳に入ってきています。そして今度はSL?・・魔王はそういうことも出来るんですか」
と聞いた。
「いや、そういうわけでは・・」
雅則と悠介は目を合わせ
「正体を明かそう。俺たちは異世界から来た」
と明かした。
「異世界から?・・それはどんな世界です? どこにあるんです?」
「ソマルも知らないか。俺たちもこの世界に来て、異世界というものが本当にあるんだと思った」
雅則はソマルとハンスにワリキュールに来るまでのことを話した。
二人はただ驚いていた。
「チーズや電気、SLは俺たちの元の世界では存在するものだ。それをあらためて作り出しているに過ぎない」
「・・わかりました」
ソマルは悠介が人並み以上に強いのは承知していた。しかし雅則が魔王というのは信じていない。どう見ても街に住む平民に見える。その中に魔法を使えたり、力のある者が冒険者などを稼業にしている者が居ることも承知している。
そして悠介と雅則に正体を明かされた。
「で、その鉱山のある場所はワリキュールの領地なのか?」
雅則はハンスに聞いた。
「もともと、この辺りも王族が勝手に領地として開拓してきたのです。なので鉱山の辺りは魔族が棲んでいた地と思われます」
「なら、なおさら話し合いが必要だろう。鉱山に行ってくるか」
雅則が言うとソマルが
「魔族なら退治するか追い払えばいいでしょう」
と言ったので、雅則は頭にカチンときた。
「そうやって人族は魔族やセキュバスを殺して国を広げてきたんだろう。この世界は人族だけじゃなく魔族やいろんな生き物が居る。俺は種別を超えて共存するのがいいと思っている。退治したほうがいいならソマルたちに任せるけど」
と言うとソマルは何も言えなかった。
ハンスが
「携わった者に案内させましょう」
と手配しようとすると
「私が案内します。鉱山には何度か行ったことがあります。魔族は恐ろしいですけど、守ってくれるなら・・」
とソマルが言った。
「保障はしないよ。どんな魔族かわからないし」
雅則は共存するほうがいいと言いながら、ソマルにそう言った。
そして
「馬車はこっちで用意する。ことは秘密裏に進めたい。魔族とどうなるかわからないから」
とハンスに言った。
◇
「というわけで鉱山に行ってくるんだけど、秘密裏に処理したい案件だから、馬車は王宮側からじゃなく、こっちから出すことにした」
夕食後に雅則が話を切り出した。
「またリサに御者を頼むの?」
美緒が雅則に聞いた。リサが
「馬車なら私が御者を務めます」
というと
「毎回、リサばかり使って・・」
と美緒がリサに気遣った。
「私は不満はありません。それに・・私はハーロック様の従者ですから」
「だよね。俺がそうしてしまった」
雅則も後悔しているよいうに言った。
「数日、リサを貸してもらえないかな。リサもチーズつくりが合っているのか新製品を生み出しているのよ。試行錯誤の失敗作から作られるんだけど、スミスやナタリナさんにも評判がいいのよ」
美緒の言葉に
「私は味はわからないので・・」
とリサが言うと
「それに功を奏して新しいチーズが生まれているのよ」
と美緒が嬉しそうに話した。
「リサがチーズつくりがいやでなければいいけど」
「私は楽しいです」
「よし、リサはしばらく美緒のほうを手伝って。コーネリアも預けるから、守りを優先してもらうということで・・」
「わかった。任せて」
「馬車はどうするんだ?」
悠介に言われて
「ラッセルに頼む」
と雅則はこたえた。
雅則はラッセルに頼みに行って
「魔族が出るか知れないから無理には頼まないけど」
と危険かも知れないと忠告した。
「頼んでおいてその言い方か? ハーロックたちと行動すると面白くてな。ワクワク感を覚えるよ。どこでも付き合うぜ」
ラッセルはいい体格をしているが度胸もある男だ。雅則たちも何かあるとラッセルを頼ってしまう。




