4-11.オーグの再来
夕方、雅則たちの馬車はワリキュールに着いた。
「リサ、冒険者協会に直行して」
「はい」
協会に着くと、雅則は協会に急ぎ入った。
「ハーロックさん」
ソリアが雅則を見つけて駆け寄った。
「魔物が襲ってきていると聞いたけど、無事なようだね」
「悠介さんたち冒険者の人たちが守ってくれているので」
「ひとまず安心した」
雅則はリサとコーネリアと館に戻った。
「戻ってきたか」
悠介が出迎えた。
「街を守ってくれているようだね」
「何とかな」
館に見慣れない女が・・。
「セキュバスか?」
雅則は悠介に聞いた。
「彼女に失礼だ。紹介するよ。スラーレンから来た結界魔法士のナターシャだ」
雅則もナターシャについて話を聞いた。
「じゃあ、彼女が居れば魔物は街に近づけないということか?」
「そういうことになるかな。ナターシャを館に住まわせてもいいだろう?」
「もちろん。かまわないけど」
「よろしくお願いします」
ナターシャは雅則に深々と会釈した。
「じゃあ、俺が戻ってこなくてもよかったか」
「トンボ帰りになったようだからな」
「温泉に入りそびれた」
「どうせ混浴は出来ないんだろう?」
雅則は思い出してナターシャに聞いた。
「スラーレンの者はセキュバスをどう思っている?」
「セキュバス?・・さあ、私はセキュバスが何かも知りませんけど」
「そう」
ナターシャはスラーレン出身というだけで、何も知らないようだった。
「一緒に住むなら、コーネリアやリサたちをナターシャに知っておいてもらった
ほうがいいと思うけど」
雅則が言うと
「そうだな。いつまでも隠しておくわけにもいかないだろう」
と悠介も同意した。
雅則が、コーネリアとリサ、イビルがセキュバスや魔族であることをナターシャ
に話した。ナターシャは
「わかりました。ここだけの秘密ということですね」
と納得してくれた。
美緒もアリスたちと牧場から戻ってきて
「また女性が増えている」
と言った。
「ナターシャです。よろしくお願いします」
美緒もナターシャについて悠介から聞いた。
「よろしくね。でも、だんだん人が増えて行くわね」
「まだ館は余裕だろう」
「増えるのはいいけど、夜のドンチャン騒ぎは禁止よ」
美緒が悠介に言った。
「なにそれ」
雅則が聞くと
「悠介さんがセキュバスのお姉さんたちと遅くまで飲んでてさぁ。イビルもお酒が
好きで一緒に騒いじゃって」
と美緒が困ったような顔で言った。
「そうなるだろうなぁとは思っていたけど」
「館でお酒が飲めないなら、人族を食べてきていい?」
イビルが雅則に聞いた。
「悪いやつにしとけよ」
「ここはモンスターハウスか」
悠介がいつものように突っ込みを入れた。
「馬車で2日も揺られていたから疲れた。コーネリア、一緒にお風呂に入ろう」
「はい」
雅則が言うとコーネリアは嬉しそうに返事した。
「一緒って、コーネリアは女の子だろう?」
悠介に聞かれ
「兄妹だから」
「兄妹だってまずくないか?・・俺も姉ちゃんと入ったことあるけど」
「大学生になっても?」
「小学生までだ。いや、中学生になってからも入ったかな」
「思い出さなくていいから」
美緒が話を切り替えて
「ナターシャは料理出来る?」
と聞いた。
「いえ、あまり作ったことはありません。得意なのは魔法だけです」
「そう。住人が増えるのはいいけど家事の出来ない人ばかりね」
◇
翌朝、悠介はナターシャをチーズの店『マキバ』に連れて行った。
「スレーン、ナターシャにも今日からここで働いてもらおうと思って」
ナターシャは悠介からスレーンが冒険者で、『マキバ』の店長をしてもらって
いることを聞いていて
「よろしくお願いします」
とスレーンに会釈した。
「よろしく。・・でもどうして結界魔法士が?」
「彼女に結界を張ってもらって街を魔物から守ってもらうことになったんだけど、
館に居るだけじゃ何だから、ここで働いてもらおうと思って」
「セキュバスといい、彼女といい、本気で冒険者を辞めちゃおうかな」
スレーンはそれを真面目に考えるようになった。
雅則、リサ、コーネリアは、エランデルから帰ってきたばかりなので館で休む
ことにした。
リサの代わりに美緒を牧場に送っていったイビルが戻って来て
「また牧場の近くにオーグが現れたわ」
と雅則に言った。
「前と同じようなオーグなら美緒ちゃんでも倒せると思うけど」
雅則が腰を上げようとすると、悠介が
「オーグも魔物だろう? ワリキュールには結界が張られているから近づけない
はずだが。ナターシャに聞いてくる」
と『マキバ』に行ってナターシャに聞いた。すると
「街には結界を張っているので、魔物は侵入出来ませんが、牧場のほうまでは
結界が張れません」
と答えた。
館に戻った悠介から聞いた雅則が
「しょうがない。退治してくるか」
と重い腰を上げるように言うと
「俺が行く。館に居ても体がなまっちゃうからな」
と悠介が言った。
「セキュバス相手も飽きてきたか」
「それはまだ飽きていない」
悠介はイビルとスミス牧場に向かった。
「悠介さんたちに任せて大丈夫ですか?」
リサが心配するように聞いた。
「牧場には美緒ちゃんも居るし大丈夫だろう」
悠介とイビルが牧場に行くと、美緒とスミスが貯水池の近くでオーグを警戒して
いた。
「来てくれましたか。美緒さんでも(オーグを)倒せると言ってましたけど」
「え、美緒ちゃんが一人で?・・美緒ちゃんに倒されたら、ますます尻に敷かれ
ない。オーグはどこです?」
「貯水池の対面の山です」
「イビル、退治してこよう」
悠介が言うと
「山ごと燃やすのは駄目?」
とイビルに聞かれた。
「それはやめてほしい」
「私も行こうか?」
美緒も行こうとするので
「美緒ちゃんは、オーグがこっちに現れたら倒してくれればいい」
と悠介が頼んだ。
「わかった」
悠介とイビルは貯水池の周りを回るようにして山に入った。するとオーグが
現れた。
「え? 何匹居るんだ?」
「前に来たときは10匹くらいだったけど」
「そんなものじゃないだろう」
悠介は指を指しながら数えていって
「30、いや40、・・50は居るぞ。ガトリンガーでも全部倒すには時間が
かかる」
「やっぱり山ごと燃やしていい?」
そう聞いたイビルに
「山火事は起こすな!」
と悠介は言った。
オーグたちは悠介とイビルに向かって襲ってきた。
「金星魔法を使うか。マジックビーム」
悠介の手から放たれた光線がオーグの身体を貫いた。
イビルも
「ファイヤーアロー(炎の矢)」
を放った。
イビルの攻撃魔法は火星魔法だ。だが強力な火炎魔法を
使うと山火事を起こしかねない。地道に1匹ずつ倒していかなければならない。
「駄目だ。何匹かは反対側から牧場に向かっている」
そこには美緒が待ち構えていた。
「たまには私も活躍しないとね。セイントソード(聖剣)!」
美緒の手に聖剣が現れた。
「どのくらいのパワーが出せるか、試してみるわ」
美緒が聖剣を横に振ると、まだ間合いの遠いオーグの身体を上下二つに切り裂い
た。
「うそお、凄い切れ味」
聖剣を振った美緒自身も驚いたが、スミスも美緒の強さに驚いた。
「美緒さんはソードマスターだったんですか?」
「忘れていた。剣道で鍛えた腕がなるわ」
美緒はオーグに向かっていって、体を切り裂いていった。
悠介は苦労していた。
「1匹1匹倒していたんでは面倒だな。マジックライフは減っている気はしないけど」
そう思っていると、何かが頭の中に降りてくる気がした。
「力が使われてないって?・・俺の力はこんなものじゃないっていうのか?・・使
いたいこと、したいことを思えって?・・」
悠介は残っているオーグをあらためて数えなおした。
「あと20匹くらいか。けっこう頑張って倒したからな。まとめて倒せないかな」
頭の中で思考回路が歯車をまわしはじめた。
「サイコパワーが使える?・・わかった、やってみる」
悠介はオーグを目視しながら
「ゴールディテクト。マークポイント」
近づくオーグを目標としてとらえた。
「サイコパワーシュート」
悠介の腕から発せられたサイコエネルギーがオーグたちに向かって行って身体を
貫いていった。
「すげぇ、我ながら驚く」
サイコエネルギーは意思を持ったかのように自由に飛び回り、オーグたちを倒し
ていく。
「何よ、その力」
イビルも驚いていた。
「イビル、残りのオーグは任せた」
「帰ったら人族を2,3匹食べていい?」
「2,3匹って、悪さをしているやつならいいぞ。街のためにもなるからな」
「元気が出てきた。任せて」
その夜。
悠介は牧場でオーグを倒した話を、館の住人たちに聞かせようとしたが、美緒が
武勇伝を語りはじめた。
悠介は
「俺たちのほうが活躍したはずだが・・」
とイビルと頷きあった。
聞いていたナターシャが
「人族は、本来持っている力の半分も使っていないらしいです。だから力を発揮
出来るものが世界を支配できると聞いたことがあります」
と話した。
「力の使い方によって世界は変わるってことかな」
ソリアが
「あのう。あなた方は何者なんですか?」
と、ずっと不思議に思っていた。
「さあ、異世界から来た、としか今はこたえられないけど」
「それに、魔族とかセキュバスとか・・」
「みんな仲良くくらせば、いい社会になるんじゃないの?」
雅則がそう言うと
「そうだけど。ほんとうに簡単にまとめるわね」
と美緒があきれるように言った。
「ずぼらだから」
「ところでこの先、どうするんだ? ずっとここで暮らすのか?」
悠介に言われて雅則は
「どうしよう」
と迷っていた。
「エランデルもよかったが、ここも気に入ってしまったしな。館の暮らしも
悪くない」
雅則も悠介も美緒もワリキュール王国での暮らしに満足していた。




