5-10.女王プロティナ
「女王様、マルケドーラ帝国に動きがあります」
プロティナは危機感を覚えた。
「近辺の魔物から守る結界が解かれたり、誰が何を企んでいるの?」
いやな情報ばかり入ってくるようになった。
マルケドーラ帝国の動きは、アスター大神官をも驚かせた。
「マルケドーラ帝国がスラーレンに?・・もう少し待って欲しいものを」
アスターはプロティナの居る宮殿に足を運んだ。
「大神官さま」
「マルケドーラが軍をこちらに進めているとか。どうするつもりです?」
「私は力を持って国を守る気はありません。そのために軍は王宮を守るだけに縮小し、街は衛兵隊を組織して巡回をしてもらうだけにしました」
「それはあくまで我が国の内情の問題。マルケドーラ帝国が関与することではありません。マルケドーラ帝国は他国を侵略し、帝国を名乗るほど強大な国になったようです。どうやってマルケドーラ帝国の脅威から国を守るつもりですか?」
「それは・・」
「平和、平和もいいですが、力を持たない国はやがて亡びる運命をたどります」
「マルケドーラ帝国と話し合いをします」
「応じてくれるでしょうか」
アスターはプロティナに見切りをつけている。そしてマーガレットを神殿に呼んだ。
「女王に任せていてはスラーレンはマルケドーラ帝国に乗っ取られてしまう」
「帝国が手を伸ばしてくる前に、シルビアがワリキュールを牛耳って帝国に対抗する予定だったのに・・今となっては悔いても仕方ないわね」
「ここは神の力を借りて対抗策を練りましょう。ポール侯爵を将軍として軍をつくりましょう」
「名案ね。・・神の力って、大神官、あなたでしょう?」
「それはどうにでも。は、は、は」
*****
ミリアが派出所に出勤するとロバートがみんなに
「マルケドーラ帝国がスラーレン法国に攻めてくるかもしれない」
と報告した。
「そこでポール侯爵が将軍として軍隊を設立することになった。衛兵隊は軍に昇格だそうだ」
「なにそれ、戦争を始めるということ?」
ユリカが声をあげた。
「女王は他国との争いを避け、軍を廃止して衛兵隊を組織し、近辺の魔物から街を守ることにしたのよね。どうしてポール侯爵が将軍に?」
「事情が変わった、ということだろう」
「衛兵隊、全部隊でマルケドーラ帝国に対抗出来るの?」
「マルケドーラ帝国の軍勢がどのくらいかわからないから何とも言えない。また神官が国民に兵役を促すそうだ」
ミリアは家に戻ると雅則に報告した。
「マルケドーラ帝国が?・・スラーレンが意外に穏やかなのに驚いていたが」
「私もどうしたらいいかわからなくて、ハーロック様に知らせておこうと思って」
「とりあえずは様子を見るしかないか」
雅則はミリアの家に居候しているが、ミリアの怪我も回復し、スラーレンの不穏な気配も感じられないので、そろそろワリキュールに戻ろうかと考え始めていたところだった。
ミシェールがやってきて
「女王が大神官に幽閉された」
と言った。
「宮殿内の変なことを耳にしたので探ってみたんだけど、軍を設立したのは女王じゃなくて、大神官と女王の叔母のマーガレットらしい。将軍になったポール侯爵はマーガレットの息子、つまり大神官とマーガレットが今回の筋を考えたらしい」
「よく調べたな。ミシェールもやるときはやるな」
「でも私たちで何が出来るの?」
「戦争は回避したいよね。乗りかかった船だ。宮殿に足を運んでみるか」
◇
雅則はミシェールから宮殿内の行き方を聞いて入っていった。
「女王が幽閉されているのはこっちか?」
足を進めていくと
「不審者発見。何処へいく」
と警備兵に止められた。
「女王のところに案内しろ」
「ここから通さない。捕らえろ」
雅則は近づく警備兵たちの脳を刺激して倒した。
別の建物に結界が張られている。
「魔物のための結界とは違うようだな。あの中に女王が居るのか」
男が忽然と現れた。
「何者だ。魔術師か」
「お前もただの警備兵とは違うな。服装からして貴族か何かか」
それはアスター大神官だったが、雅則はまだ面識がなかった。
「建物は結界が張られている。入ることは出来ない」
「試してみるさ。結界突破」
雅則はエランデルで魔王グランデルに会いに行く時、セバスが結界に穴を開けて入っていったのを思い出して試してみた。
手を突き出すと、目の前の空間が歪み、結界の効力がそこだけ無効になった。
「何でもやってみるものだ」
雅則は結界に囲まれた空間に入っていった。
「ばかな。上位魔術師でなければ結界を通過できない」
アスターは雅則の力に驚いていた。
雅則が建物の中に入っていくと女が居た。女は
「結界を破って入ってきたのはどなた?」
と雅則に聞いた。
「女王に会いにきました」
「女王は私、プロティナです」
「私はエランデル国から来た伯爵のハーロックです」
雅則も名乗ると
「エランデル? 申し訳ないけど、存じない国です」
とプロティナはこたえた。
「え? そんなものなんだ」
雅則は意外に思った。
「エランデル国はワリキュールの王族がワリキュールを出て開拓した国と聞いています。そして私は、そのエランデル国で伯爵の爵位をもらったのです」
「そう。ワリキュールは我が妹のシルビアが嫁いで行った国なので、名前は知っています。でも、エランデルまでは知りません。その伯爵が、どうしてここへ?」
「今はスラーレンの街で過ごさせてもらっています。女王が幽閉されていると聞いて確かめにきました」
「そうですか。確かに幽閉されています。・・伯爵は魔術師なのですか?」
「まあそうでもありますね」
プロティナは冷静に見えるが、それとも何も知らないただのうつけか。貴族らしいプライドは感じられた。雅則の嫌いなタイプの一つだ。
「確かめてどうするつもりです?」
プロティナが質問した。
「マルケドーラ帝国がスラーレン法国に進攻してきて、衛兵隊を軍に昇格するとか、街はてんやわんやです」
雅則は知りえた情報をかいつまんでプロティナに伝えた。
「国民には迷惑をかけています。でも、衛兵隊を軍に昇格する件は、私の意ではありません」
「でしょうね。女王は幽閉されている身ですから。女王としてはどうしたいですか?」
「マルケドーラ帝国については話し合いを申し込むつもりでいました」
「なるほどね。でも、マルケドーラ帝国は他国を侵略してきたと聞いています。話し合いに応じるか・・」
「でも戦争は避けなければなりません。争いごとは出来るだけ避けないと」
「女王の人柄はわかりました。で、大神官と叔母はどうします?」
「二人の陰謀は阻止しなければなりません。でも私には力がありません」
「幽閉されるくらいですからね。この先スラーレンがどうなっても責任はとりませんが、女王が望むなら力になります」
「それはありがたいですが、大神官は上位の魔術師。彼に適う者はきっといないでしょう」
「レベルはどのくらいです?」
「大魔獣を倒せるレベルだと自負しているようです。ここの結界を張ったのも彼です」
「なら倒せるかも。ではここから出ましょうか」
雅則は余裕を見せながらプロティナに言った。




