1-5.新たな魔獣とカニール
いよいよ異世界に転移します。
ルセールとナナは悠介が面倒をみることにした。
「で、二人はどうしてる?」
と雅則が聞くと
「路地裏で占い師をしてもらっている。魔法が使えるなら占いくらい出来るだろう」
と悠介がこたえた。
「衣装をどうするか迷ったが、コスプレも流行っているし、異世界の雰囲気でやっても
おかしくないだろうと、そのままの衣装ではじめてもらった」
「似合うかも。・・で、占いは当たるのか?」
「面白いほど外れている」
「魔術師と占い師はやはり違うか」
「でも、けっこう評判で商売にはなっているようだ」
「マジ?・・やっぱりナナちゃんは美人だし、可愛いし・・」
「雅もやっぱり俺と同類だな」
「否定はしない。ただ面倒だからいあっまでも異性と交際する気がなかった」
「それが意外にルセールのほうが人気がある」
「嘘だろう。熟女のほうが?」
「今はアイドルも氷河期らしいからな。それにルセールのほうが口が上手いし。ところで
彼女にはいつ会える?」
「誰?」
「誰って、雅の彼女だよ。美緒とか言う・・」
「ああ、そうだった。そういえばしばらく見てない」
「何処に住んでいるか知っているんだろう?」
「実家は知っているけど、今住んでいるところはわからないな」
「え?」
そこに
「雅則くん」
と美緒が現れた。
「噂をすれば、ほら彼女のほうから現れた」
「してないだろうまだ。・・綺麗だ」
悠介は美緒を見て一目惚れした。
「だれ? お友達?」
「うん」
「は、はじめまして。倉田悠介と言います」
悠介はいきなり緊張した。マジ・・こんな美人が幼馴染とは・・。
「神崎美緒です。よろしく」
美緒も悠介に挨拶した。
三人でいつものコーヒーショップへ。悠介と美緒は早くも打ち解けたように会話を
している。その対応力には雅則も舌を巻いた。
「で、その占い。当たらないのに人気があるらしい」
「面白そう。私も占ってもらいたい」
「行こう。案内する」
雅則が
「で、どっちからにするんだ? 熟女と若い娘の・・名前、何だったかな?」
と悠介に聞いた。
「覚えてやれよ。彼女、ナナちゃんは雅に助けられて惚れたみたいだぞ」
「うそ」
「美緒ちゃんはルセールのほうに連れて行くから」
悠介は美緒をルセールのところに連れていった。確かに、ルセールのところは客が
並んでいた。
「繁盛してるね」
「こっちの世界も楽しい。戻れなくてもいいわ」
「あ、そう。・・彼女を見てほしいんだけど」
「じゃあ座って」
ルセールは美緒を前に座らせて
「何を見てほしいの?」
「そうね。恋愛。今、大学生なんですけど、恋愛運はあるでしょうか?」
ルセールは水晶玉に手をかざして
「当分無理」
と美緒に言った。
「ええ!それはないだろう。俺の存在は?」
悠介が声をあげた。
「ん?なにこの色は・・」
ルセールが何かに驚いた顔をした。
「どうした」
「彼女。水晶に手をかざして」
美緒はルセールに言われた通り、水晶玉に手をかざした。すると・・
水晶玉の中が曇り出した。
「濁りはじめた?」
「違う。何かが現れる」
水晶玉の中に見え始めたのは怪獣?
「召喚獣だ」
「召喚獣?」
「彼女は召喚魔術師なのか?」
「そんなわけないだろう。こっちの世界にじゃそんな者はいない。まさか美緒ちゃんも
超能力者なのか?」
「そんなわけないでしょう。私は普通の人間よ」
ルセールの
「見たことのない魔獣だ」
の言葉に水晶を覗くと
「え?・・ゴジラ?」
悠介は水晶玉の中に現れた怪獣みたいなものを見てそう思った。
「ゴジラ? この世界の召喚獣か?」
「違う。この世界には召喚獣などいない。ゴジラは映画を作る際に作り出した架空の
怪獣だ」
「私もゴジラの映画は知っているけど・・」
外で人々が騒ぎ出した。いきなり空が曇りはじめ異様な雰囲気になった。
「魔獣が現れる」
ルセールがそう予感した。すると空間が歪みはじめ魔獣の顔が現れた。
「また出てくるのか?」
悠介が驚いているとルセールが
「彼女。召喚獣を出して」
と美緒に言った。
「え? 無理よ」
一方、雅則はナナのほうに並んでいた。
「けっこう人気あるじゃない」
「まさか、こっちではこういうお仕事もあるとは思っていませんでした。何を占います?」
「いや占いはいいよ。そういうものは信じないから。それよりナナちゃんの世界のことを
知りたい」
「私はこっちの世界のほうが好きかも。文明は発達しているし、美味しいものはあるし。
自動車には気をつけてって悠介さんに言われているけれど」
「便利だけど、けっこう危ない乗り物だからな」
「魔法でも適わないかも」
「それはどうかわからないけど。じゃあデートしようか」
「デートってなんですか?」:
「え、知らない? 男と女がいちゃいちゃすること」
雅則は適当なことを言った。
「そんな不謹慎なことはしたことがありません」
「それは分かるんだ」
「こっちの世界では、それが普通なんですか?」
「人によっては・・」
空が急に曇りだした。
「魔動を感じます」
「魔動?」
「この大きな魔動は大魔獣かも」
「また魔獣が出るって?」
上空の空間が歪んで魔獣が顔を出した。街はまたパニックになった。
雅則とナナは近くのルセールのところに急いだ。
魔獣は空間を広げて出てこようとしていた。
ルセールは美緒に
「早く召喚獣を出して」
とせかした。
「出せないし、知らないわよ。召喚獣って何?」
「俺じゃ魔獣を倒せないし・・」
魔獣をみていた悠介は、魔獣の肩辺りに人のようなものを見た。
「まさか、彼がもう・・」
それは雅則ではなかった。魔獣から飛び降りるように向かってくると
「ルセール。ここに居たか。勇者を見つけたのか」
とルセールに言った。
「勇者? 何それ。次から次にいろいろ現れるな」
悠介が下りてきた男に言った。
「おまえがこの世界の勇者か。武具はどうした」
「武具? お前が持っているのは剣か。こっちの世界では武器は持っては駄目なんだ。
それに俺は勇者でも何でもない」
「ただの平民? ルセール、勇者を見つけに来たんじゃないのか?」
「こっちには居ないようだ」
男は周りを見て
「・・ところでこの世界は何だ」
「知るか! お前こそ何者だ」
「俺は魔獣士、カニールだ。魔獣を従えるだけでなく、自らの力でソードマスターに
なるべく剣の腕も磨いている。・・綺麗な女性だ」
「え?」
自己紹介したカニールは、美緒を見て目が輝き出した。
「美緒ちゃんに手を出すな!」
悠介が美緒をかばうように自分の後ろにした。
「この世界に来たついでに彼女をもらっていく」
「そうはさせるか」
「平民は邪魔をするな」
カニールは剣を抜くと悠介にかざした。
「俺を甘く見るなよ」
悠介は回し蹴りでカニールの剣をはじきとばした。
「なんだ今の技は?」
「空手を知らないのか」
「この世界の勇者か」
「知るか」
「なら魔力を使う」
カニールが手をかざすと悠介は飛ばされた。
「悠介さん!」
美緒は驚いて叫んだ。
「覗いてないで早くこっちの世界に来い!」
カニールは魔獣に叫んだ。しかし魔獣は空間を広げられずに、あきらめて消えた。
「え? 戻っちゃった?」
カニールは驚いて唖然とした。
「魔獣は召喚出来なかったようだな」
悠介が起き上がってカニールに言うと
「仕方がない。俺も戻るか」
と言った。が・・
「彼女をもらっていく」
と魔法陣を出して、美緒を引き込み魔法陣とともに消えた。
「え?・・どこに行った?」
唖然とする悠介にルセールが
「エランデルに戻ったようだ」
と言った。
「それはいいけど・・美緒ちゃんを連れて行かれた!」
そこに雅則とナナがやってきた。
「美緒ちゃんが連れていかれた」
「え?」
「カニールとかいう魔獣士にエランデルに連れていかれた」