4-1.ワリキュールの日常
自治会長のベルトンについて加筆しました。
雅則たちと街の住民たちの関係を描くのに、重要人物のひとりでもあるので。
大学で知り合った雅則、悠介、美緒の三人は、異変の後、現れたルセールやナナの異世界に転移する。転移した世界は、電気もなく、交通手段は馬車というのどかな世界で、人族以外に魔族や魔獣などいろんな生き物が存在していた。
元の世界にすぐ戻れない雅則たちは、エランデル国の飯店『ハナ』で過ごすことになり、三人はそのエランデル国で魔力検査を受けて、いろいろな魔法が使え、悠介と美緒はレベル500、雅則はレベル1000と言われる。
ワリキュール王国に行った雅則は、牧場の近くに現れたオーグを倒し、オーナーのスミスから郊外の大きな館を譲り受ける。
あとからやってきた美緒が牧場でチーズをつくり、スミスたちに驚かれる。
◇
「スミスさん、これで新たな商売を始めるのはどうですか?」
「牛乳と一緒に始めてみるか」
美緒の提案にスミスものってくれた。
「料理も含めて家事が苦手な美緒ちゃんがチーズつくり?」
「確かに料理は家でも作ったことがないけど、家事が苦手は言い過ぎじゃない?」
「じゃあ、掃除、洗濯はしていたんだ」
「それも苦手」
「他に家事って何だ」
悠介が突っ込む。悠介と美緒が居ると楽しいと雅則は思った。
「チーズは牧場に見学に行ったときに、牛の乳搾りとかチーズつくりとか体験して興味を持ったのよ」
「話をすり替えている」
「チーズも販売するとなると、それなりの数を作らないとね」
スミス婦人のナタリナもチーズの製造・販売に前向きだった。
「それには製造する建物と道具も揃えなければ・・」
「主人と相談してみるわ」
話はトントンと進み、牧場の一角の小屋を改装して、そこでチーズをつくることになった。
美緒はチーズを持ち帰り、ソリアにも試食してもらった。
「美味しい。こんなものも出来るんですね」
とソリアも美緒を褒めた。
「雅則くん、チーズつくりにコーネリアを借りていい? コーネリアも作りたがっているし、牧場の送り迎えはリサにお願いしたいの」
「コーネリアも楽しそうだし、美緒なら預けて安心だろう」
雅則は守ると約束したコーネリアを、美緒には安心して預けた。
美緒はコーネリアとリサにも手伝ってもらってスミス牧場でチーズつくりをはじめた。
「美緒ちゃんもエランデルに戻る気はなくなったようだ」
そういう悠介に雅則は
「悠介は?」
と聞いた。
「エランデルのナルーシャも悪くないが、ワリキュールのソリアやナディも悪くないからな」
そう言いながら、悠介もエランデルに戻る気はない。
◇
雅則と悠介は美緒から
「あなたたちも何か仕事を見つけたら?」
と言われていた。
「冒険者の仕事があるか、協会に行ってくるか」
「目的は仕事よりソリアだろう?」
「ソリアもいいけど、ナディも悪くないなぁ。雰囲気がお姉ちゃんに似ているところがある」
「どっちから先に振られるかなぁ」
「それを楽しんでいるのか?」
雅則と悠介が戯れていると
「コントはいいから。チーズは売れそうだから、お店を出して店長でもやったら?」
と美緒に言われた。
◇
ワリキュールの冒険者協会に足を運んだ悠介は、ソリアに声をかけた。
「本当にこの街は冒険者として仕事がないね。報酬の高い依頼はないんだ」
「街は大きいけど、エランデル国のような山の麓でもないから。昔は魔物が街の中にもやってきたこともあるけど、前国王が妃を迎えてから街に現れなくなったの」
「ふうん。・・異世界と言えば冒険者。そしてダンジョン攻略。近くにダンジョンはないの?」
「ダンジョンって何ですか?」
「ダンジョンを知らない世界か」
「稼ぐならゴラン谷にいる竜魔族を倒してくると、高い報酬がもらえるわよ。今まで狩りに行って戻ってきた冒険者はいないけど。悠介さんもオーグを倒せるんでしょう?」
「竜魔族とオーグとどっちが強い?」
「私はわかりません」
それで竜魔族を倒してこいって?
「冒険者として生活するより、美緒ちゃんたちがつくるチーズを売る店でもはじめるかな。お店のバイトは経験あるし」
「バイト?」
「いや、こっちのこと」
「それより、いきなりなんだけど国王が代わったって」
「え?」
「今までの国王や妃は亡くなったので、新しい国王が貴族から選ばれたんですって」
「あんまり関心がなさそうに思えるけど」
「それは・・貴族たちのやることに街は関わらせてもらえなかったから。街は街で自治会をつくって社会をつくってきたの」
「そうなんだ」
「あんなに大勢の軍が出て行って戻ってこないのも不思議だけど、何も聞かされてないし」
雅則がシルビア妃を倒し、エランデル国に進攻した4万の兵軍と飛行船団を3人で全滅させた経緯があった。それはソリアにも教えていない。
そして悠介は話題を切り替えるように
「新しくお店を開店させるにはどうしたらいいかな。チーズのお店」
とソリアに相談した。
「それなら『なんでも屋』に相談してみて。大抵は相談にのってくれるから」
「わかった」
悠介は『なんでも屋』と聞いて妙に心がときめいた。ナディが居る店だ。
◇
「こんにちわ。ナディ」
「あら、悠介さん。また観光の依頼ですか?」
「いえ、今日は別の件で。今度つくりはじめたチーズのことで」
「ああ、チーズですか。私も今まで食べたことの無いもので、とても美味しかったです」
悠介が街の観光案内など世話になったお礼に、ナディにチーズを持って行ったたことがあった。もちろん下心ありきでだ。その時、ナディから「呼び捨てでいい」と言われていた。
悠介はナディに相談にのってもらうために美緒からチーズをもらい『なんでも屋』を訪ねた。
「また新しいチーズを持ってきたんだけど。よかったら食べて。・・そこで、こういうチーズを街で売れないかと思って、その相談に・・」
「そうしたら私も嬉しいわ。お任せください」
ナディの笑顔に悠介はますます惹かれていった。
「お店を出せたらと、いい物件があったら、それも教えて欲しいんだけど」
「わかりました。それも探しておきます。郊外の館に住んでいるんですよ
ね。あそこは霊が出るとかでスミスさんも手放した館とか」
ナディが思い出したように聞いた。
「その霊なら、雅、いやハーロックが倒したらしい。だから、そこに一緒に住んでいるんだ」
「ハーロックさんは、そんなに強いんだ」
「俺も強いけど・・よかったら館に来ない? チーズも用意しておくから」
「嬉しい。是非伺います」
悠介は恋人が出来たような錯覚を覚えた。いや、錯覚で終わらせたくない。エランデルのナルーシャも冒険者協会のソリアも悪くないけど、ナディに惹かれるものを感じた。
◇
ナディは、悠介が持ってきたチーズを持って自治会長のベルトンを訪ねた。
「ナディか。また何か相談事か?」
「今日はチーズを持ってきました」
ナディはテーブルの上に、持ってきたチーズを出した。ベルトンも見たことの無いものだった。
「食べ物なのか」
「牛乳から作ったものらしいです。私も食してみましたが、美味しいです」
ベルトンもナディが持ってきたチーズを口にして
「不味くはないが・・牛乳から作ったということは、スミスのところで作ったものか」
「はい。でも作ったのはスミスさんたちではありません。エランデルから来た人です」
「牛乳も、スミスが他所から教わって連れてきた牛から作っているようだが、エランデル国では、このようなものを作り出しているのか」
「いえ。エランデル国は山に近いこともあるので、周りには魔獣やまものがワリキュールより多く生息していて、牛というものも飼っていないそうです。でもエランデル国から来た人が知識があるようで、牛乳からチーズを作ったらしいです」
自分の国では作れないものをつくれる知識がある?・・それにスミス牧場でつくった?・・ベルトンはナディが騙されているのではないかと疑うところだった。だがナディはしっかりした娘だ。
「そのエランデルから来たというのは・・」
「5人だったかな。上位魔術師も居るようで、牧場に現れたオーグを倒して、スムスさんから郊外の館をもらったそうです」
「あの館はスミスが霊が出るとかで手放したと聞いている」
「彼らは強いようですから。それに悪い人たちには見えません。そこで、こういうチーズを販売するお店を街に出したいそうです」
「その相談か。・・まあ、いいだろう。これに対抗する食べものはなさそうだし」
「じゃあ、お店のほうは私が適当なところを探しますね」
ナディが帰るとベルトンは
「やっかいなことにならなければいいが」
と、使いに頼んでラッセルを屋敷に呼んだ。
「エランデルから来たらしい者たちを知っているか。スミスの牧場に現れたオーグを倒して館をもらったらしいが」
「ハーロックたちのことだろう。ワリキュールに来た時に、俺が街を案内してやったが」
「どんなやつらだ」
「悪いやつらではなさぞうだ。それに確かにオーグを倒せる力を持っている。詳しい素性はわかってないが、ソリアも推している連通だ。街の世話役としては気になるのか?」
「いや・・ラッセルも知っているなら心配ないだろう」




