2-10.謎の女・リンメイ
「部屋は空いてますか?」
女が飯店『ハナ』に現れた。
「ええ。お客さんが出て、まだ掃除してない部屋しか空いてないんですが」
ユリがこたえると
「では、街を散策してきます」
女は宿泊の受付をした。名前はリンメイ。旅人と記載した。
「街はワリキュールより小さいが、活気がある」
リンメイは街を散策していてギルド協会を見つけた。
「冒険者協会・・じゃないのか」
中に入ると住民らしからぬ衣装を身につけた者が多く居た。傍にいる男に
「冒険者登録はここで出来るんですか?」
と聞いた。
「冒険者?・・ああ、ハンターね。ここだよ。奥にカウンターがある」
リンメイは奥の受付に足をすすめた。
「いらっしゃい。ハンター登録をご希望ですか?」
受付を担当していたエリーナが、見慣れぬリンメイに声をかけた。
「お願いしたい」
「では申請書に必要事項を記入してください。記入はこちらで代行出来ますが」
リンメイは申請書を見て
「自分で記入出来ます」
とこたえた。
リンメイもエランデル国がワリキュール王国の王族がつくった国であること
を聞いて知っている。そして通貨も同じことを。
申請書の文字もワリキュールと同じであることを確認した。
「申請が終わりましたら登録料を納めていたただいて、初回の講習を受けて
頂き、魔力検査をします。ランク付けが終わりましたら登録完了となります」
「魔力検査?」
「はい。ハンターを希望する人のレベルと魔法色素をみます。それでランク
付けを行います」
「ふうん」
リンメイは申請書を見直して
「旅人はハンターになれないの?」
と聞いた。
「住所不定の人はなれません。旅人であれば、宿を住所にしてもいいです」
リンメイは住所を飯店『ハナ』にして申請書を出した。
「では、初回講習を行った後、魔力検査になります」
講習を受けたリンメイは2階に案内された。そこにナルーシャが居た。
ただ、お互い自己紹介はしていないので、名前はまだ知らない。
「はじめてハンターになる方ですね。レベルをみるのでまずは、この
定盤石に手をかざしてもらえますか?」
リンメイが定盤石に手をかざすと火花が散り始めた。驚いたが熱くも
何ともない。ナルーシャが
「80ですね。下して結構です」
と言った。そして申請書を見た。
名前はリンメイ。住所は飯店『ハナ』・・旅人かしら。そう思いながら
「では次に、こちらの水晶玉に手をかざしてください」
とリンメイに言った。
リンメイが水晶玉に手をかざすと、水晶玉が光を放ちはじめた。そして
水晶の中が色で染まりはじめた。
「結構です。火星魔法が使えるようですね。・・検査が終わりましたので
Sクラスのハンター登録が出来ますが、登録しますか?」
「いきなりSクラスですか? 下から上がっていくものではないんですか?」
リンメイの質問に
「講習でお聞きになったと思いますが、魔力検査のレベルでクラスは決まり
ます。力のある者は、はじめからそのクラスになります」
とナルーシャはこたえた。
「そうですか。それと火星魔法とは?」
「炎に特化した魔法です」
確かにリンメイは炎を使う魔法に長けていた。そういうこともわかるんだ
と感心した。
「・・では登録をお願いします」
「はい。プレートは明日にもお渡し出来ますから、またおこし願えますか?」
「はい」
リンメイはギルド協会でハンターの申請を終えると『ハナ』に戻った。
「お部屋の掃除は終わしておきました」
飯店の娘、ユリに言われ2階に上がろうとすると
「今日泊まる旅人さんか。部屋は俺が案内するよ」
と男が現れてリンメイに声をかけた。
「俺はユースケ。俺もこの街に来たばかりだけど、よかったら街を案内するよ」
「私は・・リンメイ」
リンメイも自己紹介すると
「そう。よろしく。ああ、君の部屋はこの奥だね。遠慮しないで声をかけてくれ
ていいからね」
男は親切に言ってくれたが、素直に喜べない。ワリキュールからエランデル国
に来るとき、エランデル国に行くというハウトという男の馬車に乗せてもらった
が、乱暴されかかった。リンメイからすれば倒すにたわいない男だったが、その
件もあり、「男は信用できない」と思っている。
ただ男(悠介)は、部屋まで押しかけてこようとはしない。ちょっとおかしい
とは思ったが、悪い男には見えなかった。
部屋に入ると浴槽に湯を満たし、旅の疲れをとるように長湯をした。お風呂が
好きなわけではない。ワリキュール王国からやってきたばかりで、少々疲れも
溜まっていた。
そして湯に浸かりながら今までのことを思い出していた。
*****
スラーレン法国で育ったリンメイは、幼いころから魔法や格闘術を磨いてきた。
スラーレン法国の御三家のひとつ、エクレール家のシルビアがワリキュール王
国のリステル国王に嫁ぐときに、リンメイはその腕を買われシルビアの従者とし
てワリキュール王国に渡ってきた。
リステルは王族の親族が切り開いたイミナス国やエランデル国を手に入れよう
と思っていたが、イミナス国がエランデル国に敗れたという噂を聞いて、1万
の軍を進攻させた。
ところが・・
「飛行船団と1万の軍が全滅?・・どんな魔法を使ったんだ」
と意外な報告に驚いていた。
「(エランデル国には)上位魔法を使える者が居るようね」
シルビアがリステルに言った。
「力だけで攻めるのは脳がないか?」
「リステル様は賢いと思いますよ」
シルビアはリステルに皮肉めいて言った。
「1万人を全滅させるヤツだ。どんな魔法で対抗する?」
「相手を倒すには、まず相手を知ること。イミナス軍を全滅させた魔術師がエラ
ンデル国に居る可能性が高いと思われます。エランデル国に潜入させて情報を
得ましょう」
「そういうまだるっこしいのは好きじゃないんだが」
「せいては事を仕損じる。少々のご辛抱を」
リンメイはシルビアから
「エランデル国に行って調べてきてほしいの」
とエランデル国に上位魔術師が居るかの調査を命じられ、エランデル国に
やってきた。
*****
リンメイの魔力検査したナルーシャは、リンメイが帰ると
「Sクラスのプレートをとっておいてよかったわ。・・でも何者かしら」
ナルーシャは不安を覚えた。
「『ハナ』ならハーロック様たちが使っている宿・・」
ナルーシャは使いを頼んで『ハナ』に行ってもらった。
その日。
元の世界に戻れない雅則たちは、それまでどう過ごすか悩んでいた。
美緒から
「宿に居るだけじゃ退屈だし、どこかに出かけない?」
と誘われた雅則は
「リサ。エランデルに潜入していたんだったら、どこか案内してくれないか?」
とリサに聞いた。
「どういうところを案内すればいいですか?」
「リサに任せるよ」
美緒も
「前に『なんでも屋』を紹介されて馬車で郊外に連れて行ってもらったことは
あるけど、街中は歩いてないわね」
と言うと
「思いつくようなところはありませんが、堂々と街中を歩いたことはないので
一緒に散策出来れば私も嬉しいです」
とリサがこたえた。
「じゃあ、そうしましょう。服も見たいし、美味しい食べ物屋があるといいな」
美緒がはしゃぐように言った。
リサや悠介、美緒と街の散策をして宿に戻ると、ユリから
「ギルド協会のナルーシャさんが来てほしいそうです」
と雅則は言われた。
「ナルーシャからのお誘い? いつのまに手を付けたんだ?」
悠介のからかいに
「まだ手を付けていないはずだが・・」
と雅則は真面目にこたえた。
「本当に手を付けたら、ますます美緒ちゃんに嫌われるぞ」
「美緒ちゃんは悠介に譲ったつもりだけど」
「ナナちゃんはどうだ。彼女にも嫌われるぞ」
「何なら彼女も悠介に譲るぞ」
「美緒ちゃんだけで間に合っているから。雅はリサと一緒の部屋で寝ているしな」
「ベッドは別だ」
「そこまでは聞いてない」
雅則とリサがギルド協会に行くと、ナルーシャが待っていた。
「お呼び立てしてすみません」
「何かあった?」
雅則はナルーシャからリンメイという女が来たことを聞いた。
「レベルが80。魔法は火星ですが、驚異の強さを感じました。なにか恐ろしい
ものを感じて」
「それは人族なのか?」
「だと思います。・・もしかするとスラーレン法国の魔術師かもしれません」
「スラーレン法国?」
「魔法の力を持つ人族の国らしいです。この辺りの人族も多少の魔法は使える
者がいますが、そこは魔法力に優れた種族の国だと聞いています」
「その種族の女がハンターとして入ってきた?・・やっかいなことになりそう
だな」
「私も何か不安を覚えて。しかも彼女はハーロック様と同じ宿に泊まっています」
「わかった。ありがとう」
帰り
「どうします? 殺しますか?」
と雅則はリサに聞かれた。
「レベルからしても、リサは60。彼女は80らしい。火星魔法の威力もハンパ
ないかも。しばらく様子をみよう」
宿に戻るとディナーの時間になった。
「ナルーシャが何だって?」
悠介が興味津々に聞いた。
「前にデートに誘ったことがあるんだけど、その返事」
今度は雅則が悠介をからかうようにこたえた。
「わざわざ協会に呼び出して?」
雅則は飲み物を運んできたユリに
「見慣れない顔があるけど・・」
と声をかけると
「ああ彼女は今日から泊まってくれる旅人さん」
と教えてくれた。
「彼女も狙っているのか?
悠介に言われて
「俺は悠介じゃない。ナルーシャからの呼び出しは、彼女についてだった。
レベル80の女らしい」
と雅則はこたえた。
「彼女ならもう俺がアタックしておいた」
「え?」
「彼女が宿泊するのにやってきた時に丁度出くわして、部屋を案内して
やった。彼女はエランデルに来たばかりらしい。だからよかったら街を
案内するよと声をかけておいた」
「そういうことは抜け目ない」
「こっちに来てナンパ出来ないでいたのにねぇ」
と悠介は美緒にも言われていた。
「で、彼女の目的は?」
「さあ・・」
ユリが料理を運んできたとき
「今日来た彼女。もしかしてリンメイとか言うの?」
と雅則はユリに聞いた。
「どうして名前を知っているんですか? ハーロックさんも狙っている
んですか?」
「ユリちゃんからも言われている」
悠介が雅則をからかうように言った。
「協会でハンターに登録した話を聞いたから」
「そうなの。ハンターになりたくて来たんだ。そういえばそろそろ魔物が
出る時期だし」
「え?」
「街の南側に畑や果樹を突くている地域があるの。毎年、そこのアズパイアが
育ち始めると、それを狙って魔物がやってくるの。ハンターにとってはいい
稼ぎ時よ」
「リサと散策したとき、野菜泥棒が現れた辺りか」
「じゃあ、彼女が来たには、その魔物を退治に来たのかも。ところで王国の
ほうはどうなっている?」
悠介に聞かれて
「ダマリンからの知らせがないから、今のところ再び攻めてくる様子はない
だろう」
と雅則はのんきだった。




